黒い鶴の話

倒れ伏して、ばらばらに霧散していく自分の手と、止めを刺そうと近づく"俺"の足を視界に捉える。

どうして今際の際になって、きみの言葉を思い出すんだ。
――意図はどうあれ、歴史を変えることは、
その中で生きた人の生きざまを否定することだと思う。

違う、きみの生きざまを否定する気は毛頭なかった。
ただきみに、消えてほしくなかったんだ。


俺の隣で命を閉じたいと、そう言っただろう。
本丸の襲撃であっけなく殺されるなんて結末、
あっていいはずがない。
こんな結末は、認めない。

真赤に染まったきみを抱いて、思考と体は真黒に染まっていく。

嗚呼そうだ、認めたくないならば、変えてしまえばいいじゃないか。
きみだって、自分自身のこんな未来を知ったら、変えたいと願うだろう?
きっと、俺と"同じ側"に来てくれるだろう?


きみがいた時間に飛んで、きみを奪ってしまおうとした。
見馴れた本丸を駆けて、きみを探して、掴まえて、骨と化した手を、いつもしていたようにきみの頬に滑らせて。
そうしたらきみは、悲鳴を上げて"俺"の名を呼んだ。

応えるように飛んできた白い影と、刃を交える。
相手は"俺"だ、戦い方は同じ。
俺のほうが未来からきた分、錬度は高いはずなのに。
気づけば、胸を貫かれていた。


なぜ邪魔をした、"お前"は俺なのに。
ここで俺を殺せば、後悔するのは"お前"なのに。
なぜわからない、きみの呼んだ"鶴丸"は俺なのに。
なぜ俺は、愛した者すら救えずに死ななければならない。

恨み言は吐血に変わって、玉砂利を汚す。
転がっていた刀を拾おうとした指先が、青くゆらめいて砕けた。
どうやら、本当にここで終わりらしい。

狭まっていく瞳に、震えるきみが映る。
泣かないでくれと思うのは、ムシが良すぎるだろうか。
きみのために未来を変えようとして、
きみを泣かせるとは、ずいぶん皮肉な話だ。

違う、本当は。
未来を変えるのは、俺の自己満足だとわかっていた。
今ここにいるきみを拐っても、俺の亡くした"きみ"が還ってくるわけじゃないことも、わかっていた。

なあ、きみ。
そこで涙を流す君じゃない、あの日散った、俺の"きみ"。

馬鹿な俺を、許してくれるかい。
きみの危急に駆けつけられなかった、不甲斐ない俺を。
きみの忌む存在に堕ちて、好きだと言ってくれた白色を、失った俺を。
きみの歴史を、変えようとしてしまった俺を。

こんな俺でも、その御魂に寄り添うことだけは許してくれるかい。

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