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「さぁてっと、着きましたね」
西流魂街一番地区・潤林安。
案内した先の平原で、隊長は荷物を下ろした。
ガシャン、と金属質な音がする。
実験と言うからには、何か器具が入っているんだろうか。
「隊長、中身はなんですか?」
「ん、開けてみます?」
促されて、包みをほどく。
「……浅打?」
脇差ほどの刀が三振、それぞれ色の違った鞘に収まっていた。
そのうち赤い鞘のものを取り出して、隊長が答える。
「惜しいっスね。浅打を基礎に改造した、ちょっと特殊な刀っス」
「改造って、そんなこと可能なんですか?」
「簡単ではないですけどね。能力については、なまえサンに実際に試してもらったほうが早いっスかね……」
脇差が、私に差し出された。
鞘を払った中には、一切使われていない白刃。
改造したと言っても、外見はやはり浅打そのもの。
このかんじだと、能力が変わっているんだろうか。
「私は何をしたらいいですか?」
「まず、鋒を向こうの岩に向けて」
「はい」
「それから、鬼道を打つんス。ただし手じゃなく、鋒に霊圧を集中させるかんじでお願いしますね」
「鬼道の番号はどのあたりにしますか?」
「そっスね……手堅く"白雷"から行きましょ」
指示通り、霊圧を鋒に込めるようにしてみる。
これで正しいのかどうかもわからない。目的もわからない。
ひとまず、やってみるしかないか。
「破道の四・白雷!!」
馴れた詠唱を唱えた瞬間。
鋒から、空気を震わせて白い光が走った。
岩が貫かれて、わずかに砂ぼこりが舞う。
予想外の腕への反動で後ろに倒れた私を、隊長が受け止めた。
「っと、スイマセン、両手で持っといてもらうべきでしたね」
「あの、隊長、これは?」
まだしびれる腕を抑えながら、聞いてみる。
さっきの光は、見た目も効果も間違いなく白雷だ。
回答は、ほとんど思った通りだった。
「鬼道射出専用、いわば手の延長になる斬魄刀です」
これがあれば、一人でも鬼道の連携や連続打ちが簡単になる上に、肉体への負担も減る。さらに、射程も多少は伸びる。
隊長いわく、利点はこういうことらしい。
手が増えるなり伸びるなりしたらいいのに、と私も鬼道の練習で思ったことはある。
それを、実現してしまうなんて。
「鬼道が打てましたから、ひとまずは成功っスね……
まだまだ開発中ですし、正直なところただの思いつきの産物っスけどね。どうでした? 使った感覚」
「……すごいです。思いつきでも、こんな」
姿勢を立て直して、隊長を見上げる。
興奮のあまり片言状態の誉め言葉に、隊長の口元がほころんだ。
「そこまで誉めていただけると嬉しいっスね。なまえサンこそ、噂通りの腕前で」
「そんな、この刀があったから、」
「いやいや、すごいっスよ。まさか最初からこの刀を使って打てるなんて、思ってもみなかった」
笑みが、先刻薬品を混ぜていた時と同じ、形容しがたい色気を帯びる。熱っぽくなった、綺麗な目。
実験が成功したのだから、当たり前といえば当たり前。
今は、視線の先は試験管じゃなくて、私だ。正確には私の鬼道かもしれないけれど。
「なまえサン、もしよかったら、これからも定期的に実験に付き合ってくれますか?アナタの助力があれば、完成が更に近づく気がするんス」
覗きこまれるように、目を合わせられる。
一種の狂気さえ帯びた眼光に、目眩がした。
薬品のように、どろどろに溶かされそう。
「もちろん、いつでも……!!」
視線に浮かされたまま、頷く。
すると、刀を持っていないほうの手が、隊長の手に取られた。
「一緒に、完成目指して頑張りましょうね」
「は、はい!!」
三度目の、隊長の手の感触。
思わず口角が上がるのを押さえられなくて、かといって刀を握ったままのうえにしびれた手では隠せない。
苦肉の策でうつむいたら、隊長はそれをどう受け止めたのか、頭上から笑い声が降ってきた。


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