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「会長、明日はポッキーの日です!! ポッキーゲームしましょう!!」
「……それは、早食いとかそういう類のゲームかな?」
会長がポッキーゲームを知らない、という可能性を考えていなかった私。
思わず背景が宇宙になりそうなのを堪えて、ペンを取る。
ささっとラフ画に近いけど、ポッキーゲームを図説して見せてみた。
もちろん、イチから最後まで!!
「というわけで、キスまででワンセットのゲームなのです!!」
「……そうか、うん、わかった」
「照れてますか?」
「うるさい……!!」

―――――――――――――

「ポッキーゲーム!! 会長!!」
「なまえ、前から思ってたけど部活動は!? 生徒会室に来すぎなんじゃないかい!?」
「我らが空座一高漫研は、締切に原稿さえ出せば幽霊も可の素敵な部活なのです!!」
「なんか今、生徒会長として聞き逃せない言葉が……」
「我が部の話より、ポッキーゲームです!!」
手には、準備済みのポッキー。
会長のご尊顔、間近で見させて頂きますよ!!
「断る」
「いつになく断言!!」
「ポッキーがもったいない」
「会長がチョコのほうから食べても良いですよ?」
「そうじゃない……というか、そこまで拘る必要あるのかい?」
「もちろん!!」
会長のご尊顔を間近で拝見、からのキス!! 以外に何があるのだ!!
……とはさすがに言えないので。
「顔、近くで見たいじゃないですか!!」
よし、嘘じゃないけど本音じゃない、ギリギリラインを攻めた。
「別に顔くらい自由に見れば良いのに。ポッキーの必要性がわからない」
そっちこそわかってないな会長!!
ポッキーゲームのハラハラ感が大切なのに!!
「会長ーお願いしますよー」
「……仕方ないな」
お、折れた!! なんと会長が折れた……!!
しかもポッキー自分からとってくれるとか、どんなサービスですか。
あれ、私幸せすぎて近々死ぬのかな?
「ありがとうございます会長!!」
みょうじなまえ、我が生涯に一片の悔いなし。
精一杯の感謝として、チョコは会長の方に。
「それ、では……」
静かな生徒会室に、ポッキーをかじる音だけが響く。
今さらながらの自覚だけど、二人きりだし、ほぼ密室だし、雰囲気がありすぎるんじゃないかな?
会長のレンズ越しの瞳が、私を窺ってくる。
これは、こっちからギブアップしたくなってきた。
あんまりにも、良い意味で心臓に悪い。
「……まだ?」
「ふぁい?」
無理だポッキー折ろう、と思った瞬間、会長からのまさかの御言葉。
「もう十分近いかと」
「キスまでセットなんだろう?ほら」
……待ってください会長。なんかさっきまでとキャラ違いませんか。
「昨日なまえが親切に説明してくれただろう?有言実行」
「会、長―……?」
「なまえがしないなら、僕からしようか?」
幻聴でしょうか。
会長、貴方そんなにS寄りの方でしたか。
肩はがっちり押さえられて、ついでに頭の後ろも。
距離は限りなく、ゼロに近い。
「ほら」
会長の瞳がわずかに細まって、何ですかこれ、心拍数がおかしくなる。
萌え、とか叫ぶ余裕なし。これは。
「ギブアップです会長!!」
「嫌だ」
いたずらっぽい声がして、とうとう距離、ゼロ。
本格的に、明日あたり私死ぬ。
「まだあるよね」
ああ、そういえば、ポッキーを箱丸ごと持ってきてましたね、私ってば。
「会長!! あの、無理しなくて大丈夫ですよ!?」
「なまえこそ、あんなにしたがってたのに、1回だけで良いの?」
言い回し!! 言い回し!!
絶対無自覚なのでタチが悪い!!
思わずもにゃもにゃさせていた口に、含まされた2本目。
「顔、見せてね?」
漫研の皆様。
我らがアイドル会長様は、意外にSでした。
ポッキー与えるべからず。
与えたが最後、萌え殺されます。


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