好きの気持ちは一直線 ぼさぼさした黒髪が、首を不機嫌そうに掻く手が、仕草が、好きだなぁと思う。 マスクをしている口元も、たまに覗くギザギザの歯も、獰猛さを隠した目も、というかもう全部好き。 ……あれ、いま私の居る場所から影浦くんの目が見えるとはつまり、影浦くんがこっちを向いているということでは? まずい、またこっそり見ていたのがまたバレる。 思わず曲がり角に隠れる直前、影浦くんの近くに居たC級隊員の首が吹っ飛ぶのが見えた。 どうも私に気づいた訳じゃなく、彼らが向ける感情に苛立っていただけらしい。良かった、バレずにすんだ。 それにしても相変わらずカッコいいなぁ、目にも止まらぬ速さのマンティス!! 「それで隠れたつもりか、あァ?」 「ひぇぇ!?」 前言撤回、普通にバレていた。 字面だけ追えば完全に悪役なセリフも、影浦くんなら似合ってしまう。カッコいい!! 「今日もカッコいいね影浦くん」 「またそれか、いい加減飽きろよ」 「影浦くんいつもカッコいいから、それはないかな!!」 私が思うままを口走るたびに、影浦くんが首のあたりを触る。 さっきC級の子達に対して取っていたのよりは、すこしだけ仕草が柔らかい気がするから、私の感情はさほどイヤな感触じゃないんだろう。 ありったけの"好き"を込めてるんだから、当たり前だけどね!! 「用が無ェなら、ヒカリんトコでも行ってろ」 「それは自分の隊に来いってこと?」 「違ェ!!」 だって今のはどう聞いてもそうじゃない?と思ったけど、なんでも光ちゃんが、次はいつ私が隊室に遊びに来るのかと影浦くんに聞きまくっているそうで。 なんだ、プロポ…………勧誘じゃなかったのか。 でも光ちゃんにそれだけ待たれているということは、着実に外壁が埋まっていると考えてよし。 「ゾエさんはいける……後はユズルくんか……」 「オイ何企んで……いややっぱいい言うな」 「え**私の話聞いてよ」 「今度ヒマな時にな」 ……それ、大人が子どもに「また今度ね」って言うのと同義のやつかな? 現に既に何回か、これと同じこと言われてるし!! 悲しい!! 「そのウソくせぇ泣き顔やめろ」 「バレたか」 せっかく光ちゃんと一緒に雑誌で学んだ『たまにしおらしいところを見せてイチコロ!!』作戦は、さらっと失敗した。 「何教えてんだヒカリのヤツ……」と影浦くんは呆れ顔で。 ……やっぱり気心知れてるんだなぁ、影浦くんと光ちゃん。 このやりとりから2週間。 晴れやかな午後。 「待てっつってんだろコラァ!!」 私と影浦くんの立場が、いつもと完全に逆転しています。 追い掛けられてみたいとは思っていました。 でもそれはキャッキャウフフな雰囲気でのアレであって、こんな恐ろしい鬼ごっこじゃない。 相変わらずセリフが完全に悪役だよ影浦くん、今日はそれが怖いよ影浦くん!! 周りは見てみぬフリだし、影浦くん脚早いし!! いつの間にか目の前は壁!! 意外と行き止まりが多いよねボーダー本部!! 「そこか!!」 「あ゛ーーーーーー首チョンパはナシでぇぇぇぇぇぇぇぇ」 とっさに何叫んでるんだ私。 絶叫が功を奏したのか、飛んできたのはスコーピオンじゃなくて、影浦くん本人だけだったけども。 「ようやく捕まえたぞテメー……」 あんなに走ったのに息切れのひとつもなく、言ってみてほしいセリフランキング7位くらいの言葉を影浦くんが言う。 もしやこれは憧れの壁ドンが待っていたりするのかな?と一瞬期待したけど、全然そんな展開は無かった。 というかまず、身長高くて手足も長いので、ドンしなくても逃げ場がなかった。 「変な感情向けて来やがるわ、訳聞き出そうとしたら逃げやがるわ、何なんだよここンとこ」 「変、って?」 「いつもの変なヤツに、なんか別のヤツが混ざってて気色悪ィ」 さらっと酷いこと言われなかったか今。 私はいつもどおりの気持ち、つまり影浦くんかっこいいなぁと思いながら見つめていただけで雑念はないし(そして変でもないと思いたい)、逃げたのは単に影浦くんの形相がめちゃくちゃ怖かったからなんだけど。 ……うん、さすがに私でも逃げるレベルだったよあれは。 「ねぇねぇ、その混ざってるのっていつから?」 「あー……だいたい10日前」 10日前当日は、本部に来ていない。 そこ前後で何かあったかなぁと、脳内影浦くんアルバムをめくってみると―――― 「心当たりあったかよ」 「あー……るー……」 けど言えないなぁ、これ。 影浦くんの隊の仲間に、私の友達に、あろうことか嫉妬してたとか。 影浦くんと光ちゃんはそういうのじゃないってなんとなく分かるけど、モヤモヤするものはモヤモヤするし。 もしかしたら私だけが知らないんじゃないかなぁって、そんな可能性だって浮かんでくるし。 ちらりと見てみた影浦くんは、首のあたりを気にしている。 今考え事しながら抱いている感情、もしかして伝わってる? だって仕草が、いつもより不愉快そう。 はやく、はやく何か言わなければ。 どうしよう、正直に言えない。 影浦くんは、口にも態度にもはっきりは出さないけど、隊のみんなが大好きだから。 絶対言えない。言ってしまったら、私は嫌な子だ。 影浦くんに嫌われるのは、それだけは――――怖い。 「かげ、」 頭を上げたら、影浦くんが、見たことのない顔をしていた。 驚きと、他の何か。 私には、そこに何が含まれてるのかなんてわからない。 ただ"刺されたみたいな顔"なんて、ありふれた表現が頭に浮かんで。 「……そんな "みたい"じゃない、私が、"刺した"んだ。 怖いって思った感情が、影浦くんを刺した。 C級の子たちなんかが、何も影浦くんのことを知らないでやるのと同じに。 「ちがう、」 でも、私の"怖い"は、他の人が影浦くんに向けるそれとは違う!! 「影浦くん、違うから、」 こんな少女漫画みたいなセリフが、まさか自分から出てくるとは。 変に冷静な部分は頭に残っているのに、口はぜんぜん上手く回らない。 掴んだ隊服の裾を今にも振りほどかれそうで、焦りがつのっていく。 ――――言葉が出ないなら、感情で訴えるしかない。 話聞いて。違うから。私の"怖い"は違うから。 影浦くんのこと、大好きだから!! 「……離せ」 「ヤダ」 「話聞いてやっから離せ!! あと痒ィからなんか色々向けんのやめろ!!」 指の間から、隊服が抜けた。 どこかへ行ってしまうつもりは無いとわかっていてもやっぱり心細くて、つい握り直してしまう。 「あの、」 多少待ってもらったところで、ちゃんと言えるとは言ってない。 というか、光ちゃんが影浦くんの仲間であるという要素を抜きにしても、好きすぎるあまり他の女の子に嫉妬しましたとか、本人に一対一で言うのって恥ずかしすぎないか。 「か、かげうらくん」 いつもみたいに「んだよ」とか言ってほしいのに、さっきまでの雰囲気の名残のせいか、まさかの沈黙キープ。 頼む、喋って、お願いします。 この静けさの中で好きだとか明言してしまえば、本格的に逃げ場がない。いつもと状況が違いすぎる。 でも、好きの気持ちには変わりがないのでどうしようもない!! 「痒ィからやめろって言っただろそれ!!」 やっと喋ってくれたと思ったら怒られた!! それってどれだろう、痒いけど嫌そうではないから、すぐ引っ込める必要は無さそうだけど。 首の辺りと、痒さの発生源つまり私を物凄く気にしながらも、なんだかんだ私が話し終わるまでは離れなさそう。 ……そういうところも、やっぱり好き!! 影浦くんが、とにかく好き!! 「聞いてんのかなまえ!! だからそんな 好きの気持ちは一直線 あんまりにも心の中がいっぱいで、名前を呼ばれたことに気づくのが一瞬遅れた。 |