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「会長、深刻な顔してどうしたんですか?」
机を挟んだ向かいに座る会長。
姿勢はいわゆるゲンドウポーズ(指を組んで俯いてるみたいなアレ)、その眉間にはわずかな皺。
真剣な顔も格好いいですが、皺が痕になったら大変。
「生徒会の会報……もう少し華やかにって言われたんだけど」
僕にどうしろと、と嘆く呟き。
たしかに、今の会報は文字がほとんど。
一般生徒はあまり興味を持ってくれないかもしれない。
もちろん私のように、会長の書かれた字をひたすら眺めていたい人にはありがたいですよ、はい。
ただでさえ、学校の配布する手紙なんて、ちゃんと読んでいる学生は少ない。
実際中学時代の私は、生徒会会報、学級通信その他、保護者の後ゴミ箱直行でしたごめんなさい。
「イラストを入れるとか?」
「描けないんだよ……」
会長に、画伯疑惑が突如浮上してきた。
機会があれば、是非見てみたいなーなんて思いつつ。
困りましたねーと返事をして、他の方法を模索する。
写真は、この学校のポンコツ、いや、少々古めかしいコピー機では、まともに写らない。
カラーコピーなんてお金がかかって仕方ないから、許可が下りないだろうなぁ。
「やっぱりイラストしか道がないですよ」
「なまえもそう思うか……先生は、場合によっては誰かに頼んでも良いって」
会長が、目を見開く。
「そうか、そうだった」と独り言を言いながら、組んでいた指を机に付いて、私の方に上半身を乗り出した。
あ、視線が近い。
「な、なんでしょう? 見つめないでください!? 死にます!!」
「死なれちゃ困るな。今、君には大役が出来たんだ」
「はい?」
なんのこっちゃ、話が見えない。
「会報のイラスト、描いてくれないかい?」
「はっ……!?」
不意を衝かれたせいで、変な声が出た。
慌てて口を押さえて、言葉を反芻する。
会報のイラストを、私が?
会長が、私にお願いごと?
ていうか、会長の書かれた文字と、私のイラストの共演?
何これ初めての共同作業ですか違いますねすみません。
黙りこんだ間を、会長は私が迷っていると解釈したらしい。
「もちろん、無理にとは言わないよ。部活の都合とかもあるだろうし」
いえ、そのあたりは大丈夫です。
心配いただいてありがとうございます。
黙ってるのは、今口を開いたら、日本語の形を成さない何かが発せられそうだからで。
ようやく落ち着いた。
お受けします、と言おうとしたら。
「その、駄目……かな? なまえ」
どうして私は、レコーダーを持ち歩いていないんでしょうか。
今、ライフゲージ的なものが一撃でごっそりなくなる幻覚が、たしかに見えました。
衝動のまま、机に頭を打ちつける。
会長が慌てて名前を呼んだけど、貴方のせいですからね!?
あんな、すがるみたいに言われて、断れる人がいるでしょうか。いません。
断る気は、元からないですけど!!
「慎んでお受けいたしますですはい!!」
「良かった、ありがとうなまえ」
そこで笑わないで私の手を握らないでー!!
この人無自覚なんですかねえちょっと!!
感謝の言葉なんてもったいない、むしろ私なんぞで良いんですかね。
「私、多分部活内で1番下手ですけどもっ」
「そうなの? 僕は結構、君のイラスト好きだけど」
「ぁぁぁぁあ会長ちょっとあのっ!?」
握られたままなせいで、今度は口を押さえられなかった。
会長に褒められたよ!? 嬉しいよ!?
叫んじゃったよどうしよう!?
言ってしまったからには仕方ない!!
「私に死なれたら困るんですよね!? ちょっとしばらく黙って頂けますかっ!? あの、テンションが!!」
「だ、大丈夫かい!?」
だからそこで!! 私の顔を!!
覗きこんだらダメですってば!!
「会長ほんと、あの、」
「す、すまない……あれ、僕が悪いのかこれ……?」
「会長は無自覚なんです!! その、動き一つを遠くから見るだけで、私は死にそうなんですよ!!ましてやそれを間近でなんて!? 飛んで火に入る夏の虫!?」
「本当に大丈夫!?」
うろたえる会長に、ひとまず手を離していただいて、深呼吸を3つ。
叫んだせいか、生徒会室の埃混じりの空気のせいか、咳が出た。
「すいません、落ち着きます」
「そうしてくれると助かるよ……」
「すいません……」
「そんなに落ち込まないで? そういう所も含めて、僕は君が好きだし」
くぇ、と喉の奥で変な音がなった。
心臓が、鼓動を早める。
「………………………会長」
「なんだい?」
「もう1回叫んでいいでしょうか」
「良くないよ!?」
「会長が悪いです!!」
どうしてこの人!!
こんなに無自覚で私を悶えさせるんですか!?



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