「あ〜〜〜、は、は、はっくしゅっっ!」
冬が終わり春が来て、あと少しで夏がくる季節、羽織りもいらないくらいの丁度いい気温になって来たと思って、私は趣味である絵を描きに小高い丘の上に来ている。
私が絵を描く時はいつもここ。
小さな子どもがいつも遊んでいる公園も良く見えるし、風影様がいる砂の建物もよく見えるから私はここがお気に入り。
「う〜〜、やっぱ日が落ちてくるとちょっと冷えるな、羽織るもの持って来れば良かった」
あったかくなっていく季節だけど流石砂漠の町、日が暮れてくると昼間の暑さが嘘のように冷えてくる。
羽織りもブランケットの様なひざ掛けも持ってこず、スケッチブックと鉛筆だけという身軽さでここまで来た私だったけど、もう少し、もう少し、と冷えを我慢して絵を描き続けるのには理由がある。
「今日は遅いなあ、木の葉にでも行ってるのかなあ」
私が絵を描き続ける理由、それは帰ってくる風影様を一目見たくて待ってるから。
、、ス、ストーカーじゃないよ?!違うよ?!違うからね?!
小さい頃に両親を亡くしてから、写真を見ながら両親の顔を絵に描いて寂しさを紛らわしてて、そこから絵を描く事が私の趣味みたいになった。
外で、しかもここで描いてると誰にも邪魔されないし、風も程よく吹くから気持ちがいい。
最初はそれだけの理由でいつもここで絵を描いてたけど、ある日風影様が新しく就任されたと街が賑わっていた時に、初めて風影様のお顔を見てから、にわかではあるがファンというやつになった。
勿論喋った事もないし、街のはずれに住んでいる私は、今の風影様がどういうお方なのかとかあんまり分からないけど、昔は街の嫌われ者だったと近所の人から聞いて、人って努力でここまで信頼されるようになるものなんだなと恐れ多いながら感心もして、そこから余計に風影様が気になるようになった。
「一回でいいから喋ってみたいよなあ、まあ無理だろうけど、な〜〜、」
「何をしている」
「はい?、、え??!!!」
か、か、か風影様?!
振り向いたら風影様?!!なに?!夢?!え?!!ほんもの???!!
「あ、や、、え、え?わ、私に言ってますか?」
「お前以外に誰がいる。」
でででですよね〜〜。私以外に誰もいませんものね〜〜。
ていうか、もしかして怒っていらっしゃいますか?
表情があまり無いとは聞いてたけど、無いというか怒ってらっしゃる様に見えるんですけどこれは私の見間違いですか?
ていうかていうか、怒ってたとしたら、何故ですかああああ
でもかっこいいいいい近くで見ても怒ってるかもしれない表情も麗しいです風影様あああ
突然の風影様に対して、掛けられた質問も無視しながら一人で百面相をしていると、突然風影様が側に来て私の持っていたスケッチブックをス、と取る。
「絵、か。」
「あ、、あ!だ、だめ!」
さっきまで描いていたページをジッと見たあと、ペラ、と次のページを見ようとしているその手を立ち上がって制止する。
が、遅かった。
めくったページの先には私が描いた風影様のお顔が描いてあり、それを見たホンモノの風影様は少し驚いた顔をされている。
「あ、、えと、えーと、その、」
「俺はこんな、こんな表情をしてたか」
「え?」
「、、いや、邪魔して悪かった。」
ス、とスケッチブックを差し出される。
そこには優しく微笑む風影様が描かれていて、自分で描いたものなのになんだか穏やかな気持ちになった。
差し出されたスケッチブックを受け取り、描かれた風影様の顔を撫でる。
「やっぱりこの表情、凄く素敵。」
「、、、そうか」
「はっ、!す、すみません!」
思わず口に出てた、、
何が素敵だよおお変態じゃんかよおお
影からこっそりみて似顔絵描いてしかも表情素敵ニヤニヤとかやばい奴じゃんかよおおお
すみませんの言葉と共に頭を下げ、どうしようどうしよう絶対引かれた風影様絶対引いてると思いながら頭を下げつづける
「頭を上げろ」
「、、い、いや、あの、」
「いいから、上げろと言ってるんだ」
「っ!?!!」
頭を下げたまま目を瞑っていたら風影様の気配が近づいてくるのを感じたと思ったら肩に優しい衝撃。
それに驚いて勢いよく顔を上げると思ったより近い人影に心臓が跳ねる。
「、あっ、か、風影、様」
「お前が描いた俺は、穏やかな表情をしていた。俺はそんな表情をしているか?」
「え?」
「俺は幼い頃、里から忌み嫌われていた。風影になってからも俺は、そんな風に、穏やかな表情ができていると思わなかった。だから少し驚いただけだ」
なんだろう、この人は私には考えられないくらいの辛い思いを子供の頃してたんだろう。
今でこそ里のみんなから信頼されてる風影様しか私はあんまり知らないけど、
穏やかな顔をできてるか今でも不安なんだ。きっと。
でも私が見た風影様はとても穏やかに里の人に微笑みかけてた。
だから描きたいと思ったし素敵だと思った。
影のある表情もかっこいいし麗しいしお近づきになりたいと思ってたのは内緒だけど。
「あ、あの、」
初めて会った私に悩みのような弱みのようなものを見せてくれた風影様の胸の内にある不安をちょっとでも私みたいなにわかファンが軽くしてあげられるならしてあげたい。
私の肩に乗っていた風影様の手を取って両手で握る。
「私は、風影様の小さい頃の事はよく知りませんが、今の風影様の事を里のみんなはとても信頼してるように思います。私、あの、いつもここで絵を描いてて、風影様が里を回っておられる事もよく見てました。里の人から声を掛けられてる風影様のお顔はとても、その、穏やかで、優しい表情をされて、ました。だから、その、難しく考えなくてもいいと思います。みんなと一緒で、私だって風影様の事、里の長として信頼してますし、好きですから」
「、、、そうか」
は、、私、今、、す、好きって!!?何言ってんの?!私?!か、風影様に向かって好きって??!引いてない?!風影様また引いてない?!
「どうした」
言いたいことを言ったまま握った手を離そうともせず急に赤面したり青筋を浮かべたりしている私を不審に思ったのか掴まれている手を解きそのまま私の手を掴み直した。
「え!?、い、いや好きとかそういう意味じゃないですからね?違いますからね?!そ、そんな不謹慎な意味じゃホントに無いですからね?!、、、っ」
な、何言ってんだ私いイイイ!
動揺隠すならもっとうまく隠せ私いいい!
これじゃ不謹慎な意味で好きって言ってるようなもんじゃないか!ああだめだもう死ぬ!死ぬしかないお母さんお父さんもうすぐそっち行く事になるからまたご飯とかお世話になりますから!
「、い、、おい」
「はっ、は、はい!なんでしょうすみません!」
「ありがとう」
「、、、へ?」
「お前はいつも、ここへいるか」
思いもよらぬ事を微笑みながら聞かれ顔が赤くなるのが分かったから思わず、このくらいの時間なら大体います!と自分でも引くくらいの大きい声で答えてしまった。
「そうか、そういえば、名を聞くのを忘れていたな」
「あ、はい!名前です!苗字、名前です!」
「名前か。ではまた、お前の赤い顔を見にくるとしよう。」
「っ!!」
先程の微笑みとはまた少し違う、小悪魔要素を含んだ笑みを向けながら言われ私の顔はきっとさっきとは比べものにならない程赤くなっているに違いない。
風影様はあんまり表情がないとか言ってたのはどこのどいつだ!
今私その無表情と噂されてる風影様に小悪魔ふんわり微笑み向けられて心乱されまくってるんですけど!
真っ赤になった顔を両手で包んでいると、ではな。と別れの挨拶をされ風影様が去って行くのを感じた。
パッと両手を外し何か言おうとスゥと息を吸う。
「ま、待ってます!ほんとにいつでも!来てください!」
背を向け、少し距離ができつつある風影様に向かってこれでもかと大きな声でいつでも待っているということを伝えると、こちらを向かず、ああ。と短い返事をくれた。
風影様が見えなくなるまで後ろ姿を見つめながら次会える時はもっと近くで穏やかな表情を私のスケッチブックにおさめたいと思った。
おわり
( 我愛羅君の笑った顔いいですよね )