Only You !

距離感、というものはよくわからない。
物理的なそれではなくて、精神的な話だ。

たとえば、彼が同じ部活の女子と仲良さげに話していることに、嫉妬してもいいのか。
ひいてはそれを、本人に伝えてもいいのか。

部長だの生徒会長だの、連絡の多い立場は理解しているつもり。
それが私なりの"距離感"というか、節度だった。
しかし、私にも我慢の限界というものはあるわけで。


「………えーと、なまえ?」


これはどういう状況、と聞きたげな戸惑った視線が、少し上から降り注ぐ。
私の両腕の間には雨竜、そして後ろには壁。
有り体に言おう、逆ドンだ。

とはいえ雨竜をひっぱるような力は私にないから、
身体測定みたいに壁に背をつけて立たせて、
その両サイドに手をつく、という、ドン要素は1ミリもない過程で成り立った状況なんだけど。


「急にどうかしたのかい?」
「うん、まあ、その」


いざこうしたはいいものの、どう切り出そうか。
何を話してたの?
あの子とは、仲良いの?
どれもこれも、雨竜の気持ちを疑うみたいだ。

あれこれ思案しているうちに、手のひらが壁の温度で冷えてきて、その冷たさを背中全体で受けているだろう雨竜に、申し訳がなくなってきた。


「なまえ?」
「あ、あの、私のこと好きだよね?」


考え抜いた末にこれとは、私の頭はちゃんと働いていたんだろうか。
結局疑うような物言いだし、何言ってるの、私。

目を合わせていられなくなって、思わず勢いよく俯く。
すると、雨竜の手が私の顎をくい、と上げた。

強制的に再びぶつかった目は、少し怒っているようにも見える。


「好きじゃなかったら、こんな状態を許してないよ。
この答えじゃ、不満かい?」
「不満じゃない、けど、不安」
「心変わりでもしそうって思う?」
「だって、雨竜、いろんな子とよく話してるし」


ここまできたら同じことだ、全部全部言ってしまえ。


「部活も違うし、生徒会員でもないし、一緒にいる時間が私より長い人がいっぱいいるし。
頭ではわかってても、やっぱり怖いよ」


壁についていた手で、雨竜の服を掴む。
すると、閉じ込められた状態から解放された雨竜が、私を両腕で抱き寄せた。

そしてそのまま器用に半回転して、気づけば私の背中が壁に。


「う、雨竜?」
「……追い詰めるような真似するみたいで、悪いけど。
なまえこそ、さっきずいぶん浅野君と楽しそうだったね」
「あ、浅野君って、あれはただの世間話だよ?
浅野君にそんな感情ないし」
「わかってるよ。わかった上で言ってる」


右肩に、雨竜の頭がずしりと乗せられた。
ため息が、肩口にかかる。


「不安に思ってるのは、君だけじゃないっていうことだ」
「っ、」
「僕はなまえだけ見てるから、」


なまえも、僕だけ見てればいいんだよ。


耳のそばで聞こえた、甘い台詞。
すぐに唇を塞がれて、返事の言葉はかき消された。


Only You !
わざわざ言わずとも、でもやっぱり言葉にして

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