とうめい

迷子の迷子の 01

とんでもない事になった。
我愛羅がいない間に暇だしちょっと散歩と思って出てきたつもりなのにもうここがどこだか分からない。
風でできた砂の波が綺麗だと下を見ながら夢中で歩いてきた結果がこれ。
そうですそうです私迷子です。迷子の子猫ちゃんとかみたいに可愛らしくない声で迷子だと気づいた瞬間から雄叫びを上げてとりあえず来たであろう方向を自分の足跡を辿る。

「あ、、」

自分の足跡が、、無い。
止まる事なく風が砂の肌を撫でていくせいで私が帰れるかもしれない唯一の痕跡、足跡が途中で綺麗に無くなっていた。

「こ、これは、、やっぱりさっきも思ったけど2回目だけどやっぱり迷子だよね、」

砂の国に住んでいて砂漠は身近なものだったけど、砂漠に入るときは国境を越えるものだから門番の人に声をかけていつまでに戻ると伝えたり国境が見えるくらいまでしか里からは離れない。
なおかつ里の外に出るときはいつも我愛羅がいてくれた。

でも今日は里の門がある場所とは違う、いわゆる抜け穴的な場所から国境を越えてきた。
なので門番の人には声もかけていなければ、我愛羅が一緒にいる訳でもない。
私が里から消えた事を知る人は誰一人いない。
しかもだ、勝手に里の外なんかに出て、忍者ではないただの一般人だけど、やましい事なんか何もないけど、何かしら疑われても嫌だし、なにより、我愛羅に勝手に里を抜け出した事がバレたなんて事になったら、、、考えただけでも恐ろしい。
だから確実に、誰かに見つかる前に帰りたい。しかも我愛羅が帰ってくる前に、だ。

「はあ、でも自分一人で帰れるのかなあ」

辺りを360度、キョロキョロと見回したせいで、もう自分がどっちから来たのかも分からない。
あてもなく、ウロウロと訳の分からないまま歩き続ける。が、

「うう、つらい、、このまま帰れなかったら、、」

自分の不注意で誰にも気づかれずにこのまま死ぬとか考えてしまって急に不安と辛さが頭をぐるぐる駆け巡りその場にうずくまる。

「シーンとしてるし、怖いし、夜になったら寒いんだろうし、、喉渇いたし!あーーん!もうやだー!」

顔を両膝に埋め、どうしようどうしようと唸る。
聴こえてくるのは静寂の中の耳鳴り、風の音、たまに鳥の声、、

「、、鳥!!」

聞こえた鳥の声に、バッと顔を真上にあげ鳴き声の主を探す。

「いた!」

鳥は止まり木で休んだりするはずだから頑張ってついて行けばもしかしたら里の近くの森に出られるかもしれないと、見つけた瞬間走りだした。

「ま、待ってええええ!」

こんな時、私が忍者ならもっと早く走れただろうにと自分の足の遅さを恨みながら必死に鳥の姿を見逃さないようひたすら走る。

「は、っ、は、、は、ああ!」

随分と走って足がもつれそうだし、鳥は待ってくれる訳もないからどんどん小さくなっていくし。
もう鳥の事も見失いそう、と思った時、砂漠の丘の向こうに緑色のモヤモヤが見えた。

も、森!森ぃいいいいい!!

「森!やった!水!水を飲ませてくれえええ!」

川でも雨水でもなんでもいいから!なるべく綺麗な水でお願いしたいけどこの際雨水でもいいから水よ存在しといてくれ!
と心の中で限界の体力を誤魔化すように呟く。

やっとの思いで森まで辿り着き、木に手をつき呼吸を整えたところで、足が少し震えている事に気がついた。

「はあ、は、私、体力なさすぎ、っ」

一旦木の陰で休もうと、砂漠の隣接しているせいで乾燥している森の入り口から少し入って、綺麗な緑になっている辺りで腰を据えた。

「ふうーーーーー、、、んん?」

森の奥、遠くの方で何かが動いた気がして、もしかしたら開けた場所があったりするかもしれないと迷わずそちらへ向かおうと立ち上がり、ザ、と音を立てて一歩踏み出そうとした時、突然後ろに人の気配がして振り返ろうとした瞬間、首に冷たい感触。

「お前、誰だ」

「っ、な、に」

明らかに殺気を漂わせる、私の首元にクナイを突きつける人。
こわい、こわい、我愛羅、助けて、、!

「見たところ忍じゃない様だが運が悪かったな、お前にはここで死んでもらう」

何も知らないただ家に帰りたかった私に突然怖い事を容易く言ってみせる忍者であろう人。抵抗も、声を上げる事もできず、ただただ動悸が止まらない事を思って、何もできない自分に悔しくなっていた。
ぐ、と拳を握りしめて、近い未来であろう死を覚悟した瞬間、後ろにいた忍者が舌打ちをした。

「邪魔が入りやがった、お前、良かったな死なずに済んで」

「、え?」

「クナイを下ろしてその娘を離せ」

私を殺そうとしてた忍者とはまた別の人の声が後ろから聞こえた。と同時に首にあった冷たい感触が無くなった。
引き続き、そのまま手を上げてひざまずけ。と言う声と共に背中の圧迫感も無くなった。
ふう、と安堵のため息を密かに漏らし、死の淵から助かったと思ったその瞬間、背中に強烈な痛みを感じ身体が宙に浮いて、そのまま近くの大木に叩きつけられた。

「つ!、っう、」

地面に倒れ、頭を打ったのか意識が薄くなっていく中で、私を襲った忍者が逃げた様子や、それを追う別の忍者を見た辺りで私の視界は真っ暗の闇に包まれた。