ただそれだけ

「臆したか」


石田雨竜にかけたものと、同じ言葉で問う。


「まさか、正直予想外ではあったけど」


死神にとっては絶望に等しい事実を聞かされても、なお不敵に笑う、死神である少女。


「退けないのは、お前も同じことだ」
「わかってるって。ここに来た時点でね」


何を言おうと揺らがない瞳に射られる。
それは、結局全てを我が物にすることは叶わないと思い知らされるようで。


「忘れるな、なまえ、お前は既に我々のもの」


自らの願望を口にするが如く、告げる。


「救いはない。助けなどありえん」


撹乱用の霊子が撒かれた中で、斬魄刀すら封じられたなまえを、護廷十三隊の者が見つけ出すなど不可能。


「何もするな、ただ我々に全てを委ねればそれで良い」


我々から、私から、逃げられはしない。逃しはしない。
ただそれだけのこと。

――――――――――――――――――

白い寝具に散らばる黒い髪を、一束すくって、口づける。
神経の通っていない髪にこうしたところで、意味があるのかはわからないけれど。
伏せられていたなまえの瞼が上がって、僕を真っ直ぐに見据える。


「ねえ、雨竜」
「どうしたの?」
「大丈夫だからね。雨竜には私がいるから」


何があっても僕を守る、と言うんだろうか。
大丈夫、君はいつだってそう嘯く。
実際、完全に大丈夫だった試しなんてないのに。
身も心も傷ついて、消えない痕を増やしていく。
平気平気、私は強いから、と笑う君を見たくないんだ。

だから、僕は。
なまえがこれ以上傷を作らないように、この腕に閉じ込める。
なまえが心を壊さないように、死神たちのことも何もかも、忘れてしまえば良いと願う。


「なまえは、何もしなくたって良いんだよ?」


全てを彼方に捨て去って、僕に身を委ねて、ただ僕だけを見ていてくれたら。
そうすれば、どんな悲劇的な結末がこの先の世界にあろうと、受け入れてしまえる気さえしてくる。
僕には、君がいるから。ただそれだけの理由で。


ただそれだけ
その少女のためだけに。

[戻る] / [Top]