続・声は途切れて 「お、やっぱりお前には見えてるんだ」 そこにいるはずのない彼が、目の前にいる。 最後に見たボロボロの姿ではなく、手入れされた直後のような 完璧な姿で。 そっと、自分の本体に手を掛ける。 偵察は苦手だと言っていた彼は、それを目敏く見つけて 苦笑した。 「ずいぶん警戒されてるんだね、まー仕方ないか」 「当然さ。君が彼を騙る物怪の類なら、斬らなきゃならない」 「……えーと、どうしたら信用してもらえる?」 紅を塗った爪で頬を掻きながら、彼が問う。 「そうだね、とりあえず主の好きなところ10個言うのはどうかな」 「何それ馬鹿なのお前」 「君は主のこと大好きだったから、それくらい余裕だろう?」 「そうだけどさ!! あぁもうちょっと待てよ10個に絞るから!!」 指折り数える途中で、あ、と何かに気づいたような声が上がる。 わずかに細められた不満げな視線が、僕に向けられた。 「お前さっき『主のこと大好き"だった"』って言ったけど、俺は今でも主のこと大好きだからね」 言いたいことはそれだけのようで、すぐに数える作業に戻る。 指は、既に9本まで折られていた。 「もういいよ、今ので君がちゃんと本物だってわかった」 「え、主の好きなところ10個に絞る苦行の意味は!?」 「前から思ってたけど、君時々長谷部くんみたいなこと言うね?」 「はぁ!? あれと同列はやめてよ!!」 あーもー損した損した、とぼやきつつ、彼が縁側の僕の隣に腰かける。 幽体というわけでもなく、きっちり質量はあるようで、わずかに木材の軋む音がした。 ますます、目の前の存在の正体がつかめない。 物怪でも幽霊でもない、けれどもちろん刀剣男士でもない。 「とりあえず物怪じゃないのは理解したけど、本当にどうやって顕現してるんだい? 依代である刀剣本体は、破壊されただろう?」 「あー、うん、俺もはっきりはわかんないんだけどさ。 ここで破壊されたのは俺が最初だから、先例もないし」 「はっきりは、ってことは、なにかしら予測はつけてるのかい?」 「……俺たちってそもそも、刀剣に宿る思いを、主の霊力で目覚めさせたものだろ?」 いわく、折れた本体に残された"この本丸の加州清光"の思いと主の思いに、主の霊力が知らぬ間に呼応した結果、こんなことになっているんじゃないか、と。 残された思いの種類が通常と違う上に、 正式な顕現の手順を踏んでいないせいで、 この中途半端な状態なのかもしれない、とも。 「困ったことに、還ることもできなくてさ。 顕現を解こうと意識しても、いつも引き戻される」 「……引き戻される、か」 あの日、主がこらえた言葉を思い出す。 『愛してるから、』その先に続くのはきっと『いかないで』だ。 願いは、実に残酷な形で叶えられてしまった。 彼は確かに逝かなかった。 でも彼は、主の目に映らない。 当然主は、彼を求め続ける。 その想いが、彼を引き戻してしまうのだろう。 傍目から見れば、相手に執着しているのは彼のほうだった。 主の目移りを恐れるあまり、希少な刀剣を喚ばないよう、本人すら気づかない程 密かに呪ったり。 主が長く本丸を空ける際は、誰より快く送り出した後に、誰より寂しそうにしていたり。 けれど存外、主のほうが彼に執着していたのかもしれない。 無意識のうちに相手を繋ぎ止めようとするところなんて、そっくりじゃないか。 「君たち二人は、本当にいい関係だったねぇ」 「いきなり何? まぁ悪い気はしないけど」 深すぎる絆は、枷になる。 笑えない話だよ、まったく。 |