清光と夕餉の話 「懐かしいなー、主の卵焼き」 みっちゃんや歌仙の作るそれと比べると、ずいぶんガタガタの卵焼きを口に運ぶ清光。 黄色いそれを咀嚼した後に運ばれるのは、炒めたニンジン。 今日修行に旅立つ清光からのリクエストどおりに、清光だけ皆とは別に作った夕飯は、なんというか、質素極まっている。 「主?食べないの?」 「た、食べるよ、いただきます」 自分で食べても、なんの特別さもない品々。 むしろ自分で作ったが故に、だいたい味の想像がついてしまって、もはや虚しい域に片足を突っ込んでいる気がする。 「これで良かったの?今日の夕飯」 しかも、本来は夕方から修行のための転送が解禁されているところを、すぐには行かないで、わざわざこれを食べるために出立を遅らせたのだ。 考えれば考えるほど申し訳なくなってきて、再びお箸が止まってしまう。 すると清光が、小首を傾げた。 「覚えてない?」 「何を?」 「今日の献立。よーく見て」 言われたとおりに、数口だけ減ったお皿たちを見返す。 炊きたてご飯、油揚げのお味噌汁、ちょっと焦げた卵焼き、ニンジンとキャベツの炒めもの。あとはお茶。 「……あ」 「思い出した?」 有り合わせにさえ見えると思ったけど、当たり前だった。 だって本当に、有り合わせだったんだから。 「1番最初の夜の、晩ごはんだ」 刀剣男士はご飯が必要なのかとか、何も考えずに用意した、少ない材料群からなんとか作れたメニュー。 たった3人と1匹で、荷物から出したばかりの机を囲んだんだった。 「ご、ごめん、ちょっと忘れてた」 「いいよ、あれからほんと忙しかったし。 それに、主が覚えてなくても、俺がずっと覚えてるから」 そう言って笑って、冷めちゃうよ、と食事の続きを促される。 私が食べるように勧めた、最初のご飯のときとは、役割が反対になった。 「なんていうか、ここでの俺の"はじまり"を確かめたくなったっていうか……うん、そういうかんじだったんだ」 食べ終えて、注ぎ足したお茶を飲みながら清光が、私に言うでもないように呟く。 「急なお願い、聞いてくれてありがとう、主」 「私こそ、」 たくさん、ありがとう。 そう伝えようとして、喉が詰まった。 本丸に就いて、2年と少し。 ずっと一緒にいた清光は、今晩から、初めて長くここを離れる。 寂しくないと言えば嘘になる。 4日間、耐えられる気だってしない。 「行ってきます、主」 頭を下げた清光のすぐ側の畳に、こらえきれなかった滴が、ひとつだけ落ちる。 「いってらっしゃい、清光、私の、最初の刀」 声が震えてしまっても、優しいこのひとは、気づかないふりをしてくれる。 それに甘えてしまうのは、今日で終わりにしよう。 次に泣くのは、清光が帰ってきたときだ。 強くなったねって、嬉し泣きするんだ。 そのために、私だって強くなろう。 それが、私たちだ。 |