言ってはいない

どうしたら私は、皇帝補佐様に振り向いていただけるのか。
それを知るべく、今日は銀架城をうろうろして、みなさんにアイデアでも貰おうと思います。
超個性的な皆様なら、きっといい案があるはず!!
まずは、数少ない女性メンバーに。


「いっちょ恋の大爆発を起こしてください!!」
「あたしアイツにキョーミないから」


つれないぞ、バンビさん!!


「じゃあ雷に撃たれたような衝撃を」
「灰になるけどいいか?」


5ギガジュールは困りますよ、キャンディさん。


「女子力ください」
「力のある女の子は、人を選ぶと思うの……」


でも可愛いですよ、ミニーさんは。


「死んでも一緒っていい響きですよね?」
「えっ、なまえちゃんボクのゾンビになってくれるのっ!?」


ゾンビは嫌だよ!! ジジさん目をキラキラさせないで!!


「三大欲求繋がりで…」
「そりゃハナシに無理があるぞ」


ですよねー。


「つーか、相談なら他の奴にしろよ。オレたちじゃまともな案は出せねーよ」
「ちょっとそれどういう意味よ!!」
「別に」


突っかかるバンビさんから顔を背けて、どこからともなく出したりんごにかじりつくリルさん。


「ありがとうございましたー」


次は、誰のところに向かおうか。
と思っていたら、目の前に愛しの人影。


「ぺるるーーん!!」


てるてる坊主のごときフォルム、不気味可愛いぺるるんことペルニダちゃん発見!!
躊躇なく抱きついて、フーデッドコートの感触を満喫した。


「………ル,ア」
「苦しいからやめて、と言ってる」
「ご、ごめんね!!」
「ルア……」
「いいよ、だってさ」


心の広いぺるるんマジ天使、そしてリジェさんいつも通訳ありがとう。


「で、なまえ、今日は僕らになんの用?」


ざっくり説明ののち、アドバイスを求めてみた。


「こう、あなたの心を狙い打ち?みたいな」
「貫通してもいいなら協力するよ」


貫通はめっちゃ困ります。虚じゃないんだから。


「…………」
「自分にできることはないけど、がんばれ、って」
「ぺるるん大好きーーー!!!!」


最後にもう一回抱きついてから、二人に別れを告げる。
さてさて、次は?


「ナナナさんだー」


今日も、ゴーグルと謎セットの髪型が目立つ。
歩き去る前に取っ捕まえて、アドバイスを頂戴しよう。


「無防備なとこに何かしら仕掛けりゃ1発だろ、そんなもん」
「あの人に無防備な瞬間があるとでも……!?」
「……ねぇか」


アドバイス自体はまともなんだけど、対象が悪かった。
仕方ない、次だ次!!


「ジェラルドさん、奇跡の力をお貸しください」
「ん?いったい何を願うのだ?」


はいはい、説明説明。
聞き終わったジェラルドさんが、うむむ、と唸って首を傾げた。


「残念だが、我の力は貸せん!!」
「えっ」
「奇跡とは、この世の何をどうしても実現できないことを引き起こすためのものだ。貴様の願いは、充分実現できる!!」
「わ、私絶対あの人に嫌われてるんですけど!?」


私を見る目付き怖いもの、お付きの人に向ける目とまったく違うもの!!
正直その目付きすら好きとかは置いといて!!


「心配するな!! 諦めなければ、必ず叶う!!」


ジェラルドさんは、大きな手で私の肩をばっしんばっしん叩いてから、マントを翻して去ってしまった。


「痛いんですが……」


力加減してほしかったです。ちっとも悪気がないだけに辛い。
肩を抑えつつ廊下を進むと、ぼさぼさ黒髪発見。


「あ、ニャンゾルちゃん」
「その呼び方はやめろって言ってるらろー」


二枚舌(物理)の彼にも、意見聞いてみようかな。
さっきまでの説明に、私が絶対嫌われてるという前提を追加して。


「もう少し、素直に考えてみたらどうなんら? 卑屈すぎるんらよ」
「素直に……ってやっぱ嫌われてると思うけど」
「らからー、そのじぇんていが卑屈って話らよ」


まっすぐ見ないと、見落とすものもあるんらから。
ニャンゾルちゃんらしからぬ台詞を残して、ぺたぺたと向こうに行ってしまった。


「まっすぐ……か」


うーん、どう解釈しても嫌われてるんだけど。
現世には"つんでれ"なる性格?があるらしいけど、その次元じゃないと思うし。
首をひねりつつ歩いていたら、脚に何かがぶつかった。


「あっ、ゴメンナサイ」
「ジェイムズくんだ、マスキュリンさんは?」
「ミスターは、後ろデス」


言うやいなや、眩しい色の星柄マスクが登場。
相変わらず、ヒーロー感がすごい。
一応この人にも聞いてみようかな?


「声援を送ってみる、というのはどうだ」
「声援ですか」
「うむ。戦いの中での声援には、士気が上がる。
その士気を送ってくれる者は、自ずと大切にしたくなると思うのだが」


思ったよりまともなアドバイスだー!!
一応とか言ってしまってごめんなさい、マスキュリンさんイズヒーロー。


「もちろんワガハイは、ジェイムズが大好きだぞ!!」
「嬉しいデス、ミスター!!」


仲良し二人組を見送って、なんだかほっこりした気分。
……になったのもつかの間、急に辺りがひんやりしだした。
元々廊下は寒いけど、これは話が別だ。
震える私のすぐそばの柱の影から、ぬうっ……とひょろ長い人が現れた。


「サッキカら、何ヲ聞キ回ッテヰル?」
「のののノトさんでしたかびっくりした……」
「僕ニハ聞カナヰノ? ドウシタら、ハッ」
「名前出したらダメーーー!!」


どこで聞いてるかわからないんだからあの人!!
ノトさんの口を抑えようとしたけど、マスクにトゲがついているのを思い出して、慌てて手を引っ込めた。


「吊リ橋効果、ッテヰウノヲ知ッテる?」


ノトさんいわく、人の脳はときめいた時のドキドキと、恐怖や驚きのドキドキを区別できないらしい。
つまり吊り橋のような怖い場所では、一緒にいる人を好きになりやすいとかそういう理論。
あれ、なんだか、話の流れが読めたぞ……
裏づけるように、闇色の目がにっこり(多分本人的には)微笑んだ。


「僕ノ能力ヲ使ッテ、二人デ怖イ目ニ遭う。ソレデ、アイツノ脳ヲ錯覚サセレバ」
「お断りします!!」


ときめくより先に精神崩壊するわ間違いなく!!
そもそもあの人に、恐怖とかないでしょ。


「残念ダ、効果アルト思ッタノに」


丁重に再度お断りして、逃げるようにその場を去った。
早足で進んだ先に、見慣れたアイツを確認。


「バズビーちょっと聞いて」


ニワトリ頭の肩をがっちり捕まえて、強制的に振り向かせる。


「まーたユーゴーの話かよ、なまえ」
「それもそうなんだけど、ノトさん怖いとか他の話もさせて」
「なんだか知らねえが、まず離せ」


長くなるし、二人で近くの段差に腰かけた。
色んな人に相談して、たくさん話を聞いて。
結局私にできることはあるのか、という根本的な疑問を抱いたこととか。


「取り敢えず、なんでかなりの騎士団員と気軽に話せるのか聞いてやるべきか俺は」
「私のコミュニケーション能力ナメないでよ」
「そのままユーゴーにも話したらいいだろ?」
「ムリムリ恐れ多い!! ていうか嫌われてるから!!」


バズビーが、あのな、と呆れ声でこぼす。


「ニャンゾルにも言われたろ? 卑屈すぎってよ」
「卑屈というか、事実なんだけど……」
「俺にはそうは思えねえけどな、ユーゴー見てる限りは」
「そっかな……」


必死に、今までのことを思い返してみる。
グラスを割ったときとか、最初の頃に震えすぎて水こぼしたときとか、うっかりバンビさん達の喧嘩に巻き込まれて重傷状態になったときとか……
あれ、私ハッシュヴァルト様に迷惑しか掛けてなくないか?


「どうしよバズビーぃぃ……!!」
「え、どうした急に!!」
「き、嫌われない原因が見当たらない……!!」
「はァ!? 泣くなよオイ!!」


泣きたくもなるわ馬鹿!!
子供みたいに大泣きしてたから、近づく靴音が聞こえなかった。


「私の部下と何をしている?」
「ユ、ユーゴー……!!」


バズビーの焦ったような声で、初めて顔を上げる。
ずっと高いところにある蒼い目は、相変わらず綺麗で、冷たかった。


「なまえ、何をしていた」
「ざ、つだん、です、多分」


蒼色が、きゅうっと細くなる。
あぁ、怒らせてしまってるな、これは。
私は本当に馬鹿だ。大好きな人に迷惑かけてばかりで。


「申し訳ありません、仕事に戻ります」


もう少し休み時間は残ってるけど。
バズビーが引き止めようとしてくれたのを振りほどいて、段差を駆け降りた。

――――――――――――――――――――

「オイオイ、人前に出られる顔してねぇけど大丈夫か、あんた」


私が掃除担当になっているエリアで、食事中の人影。


「今はほっといてください、ナックルヴァールさん」
「あー……取り敢えずこれ食うか?」


いつもの編み籠から、タマゴサンドを1つくれた。
自作なのかお付きの誰かが作ってるのか、とにかく美味しいんだ、これ。


「美味しいです」
「そりゃ何より。食って寝て、忘れちまえばいいさ。悪い記憶なんか、溜めても毒にしかならないしな」


ぼろぼろぼろぼろ、後から後から涙が出てきて、目の前でナックルヴァールさんが焦りだした。


「ごめんなさい、ナックルヴァールさんは悪くないんですけど、すみません」
「お、おう、それはわかってるけどよ、放っとく訳にも」
「……忘れられたら良いんですけどね」


たった一回、例の重傷状態から回復した後に、気遣われたうえ、普段の仕事に感謝してもらえたことを思い出してしまったから。
それだけで、何十年とがんばってこれたんだ。
お世辞だとしても、ミスばかりの私を褒めてくれた。


「よくやってるよ、あんたは。俺から言うのは筋違いだろうけど」
「いえ、ありがとうございます」
「……あんたが大人しいと妙だな」


大人しいというか、すさまじく落ち込んでいるというのが正しいんだけど。
これも食うか、と差し出されたハムサンドをかじりながら、目の周りを拭う。
完食して、お礼を告げてから、掃除作業を再開した。

白い大理石が、なんとなくハッシュヴァルト様を想起させる。
冷たく私の影を反射するそれを、無心で磨いた。
すると、影が二つに増える。ふよふよ浮かぶそれは、間違いなくこの人だ。


「なまえちゃーん、お悩みかナっ?」
「ぺぺさん……」
「ミーにはわかるよ、ラヴのお悩みだねっ?」
「そうですけど、今はほっといてください」
「冷たいなー」


ステッキを回しながら、ぺぺさんが私の前に回り込む。


「ミーの能力、使おうと思わない?」
「……つかい、ません。嘘なら愛されたくないです」
「本当なら、構わないってこと?」
「望みはないですけどね。そういうことですから」


ふーん、と面白くなさそうな相づちが聞こえて、ぺぺさんはまたふよふよとどこかへ消えた。

自分で口にしておきながら、望みがないとか悲しいな。
せっかく磨いた床に、涙がぱたぱた落ちる。
もう一回掃除しないと、と思うけど、しゃがみこんだまま動けない。
響かないように、声を殺して泣くしかできない。
後ろからカツンカツン、硬い足音がする。
誰かくるなら、どかないと。


「なまえ」


低い、冷たい、大好きな声。


「お邪魔して、すみません。ハッシュヴァルト様」
「構わん。そのまま聞け」


ばさり、白いマントが覆い被さる。


「ナックルヴァールから"お前の従者が人前に出せん状態だからなんとかしろ"と言われてな」
「……すみません」
「構わんと言っている。お前がそうなっているのは私のせいだろう」
「いえ、その、ハッシュヴァルト様に責任は」
「いいから、聞け」


布ごしのくぐもった声からは、感情が読めなかった。
まだ、怒ってらっしゃるのだろうか。


「お前は、何事も急くのが悪い癖だ」


いきなりお叱り。やっぱり怒ってる。


「いつ私が、お前を嫌っているなどと口にした」
「……はい?」


仕事の話じゃないんだろうか。
思わず素で返事をした私に、ハッシュヴァルト様が答えを尋ねる。


「口にはしてないですけど明らかに態度?目付き?その辺りがですね」
「……それはすまなかった」


緊急事態!! 上司から、皇帝補佐様から謝罪を受けた。
なんだこれは、いよいよ意図がわからない。
実は誰かのなにかの罠じゃないんだろうか!?


「私の背後にいるのは本当にハッシュヴァルト様ですか!?」
「他に誰がいる?」
「だって、怒らせたり困らせたりばっかりで、嫌われてないはずないですし」
「下らない失敗に腹をたてるほど、狭量ではないつもりだが」
「く、下らないことないですよ!?
いつか思いっきり水かけたのをお忘れで!? 他にも色々…」


あのときも今日みたいに、構うなって言われたけど、濡れた髪の下から見える目が、めちゃくちゃ怖かったのはよく覚えてる。


「そもそも、嫌っているなら、いつまでも従者にし続けてはいない」
「嫌いじゃないんですね、私のこと」
「言い換えればそういうことになる」
「……ありがとう、ございます」


よかった。よかった。
ハッシュヴァルト様の言葉を噛みしめていたら、また涙が溢れてきた。
マントを頭まで被って、震えているのがわからないように全身を覆いかくす。

すると、布越しに頭に触れられた。
いつも大剣を握るその手は、慣れない様子ながら優しく私を撫でる。


「落ち着いたら、また仕事に戻れ。これを返すのは後でいい」
「はい」
「……なまえ、お前の働きには感謝している。これからも頼んだ」


返事をするより先に、遠ざかっていく足音。
なに、いまの。本当に私への言葉?


「は、ハッシュヴァルト様!!」


マントがない分、いくらか細く見える背に叫ぶ。


「これからも精進いたしますので!!
『嫌いじゃない』から『好き』になってください!!」


振り返った表情は、驚愕の色。それがやがて、含みのある笑みに。
妖艶さに見とれて、自分が何を口走ったのか理解するのが随分遅れた。


「お前が『好きではない』と言ったこともないのだがな」


カツン、カツン、また足音が遠ざかる。
被っていたマントがずるりと肩から落ちて、それと同時に膝を折った。


「言い逃げはずるいですよ…!!」


床に広がるマントを拾い上げて、抱き締める。
まさか捨て置くわけにもいかなくて、羽織って作業していたら、また出くわしたナックルヴァールさんに思いっきりニヤつかれたことをここに記す。


言ってはいない
たしかにそうなんだけど、分かりにくい。

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