蒼い無限ループ 霊子の輝きにも似た、青い目。ふわふわ靡く、金色の髪。 通った鼻筋も、白い肌も、それからそれから・・・ 「王子様ですよね」 「なんの話だよ一体」 「ハッシュヴァルト様のことですよ」 「まーたそれか、毎日毎日、よく飽きねぇなぁ」 少し先の人影を見て、感嘆の息をつく。 次期皇帝だし騎士団の最高位だし、立場的にもぴったり。 「ま、見てくれは悪くないわよねー」 「バンビさんもそう思います?」 「手ェ出そうとかは思わないけどさ。そーいうのが通じるヤツじゃないし」 そんなとこも素敵だと思いますよ、と言えば、5対の瞳が一斉にこっちを見た。 思わず一歩後ずさると、ジジさんが一歩近づいてくる。 「ホントにスキなんだねーッ」 「どっかのビッチどもよりいいんじゃねぇの、一途で」 「リル、あんた喧嘩売ってんの!?」 「吹っ飛ばすわよ!?」 「誰もお前らのことだなんて言ってねぇよ」 「ケンカはよくないと思うの…」 始まりましたよ、星十字騎士団名物・バンビーズのケンカ!! 最初はキャンディさんとバンビさんがリルさんに詰め寄っていたのが、なぜか途中からキャンディさんとバンビさんの二人の争いに。 「付き合ってらんねぇ……」 「馬鹿だよねーッ、二人ともッ」 「巻き込まれるのは嫌ですぅ」 「あはははは……」 離脱した三人と一緒に、のんびり観戦としましょう。 と、思っていたら。 「あれ……ヤバくねぇか」 バチリ、白い光がキャンディさんの掌に満ちる。あれは、間違いなく雷霆の能力だ。 「え、どうします!?」 「逃げるが勝ちじゃない?」 バンビさんの霊圧が上がってきていて、冗談抜きで危険。 キャンディさんもそれに呼応するように、霊圧をますます高める。 「オイッ、なまえ!!」 リルさんの声が、どこか遠くに聞こえた。 まわりの霊圧に、体がついてきてないんだ。 膝が崩れて、震えが止まらなくなる。 呼吸が変になってるのはわかるけれど、直せない。 「バンビ、キャンディ!! 止まれコイツが!!」 頭が、冷たい石畳につく。 体温も力も、そこから奪われていくような。 「…にを……して…お前たち……」 霊子の青い発光と、霊圧の上昇が、ぴたりと止まる。 真横に倒れた体を、誰かが受け止めた。 ――――――――――――――――― 私の部屋の寝具は、こんなに柔らかかったでしょうか。 天蓋なんて、ついてなかったはずだし。 手の力で上体をおこすと、広々した空間の全体が見えた。 バンビさん達の部屋より、装飾品が少ない。というか、知らない部屋だ。 てっきり、あの五人の部屋のどれかだとばかり。 え、ここはどこ。 何より気になるのは、隅のほうに、ハッシュヴァルト様の侍従の方がいること。 いやいや、まさかとは思いますが。話が出来すぎでしょう。 「目が覚めたか」 ドアが開いて、聞こえた声。 聞き間違いだ聞き間違いだ、たぶんこれ、まだ気絶してる私の夢。 「霊圧にあてられたのだから、まだ動くな」 闇に映える、金と青と白。夢にしては、鮮やかすぎる。 改めて見ると、本当に 「おうじ、さま」 「……何か言ったか」 聞こえてなかったみたいで、よかった。 侍従の方に何やら二言ほど指示をしてから、王子様もといハッシュヴァルト様が、私にもう一度「寝ていろ」と言う。 もう夢だろうが現実だろうが、どうでもよくなってきてしまった。 きっとこんなことは二度とない。この際だ、話しかけたりなんてしてしまおうか。 「あの、バンビさん達は」 話題なんて、これくらいしかないけれど。 「今、呼びに行かせた」 「まだケンカされてました……?」 「私が止めに入らなければ、そうなっていただろう」 ああ、切れ切れに聞こえた制止の声も、私を受け止めたのも、ハッシュヴァルト様だったんだ。 「陛下は争いを好まれないというのに…」 「す、すみません」 「お前が謝ることではない」 原因の一部は、私なんですが。まさかそこまでの経緯を話すわけにもいかず。 「……ところで」 「は、い」 嘘だ、ハッシュヴァルト様のほうから、私に何か言おうと!? 動転しながら、返事をする。 「お前は」 「なまえ、あんた起きたのねッ!?」 空気読んでくださいよ、バンビさんってばもう!! 開け放たれたドアから続々と、他の四人もやってきて。 「あいっかわらず殺風景だなー」 「そーだねーッ」 「べつに男の人だし、それでいいと思うの……」 きょろきょろするキャンディさんたちの隙間から、小柄な影がひょいとベッドに歩み寄る。 「なんか、何重にも悪ィな」 「なはははは……」 リルさんは悪くないんです。 むしろ、誰も悪くないんですけども。 もう少しお話していたかったな、結局何を言おうとしていたんだろう。 当のハッシュヴァルト様は、目を伏せてため息をひとつ。 それすら美しくて、また呼吸が変になりそう。 「お前たち、騒ぐなら出ろ」 「そーだぞ、なまえの様子見にきたんだろが」 「あ、様子見なくても、たぶんもう平気です」 自室よりはるかに快適なのは分かっているけれど、ここで休むのは不可能だ。 心臓に悪すぎるんです。 たとえば、今寝転がっているベッドだって普段は、普段は………… それに思い至った瞬間、私は自然と寝具から抜け出していた。 サイドに揃えられていた靴に脚を通して、一歩踏み出す。 訂正、踏み出せなかった。 眩暈がして、体が傾ぐ。 今日2回目だよこれ。 また頭打っちゃうのか、と思ったら。 「だから、まだ寝ていろと言っただろう」 これも、今日2回目だ。もっとも、1回目の記憶はないんだけど。 視界は白一色、肩には、支えるように置かれている手の温度。 私の頭は、ハッシュヴァルト様の胸にうずめたような格好で。 「なまえ、もう少し休め」 「いえ、だいじょうぶっ」 頬に、もう片方の手が添えられる。 ひんやりしてるなぁ、なんて思うのは、自分の顔が熱いせいだ。 「どうしたなまえ」 熱でもあるのか、とおでこのほうに手がずらされて、指先が何の気なしに耳をかすめる。 もうだめだ、完全に、限界。 支えられた肩と反対の真横に倒れて、また抱きとめられて。 間近で見た瞳の青さを焼付けながら、今日2回目の気絶。 青い無限ループ 次に起きたら顔を覗き込まれていて、また気絶した |