21

「さて、準備はいいっスか?」
計器を揃え、並んだ四人に問う。
「ウチはいつでもええで」
「ねえねえ、あたし二番目でいいんだよね?」
「そうデスよ。ワタシが三番目で」
「ほんで殿しんがりがオレや」
鬼道を避けられる機動力か、対抗できる鬼道の腕、そして過去の面識をもとに人員を選んだらしい。
いまのところ虚化の力を最も使いこなせている白サンがいるのも頼もしい。
「なまえサンの鬼道の威力は、通常時の比じゃありません。そもそも、戦法そのものを変えてくる可能性もあります。わかってらっしゃるとは思いますが、油断は禁物です」
告げながら、殿しんがりを務めると言った平子サンのほうを見やる。
髪に隠れて、目も表情も見えはしなかったが。
一番手のひよ里サンとなまえだけを囲んで、地下空間に結界を張る。
ひよ里サンとなまえサンの距離を確認してから、虚化を止めて容態を安定させていた術を解く。
詠唱を進めるごとに湧き出すのは、禍々しく重い霊圧。
詠み終えた瞬間、現れた髑髏面の口から、絶叫が溢れた。
「20分もいらんわ、ウチの番で終わらしたる!!」
飛び掛かったなまえサンが、馘大蛇の峰打ちで吹き飛ぶ。
彼女の突っ込んだ岩場が砕けて、崩れた岩と土埃で、その向こうの戦況はまったく見えなくなってしまった。
霊圧を探った限りは、ひよ里サンが優勢だ。
結界の端から端までを駆け回っているあたり、少しでも体力を削る算段をしているらしい。
「浦原殿、結界を広げましょうか?」
「いえ……まだ良いでしょう」
徐々に二人が、再びこちらへ来る。
目が眩むほどの鬼道の閃光と、白刃の煌めき。
戦況自体はこちらの有利のままだが、内在闘争もそうとは限らない。
なまえサンの外見にも霊圧にも、依然変わりはない。
時計を確かめれば、早くも最初の5分が過ぎようとしていた。
「よっし、あたしは準備できた!!」
「ではテッサイサン、結界を開ける用意を。
白サンとひよ里サンが交代次第、すぐ閉じられるようお願いします」
「承知いたしました」
地面を蹴った白サンの高さに合わせて、結界がわずかに開く。
入れ替わりにひよ里サンが戻ってきたのを確認し、すぐさま閉じた結界の壁に、白雷らしき光弾が跳ねた。
「お疲れ様です。様子は?」
「叫び声がうっさい」
「そこっスか……」
「まあ、起こしてから変わりないわ」
「……そう、ですか」
結界の中の白サンは、なまえサンに近づこうとしてはいるものの、勢いを増した鬼道の連打に阻まれている。
蹴り技主体の白サンとしては、防戦一方にならざるをえない。
そうこうしているうち、なまえサンが手を突き出して、何やら大技の構えを取った。
「白ッ!!」
ひよ里サンが呼んだのに反応して、白サンが後ろへ跳ぶ。
しかしその脚に、光の縄が巻き付いた。
幅と拘束の強さを増して絡みつくそれが、振り払えそうもないものなのは歴然だ。
「テッサイサン、結界を!!」
「ハッチ行け!!」
なまえサンの指先で、光が膨らんでいく。
鬼道か、いや、違う。
「虚閃です!! 断空じゃ防げない!!」
咄嗟の叫びは、なんとか駆けこんだハッチサンに届いたらしい。
防ぐことから撃たせないことに目的を変えた彼の鬼道が、なまえサンに直撃した。
「白!! 無事か!?」
「だいじょぶだよ、ひよりん!!……しょーがないから、二人がかりにしよっか」
「賛成デス」
爆煙の向こうで、ゆらりとなまえサンが立ち上がる。
焼け焦げた服の下は、虚の仮面と同じような色に変化していた。
内在闘争の刻限まで、あと12分。


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