自信過剰な恋模様

真子と喧嘩をした。
と言っても別れるとか深刻なものではなく、一夜あけた今では、何が原因だったのかも忘れてしまうような、そんな下らない喧嘩だ。
下らないからこそ謝るのもなんとなく癪で、一切言葉を交わさずに過ごして、もう半日くらいになる。

どうしよう。
まさかこの先ずっと話さないわけにもいかない。
というより、話せないのは嫌だ。
真子のことは、ちゃんと好きだもん。
正直なところ、私が拗ねているだけなのはわかってる。
けど前述のとおり、謝るのも嫌だ!!

かなり自己中心的な悩みごとを抱えつつ外に出ると、ハッチが世話をしている野良猫に出会った。
そうだ、動物でも触って、とりあえず気分を変えよう。
ゆっくりしゃがんで、猫と目を合わせる。
じぃっと私を突き刺す、一対の燐光。


「あ、」


普段なら触らせてくれるはずの猫が、ぷいっと何処かに逃げてしまった。
ハッチが「猫は不穏な雰囲気に敏感なんデスよ」って言ってたな、そういえば……


「なーにしとんねん、お前」


視界に、猫にかわって革靴が映る。
いつもなら名前で呼ばれるところを"お前"と言われたことに、胸が痛くなった。
偶然かもしれない、けれど、本気で嫌われたんじゃないかと思ってしまう。

苦しくて、怖くて、顔を上げられずにいると、頭の上になにかが乗せられた。
ガサガサと音をたてるそれは、たぶんコンビニのビニール袋。
持ち手は真子が持ったままのようで、不安定な頭上でも落ちる様子がない。

私が変わらず動かないでいると、真子が目線を合わせてきた。
袋を持っていないほうの手が、私の顔のすぐそばで、親指と人差し指で丸を作る。
ただしその丸は、顔に対して垂直。
意図を瞬時に読み取って後退りをしようにも、しゃがんだ状態、それも足元は近場の外出用のサンダルでは叶わない。

結果、予想通りデコピンされた上に、尻餅までついてしまった。


「なにすんの!?」
「こうでもせんと、口利かへんやろ」


じわじわ痛む額をさすりながら叫べば、呆れたように真子が言う。
見事思惑に引っ掛かったのが悔しくて、ざりざり砂を鳴らしながら、背を向けた。
はあ、と小さなため息がして、ずり落ちたビニール袋がまた乗せられる。


「拗ねとんの丸わかりやぞ、なぁ」
「すねてない、怒ってる」
「嘘つけ。なまえ、お前、本気で怒っとる時は泣き出すやろが」


ああ、もう。


「きらいだ、真子なんか」


私のことなんかわかっていると言わんばかりの態度も、そうして言い切ってしまえるほど私を見てくれているのも。
私のすべてを、その手で握られているようで。


「いつも余裕そうで、きらい」


今も私は、こうして口にすることで嫌われないか、びくびくしながら喋っているのに。
だったら言わなければいいと自分でも思う、それでも言葉が止まらないのは、黙ったら泣き出してしまいそうだから。


「そうか、俺はなまえのこと好きやけどな」


笑っているようにも聞こえる声が、すぐ隣からする。


「お前も俺のこと好きやろ?」


そういうところがきらいなはずなのに。
余裕そうな真子のそばにいると、余裕そうな言葉を聞くと、とても愛しいと感じて、不思議と安心してしまうんだ。


「……好きだよ」
「最初っから知っとるっちゅーねん、そんなこと」
「自信過剰っていうんだよ、真子みたいな人」
「なんでもええわ、なまえが好いてくれる限りはな」


自信過剰な恋模様
まあでも、嫌うことなんかあらへんやろ?

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