救世主は

うーん、どうしようか。
目の前の状況を見つつ、心のなかで呟いた。

ここ浦原商店は、町外れにあるせいか、たまにあまりよろしくない人達がやってくる。
そんなときは大抵テッサイさんの(物理的圧迫感を含めた)威圧感で追い払ってもらうのだけど、今日は生憎出掛けている。
喜助さんも品出しで地下に行ってしまったし、しばらくは出てこないだろう。

しかし、寂れた駄菓子屋の店員をナンパしにくるとは、よほど周りに女の人がいないんだろうか。
なんだか若干哀れになってきたぞ?
遊びに行こう、と言いつつ迫る手を、そっと避ける。


「すみません、仕事がありますから」
「どうせこんな店、誰も来ないって」


実際あまり人は来ない、けれど。
大事な居場所を"こんな店"呼ばわりされたんじゃ、腹がたつ。


「仕事ですから」


刺激しないようにと和らげていた声が、無意識に冷たくなった。
途端に、周りが不穏な雰囲気を帯びだす。
ああ、やらかした。
距離を詰めてくる相手から逃げるように、住居スペース側へ後ずさる。
ざり、ざり、と不毛な駆け引きを数度繰り返していたとき。


「どーもォー、いらっしゃいませー」


気の抜けた声と共に、背後から腕が伸びてきた。
肩の上から腕を回すように、がばっと抱きつかれる。


「……何してるの、喜助さん」
「いやぁ、背中見てたら無性に抱き締めたくなりまして」


腰に下がってきた腕が、さりげなく私を下がらせた。
よろめいた所を、ぽすんと胸板で受け止められる。
見上げてみた目は、少しも笑っていなかった。


「それで、お客さん方?
商品なら今出してきたところですし、いくらでもどうぞ。
それ以外の何かをお求めなら、お代は高くつきますが」


降ってくる声の低さに、私まで肩が強張る。
怯えた気配を感じたのか、「大丈夫っスよ」と喜助さんが囁いてくれた。
一瞬前が嘘のような、優しい声で。

凍りついた空気に、ばつが悪そうな様子で退散していく人達。
その姿が完全に消えると、ふぅ、とため息をつく音がした。


「いやー、なんとか間に合いましたねぇ」


言いつつ、手近な店番用の椅子に腰かける喜助さん。
腰に腕を回されたままの私は、自然と喜助さんの膝の上に座ることになる。


「よかったよかった、一安心っス」
「もしかして、私がついていっちゃうかもって思ってた?」
「いいえ? それはまったく。
なまえサンはアタシのこと大好きでしょう」


笑いながら、私の頭の上に自分の顎を乗せてきた。
顎が痛い、無精髭が頭皮にささる!


「ただ、怖い思いさせちゃいましたね。スミマセン」
「いいよ、助けにきてくれたし」
「……そう言ってもらえるとありがたいんスけど」


ぎゅう、と抱き寄せる力が強くなる。
上を向いてみると、額にひとつ唇を落とされた。


「ちゃんと、護りたいんス。なまえサンのこと」
「私そんなに弱っちくないよ?」
「そういう問題じゃなくてですね……
アタシというか、男の自己満足みたいなものかもしれないっスけど、好きな人のことは完璧に護りたいんスよ」


バカみたいでしょ、自嘲的な呟きとともに、また唇をひとつ。


「ずーっと抱き締めて、ずーっと護れたら最高っスよねぇ」
「それはちょっとヤンデレじみてないかな……」


喜助さんと四六時中一緒、なのは悪くないかもしれないと思うあたり、私も大概毒されているけれど。


「あーそれにしても、なまえサンって綺麗な背中してますね、ほんと抱き締めたくなります」
「ぶち壊しだよ色々!! 顎ぐりぐりすんのも止めて痛い!!」
「いーじゃないっスか、減るもんじゃなし」


救世主は
残念なイケメンというやつか、これは

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