7

目が醒めた。
頭がふわふわして、枕から上がらない。
物理的に血が足りていないから、当たり前だ。
今は何時なのか、分厚いカーテンで日光が差さないから分からない。
ぼやけたままの頭に、昨夜のことが思い返される。

「起きたんだね、なまえ」

回想が終わりきらない間に、ベッドの脇に置いた椅子に座っていた雨竜様と目が合った。
色が赤から普段の青に戻っていて、血液不足は解消したみたいだ。
……あれだけ吸えば、当然。
思わず気まずさに視線をそらしかけて、さすがにそれは失礼だと思い直す。
けれど、結局目を伏せてしまった。

「起きて早速で悪いんだけど、これ、飲んで」

差し出された液体は、正直口にしたくない色合い。
雨竜様もそう思ってはいるのか、苦笑いしながら説明してくれて。

「浦原さんが持ってきた薬だよ。怪しいものじゃない……見た目、以外はだけど」
「は、はい……」
「それから、その、変な気分が抜けてないなら、そっちの解毒薬もある、から」
「〜〜っ、あの、」

すみませんでした、と絞り出した声は、自分のものながらあまりに小さかった。

「その、いろいろと、ご迷惑を……」
「……あれは、仕方ないことだし……いや、そう言っても気にしてしまうんだろうけど……
とにかく、顔を上げて?」

優しく促されて、言われたとおりにする。
でも、どうすればいいのか、何を言えばいいのかがわからなくて、口が中途半端に開いたまま固まってしまって。

「お、はようございます、雨竜様」

そういえば朝の挨拶を返し損ねていたなということが妙に冷静に浮かんだ結果、なんとなく間抜けな言葉が飛び出た。
そんなでも、もう一度「おはよう、なまえ」と言ってくれるのだから、雨竜様は優しいなあと思う。
この人に出会えて、救われて、お仕えできて、幸せだなあと思う。
すっかり高くなった陽の光を浴びながら、心の底からそう感じられた。


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