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ひとつ、
琥珀石を火に落とす。
――研究室は乾燥しますね……蜂蜜紅茶でも淹れようかな。
ひと束、
証券を焚べる。
――もう少し、お金にも執心したほうが善いですよ?
耳飾りの枠ごと、
翡翠を燃やす。
――こういう装飾は慣れないんですけど、変じゃないですか?
首飾りの銀鎖と
蒼玉、もうひと束の証券を飲み込んで、得体の知れない色を揺らめかせる焔。
その中へ、
紅玉を投げ入れる。
――わたし、貴方の目がだいすきなんです。
空になった布袋を打ちやって、別の袋の紐を解く。
宝石など、何にもならない。
或いは ならば、何か意味を見出しただろうか。
美しいだとか、身に着けてみたいだとか、予想の範囲を超えることのないありふれた思いを、ありふれた言葉で、
「誰だ」
過ぎり続ける声へ投げかけた問いに、当然応えは無い。
退屈の余りにとうとう気でも触れたかと疑ったが、目の前の世界は昨日と同じ、虚ろにざらついた砂色。
そうでない時が有ったことは、これ迄一瞬たりとも
――龍彦さん。
取り零して、足許に転げる石。
止まった指が、火の粉を浴びる。
これよりも熱く、それでいて生温い温度を、知っていた。
知っている。
「 」
呼ぼうとした名が、閊える。
誰だ、君は何なんだ、一体誰だ。
柄にも無く惑う視線が、先刻落とした金褐色の球体と見合う。
違う、埋めるべき空白は、行間は、これではない。
その声は、空白とも行間とも呼べぬ程に瑣末な言葉ばかりを吐くのだから。
そうして僅かな隙間に這入り込んできて、いつしか――
膨大な石を喰らった焔が、
最期の音をたてて消えた。
そうだ、私が焦がれるのは、消せぬ程に強く輝かしいなにかで有って、決して、手をかけてやらねば弱り潰えるような、
淡い煌きでは無かった筈なのだ。
――龍彦さん、私のことは
「ああ、そうしようとも」
燐寸の火を、紙屑と融け欠けた石の中に加える。
水の流れにも似た音を立て、逆さに向けた袋から宝石を一度に捨てて。
焔が、再び揺れる。