水族館デート 商店の庭に、ウグイスがやってきた。 鳴くのはまだまだへたっぴだけど、梅が咲くころには、きっとホーホケキョ、って綺麗に鳴くんだろう。 うーん、春が近いなぁ。 「というわけで、デート行きましょう!!」 どっから"というわけで"なんですか喜助さん。 まだ寒いから、普通外出は控えるもんじゃないんですか。 「ウルルとジン太が春休みですから、今ならアタシたち二人が一日いなくても、大丈夫なんスよ。 だから、どこかデート行きましょう!!」 なるほど、そういうことか。 でも、行くと言ってもどこへ? 「なまえサン、寒いのお嫌いでしょう?」 ですから、とテーブルに広げられたメモ。 そこには、水族館、植物園、などなど室内のスポットが一覧化されていて。 「この中に、気になる場所あります?」 なかったら無理に答えなくて良いんで、と言われても、ここまでしてくれたら嬉しくて仕方ない。 一覧に目を走らせて、面白そうな場所を探す。 「……水族館」 大改装したとかで、小さくニュースにもなっていたそこ。 ぼんやりと、気になってはいた。 「そこが良いっスか?」 「うん!!」 「んじゃ、週末は混みますし、平日にします? そのほうが、人が少なくてゆっくり見られると思うんスけど」 喜助さんとなら、あわただしくても楽しいとは思うけど、ここはご厚意に甘えよう。 そんなこんなで、水族館デートが決まりました。 ―――――――――― 入っていきなり、大水槽。 小魚の群、なんだかよくわからない造形の大きい魚、当たり前だけど、魚魚魚…… 「すっごいなぁー……」 思わず、放心状態で呟く。 「国内2番目だか3番目だか、そのくらいらしいッスよ」 喜助さんが、さっき手渡されたパンフレットを見せてくれた。 全部で4階建て、外にも何やら展示があるらしい。 あ、今からだと、イルカショーが見られる時間だ。 「喜助さん、イルカショー見たいな」 「ん、良いッスよー」 パンフレットをもう1回見て、場所を確認。 それだけで記憶できたみたいで、パンフレットは畳まれて、喜助さんの服のポケットへ。 パンフレットを持っていた右手は、私の左手へ。 「そんじゃ行きましょっか、なまえサン」 そう言って微笑む喜助さんが、普段と違う服装のせいもあるんだろうけど、すごく格好よく見えた。 「……たった2回見ただけで、本当にきっちり場所覚えちゃうなんて」 「あっちこっちに案内ありますし、それのお蔭ッスよ?」 最短ルートであろうルートを通って、無事にショーの場所に到着。 奇跡的に空いていた最前列の席に、並んで座る。 「結構開演ギリギリなのに、なんでこんな良い席が残ってるんだろうね?」 「そッスねぇ、平日とは言え、不思議ッス」 まぁそれで私達がここに座れるんだからいっか、ということで納得。 開演まで、これが終わったら何を見に行くか相談する。 アザラシ見たいな、あとペンギン。それから、留守番の皆にお土産も買わないと。 次々話す私を見ていた喜助さんが、不意に笑った。 「どうしたの?」 「いやぁ、なまえサンが可愛いなぁーと」 「なっ……」 喜助さんのバカ、という言葉は、開演のアナウンスにかき消された。 わかってますよとばかりに、頭を撫でる大きな手。 こういう所は、敵わない。 ちょっぴり悔しくて、頬っぺたを軽く小突いた。 前置きのトークが終わって、大きな円形の水槽に、イルカが2頭ご登場。 ぐるぐると水槽を回ったり、合図に合わせて鳴いたり、色々と芸を見せてくれる。 目新しさこそないものの、単純に見ていて楽しかった。 そんなショーも終わりに近づいて、何やら、派手なことをしてくれるみたいだ。 「最後は、イルカたちの大ジャンプです!!」 大ジャンプか。2頭綺麗に揃ったら、きっと壮観だろうな。 イルカたちが、水槽の奥側から手前、つまり観客席側に泳いでくる。 2つの鼻先が、水面に浮かんで。 そして。 気がついたら、頭から水を被ってました。 タイミング悪く、まだまだ冷たい春先の風がやってくる。 「………寒っ!!」 隣の喜助さんも当然びしょびしょで、重みで折れ曲がった帽子のつばから、滴を滴らせていた。 「最前列が空いてたのって、こういう訳ッスか……」 「まさか水がかかるなんて……」 割れるような拍手と、お礼のアナウンスを聞きながら、ハンカチで髪を叩いて、とりあえずの処置。 喜助さんの癖っ毛も同じようにして、生乾きくらいの状態までもっていく。 「喫茶室とかなら、暖房器具くらいありますかねぇ?」 このままじゃ風邪ひきますよ、と喜助さん。 「多分…予定外だけど、お茶にしよっか」 ハンカチをしまって、席を立つ。 同時に喜助さんが、自分のジャケットを脱いだ。 着たままだと、冷たいのかな? 「なまえサン、何も言わずにこれ着てください」 「へ?」 いいからいいから、とそのジャケットに私の腕を通していく喜助さん。 「ちょ、これ冷たいんだけど!?」 「んじゃあ、着ないでおきます? アタシとしてはそれでも構わないんスけど……あ、いや駄目ッスやっぱり」 「意味わかんないんだけど……」 「ちょっと自分のカッコ、確認してくださいよ」 言われるがままに、服を見ていく。 オシャレと動きやすさの両立を頑張って考えたつもりの、低いヒールのブーツ、ちょっと短いスカート、それからトップスは、白いシフォン素材の………………… 「ひやぁぁぁあぁぁぁあぁ!?!?!?!?」 シフォン素材に、水を掛けたらどうなるか。 まして、白の。 正解、透けます!! 「き、喜助さんの変態!!」 「えっ!?」 完全に理不尽な自覚はあるけど、誰かに見られたかもしれないとか、今の叫びで人目を引いてしまったとかで、思考が混乱してるから、許してもらいたい。 急いでジャケットのボタンを全部閉めて、それでも心もとないから、襟を片手で握って合わせた。 「は、早く喫茶室行こう!!」 襟に当てていないほうの手で、喜助さんの手を引く。 「待ってくださいよ、場所わかってるんスか?」 「わかっ……てない」 やっぱり、まだ混乱してるみたいだ。 なんとなくばつが悪くて、赤くなった顔で喜助さんを見上げる。 「……なまえサーン」 「な、なに」 「こんなとこで、そんな顔されたら」 後で知りませんよ、と、私にしか聞かせない(と思う)甘い声で呟く。 そっちこそ、こんなとこでそんな声。 「そうだ、帰ったら一緒にお風呂入りましょっか」 一気に普段のトーンに戻った喜助さんが、楽しそうに言った。 いつもの扇子がないから、緩んだ口元が全開。 今なら、この台詞も正当だよね? 「喜助さんの変態っ!!」 水族館デート お風呂? 夜一さんと入りました |