よくあるLoveとLikeの話 「ティキーー!! 聞いてよ!!」 「はいはい、今日はどうした?」 まあどうせフラれたかフッたんだろ?と思いながら、俺の隣にやってきたなまえを見る。 外のにおいがするから、外出先から直行してきたんだろう。 「酷いんだよあの人ってば!! 実はね……」 それはそれは予想どおりの内容を、つらつらと語っていく赤い唇。 今の(あ、もう前の?)相手の趣味に合わせた化粧らしいが、正直似合ってない。 そのまんまのほうが、可愛いのに。 「……というわけでこっちからフッた!!」 「そりゃ仕方ないよなぁ、フッて正解正解」 「また時間ムダにしちゃったよーーなんであんな人に惚れてたんだろ……」 ひととおり話すと、先刻までの勢いが嘘のようにメソメソしだす、というのもお決まりのパターン。 そうなったら俺は、無言でなまえの頭を撫でる。 「ティキ、ありがと、大好き」 「家族が泣いてんだから、優しくすんのは当たり前だろ?」 これもお決まりのやり取り。 毎回毎回、気軽に大好きとか言うなよ、バカ。 きっとなまえの大好きには、家族としての親愛しか込められてない。 だから俺も、家族としてなまえに接する。 なまえが泣くと動揺するのも、優しくしたくなるのも、家族だからだと必死に思い込んできた。 最後のこんな会話から、2週間ほど経った頃。 「はぁあ!? なまえに見合いぃぃ!?」 「そぉだよー。また新しいコネでも作るつもりなんじゃなぁい?」 ノアとしてのなまえは俺たち同様貴族だから、いつかは来る話なんじゃないかとは思ってたけど。 「ティッキーはさぁ、それでいいの?」 「いいって、何が」 「わかってるくせに、ごまかすんだ?」 ロードが、紅茶のカップの淵から、子供らしからぬ鋭い視線を投げてくる。 「要するに千年公が言いたいのはぁ、」 「早く素直にならないと、どこの馬の骨とも知れない奴になまえをあげちゃいますヨ」 「ってことでしょ?」 「……しれっと混ざんないでくれます?千年公」 いつからいたんスか、と尋ねれば、最初から外にいて、頃合いを見計らって入ってきたらしい。 何してんだ、この人。 「千年公、相手も貴族なんだから、どこの馬の骨かは知れてんでしょ?」 「もぉー、そういう問題じゃないってば!! ティッキーのバカバカバーカ!!」 「でっ!! 殴るなよロード!!」 「まぁまぁ、やめてあげなさイ」 「千年公が言うならしょうがないなぁー」 何がしょうがないんだよ、痛いぞこのやろ。 椅子に腰かけた千年公の膝の上に、ロードが移動する。 メイドアクマが持ってきた紅茶に、ヒくほど大量の砂糖を入れながら、千年公が話を続けた。 「それで、お見合いの話デスが。 あの子はティキぽん同様放浪癖がありますから、落ち着いてもらう意味でもいい機会だと思ってまス」 「暗に俺にも落ち着けって言ってません?」 「おやおや、カンが冴えてますネ」 「……それはともかく、あいつに結婚とか無茶ですよ。 普通に誰かと付き合うのだって、半年ともってないんだから」 最長で5ヶ月と3日、だったはず。 あれ、なんでこんな覚えてんだ、自分気持ち悪いぞ? 「結婚しちまったら、大体家でじっとしてなきゃなんないでしょ? そういうのも明らかに向いてないし」 「よく見てますネ。やっぱりティキぽんとなまえが」 「結婚しませんよ。 少なくともあっちにその気はありませんから」 「つまりティッキーはいいんでしょぉ?」 ああしまった、つい言っちまった。 「……今さら、言い出せるわけないだろ」 のろけ話、愚痴、泣き言。 そのループを何回も聞かされて、嫉妬やら相手への怒りやらで死にそうになりながら、"家族"としての俺を演じてきたのに。 ティキはいつも私の話を聞いてくれるね、1番大好きな家族だよ。 いつか言われた言葉を、どんな顔して受け止めたか。 気持ちを伝えたが最後、俺はあいつにとって"1番大好きな家族"じゃいられなくなる。 だけど、他の奴のものになるのなんか論外だ。 「ティッキーに選べるのは、二つだけだよ。 素直になるか、なまえを誰かに渡しちゃうか」 「わかってる」 「なまえは優しいから、コネ作りのためだって言えば、受け入れちゃうかもねぇ」 「……知ってるよ、そんなの」 どれだけ見てきたと思ってる。 「お見合いは3日後デス。 相手があの子を気に入れば、さらに1週間後にもう1回会うことになってますので、参考までニ」 死刑宣告のようなスケジュールを聞きながら、はい、と気の入らない返事をする。 テーブルの紅茶はとっくにぬるくなっていて、飲んでみても味なんかわからなかった。 ───────────────── 「ティキ、どうしたらいいと思う?」 「どうしたらって、何が?」 「今日、お見合いしてきたの。千年公が紹介してくれた人と」 よそ行きだった服から、すっかり楽な格好に着替えてなまえが言う。 ソファのひじ掛けのところに手をかけながら、座っている俺を見下ろすようにして、話は続く。 「思ってたより良さそうな人だったな。 もっと、お金持ちの悪いとこ固めたような人が来ると思ってたから」 「会う前からひっでぇな……」 「しょうがないじゃん、私って貴族基準だと行き遅れに近い年だから、なおさら」 「気に入った? その相手のこと」 わざわざ尋ねなくとも、気に入ったのはわかってる。 町中でかっこいい人を見つけた、と言いにくるときと同じ表情してるから。 「うん、期待が低かった分もあるけど。 来週また会うことになったよ」 予想どおりとはいえ、とっさに返事をし損ねて、歯噛みする。 頭の中に、この前ロードに言われた言葉が甦ってきた。 なまえは優しいから、コネ作りのためだって言えば、受け入れちゃうかもねぇ。 「あのさぁ、」 どうせ、完全に元通りにはなれないんだ。 だったら言ったほうがずっと良い。 「俺がもし、行くなって言ったらどうする」 「……ティキ?」 思いの外弱々しくなった声に、なまえが戸惑う。 覗きこんでくる顔には、まだ薄く化粧が残ってる。 千年公プロデュースだからか、この前の真っ赤な口紅なんかよりずっと似合った化粧。 「結婚ってことは、今までみたいに自由にできなくなる。 そこらへん、ちゃんとわかってるか?」 こんなの、逃げてるだけだ。 ただ単純に、お前が好きだから他の奴のものになるなってだけなのに。 「わかってるけど、コネ作りだって重要だし」 「優しいよな、なまえは」 「……どうしたの、今日のティキ、変じゃない? 今まで、私を止めたことなんかなかったし」 「止めたいと思ってなかった訳じゃねぇよ」 ひとつ口にしてしまえば、後は流れるように感情が出てくる。 「お前が、いろんな奴にフラれて泣いて、 そのたびに『俺にしとけ』って言おうとして、そのたびに留まってきた。 お前が、気軽に大好きって言うたびに、 俺のこと家族としてしか見てないんだって突き付けられて、狂いそうだった。 これから先ずっと、お前が誰か他の男のものになるのなんか、耐えられねぇよ」 すぐそばに置かれていた掌を捕まえて、指を絡める。 「行くな」 絡めた指に、力がこもった。 「……ばか、てぃき」 「バカで良いよ、コネとかもうどうでもいい、お前が好きだから、渡したくない」 「……バカ!!!!」 「っあだっ!?」 空いていたほうの手が、脳天にヒット。 何、そんなに嫌だったのか!? 「ずっとずっと家族だからって言われてきて、 だから諦めてきたのに、遅いよバカティキ!! いっぱいムダな時間過ごしちゃったじゃんかぁ!!」 「え、ちょっと待って、何言ってんの?」 「バカティキーーー!!!!」 「ちょっと待て待て!! ちゃんともう1回話せ!!」 降り下ろされ続けるチョップをガードしつつ、どうにか説得して話をさせる。 言うことには、 俺がなまえのことを家族としてしか見てないと思っていたから、恋を諦めて、他の人を探そうとしていたと。 「つまり何?俺たち、お互い盛大にすれ違ってた?」 「……だって、ティキが、家族が泣いてたら優しくするのは当たり前って」 「いやいや他の家族にここまでしたことねぇから」 「そんなの知らないもん」 ぐす、と鼻を鳴らしながら、なまえが言う。 「私が、恋愛のほうの"好き"を押しつけちゃったら迷惑でしょ。 だから、"家族だから好き"って言ってきたの」 「……ほんとさぁ、優しすぎるよお前」 頬を滑っていく涙を拭って、その跡に唇を乗せる。 塩辛さの中にちょっとだけ、化粧品らしき合成物の味。 「改めて、俺の"好き"は恋愛の"好き"な訳だけど。 お前の"好き"は?」 「れ、恋愛、デス……」 なんで片言、と思ったけど、口にするのは気恥ずかしいらしい。 ああ、やっぱり可愛いな。 「そんじゃ、1週間後の予定はお断りってことで?」 「うん」 「ハイ、把握しましタ」 「……だからしれっと混ざんないでくれます!? 千年公!!」 よくあるLoveとLikeの話 リビングでイチャついてるほうが悪いんですヨ |