夏が愛した
最近、ジュンくんの様子がおかしい。いつもなら僕の言う事に生意気にも反抗してくるのに「そうっすね」と生返事をしてきたり、読んでた漫画が上下反対だったり…ユニット活動の時はヘマしないから許してるけど。まあ、理由はわかってる。
英智くんが飼ってる犬。
犬って言っているけれど正確には女の子。あの子、学校の外で見かけた事もあるけれど普段から男装をして英智くんの周りをウロチョロしているみたい。
でね、ジュンくんがいつ知り合ったのか分からないけど、だいぶ気にかけているみたいなんだよね。
「ジュンくんジュンくん、豚が宙を飛んでいるよ!」
「…そうっすね」
ほら、こんな調子なんだ。
気まぐれでジュンくんの買い物に着いていて来たけれど…ちょっとからかってみようかな。この僕を無視するんだ。少しくらい当然だよね。
「あ、これなまえちゃん好きそうだな」
「!」
少し後ろを歩いていたジュンくんは一生懸命、こちらを向かない様に顔を反らしていた。バレバレだけどね!
「女の子はみんなお花好きだよね!こういう白い薔薇とか」
「……」
黙っているけれどゆっくりと頭を縦に振るジュンくん。
「すぐに枯れてしまうのにね」
「………………」
頷いていたかと思うと顎に手を当てて考え始めるジュンくん。なんだか玩具みたい。
因みにあの子が白い薔薇が好きなのは嘘じゃないよ。落としたハンカチに薔薇の刺繍があったり、筆記用具とかにもモチーフが所々にあったし、何より英智くんが言っていたからね!
「なまえちゃん、好きなんだよね」
「は?」
「大事に手元において愛でたくなるように可愛い……」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!」
「なに?」
慌てた様子で振り返ったジュンくんはやっぱり驚いた顔をしてて、
「なまえさんが、女だって言ってるみたいに聞こえるんすけど…」
「女の子でしょ?」
「…いや、だって夢ノ咲は男子校でしょう」
「あんずちゃんは女の子だよ」
「あんずさんは試験的って……」
「ホントは気がついてるんでしょ、ジュンくん」
「…………」
気づいてないふりをしてたから言い負かしてみたけれど、、面白いくらい反応してくれるね。
「……で、おひいさんはなまえさんが好きと」
「え?なんで?」
「は?だってさっき言ってじゃないですか」
さっき?どれの事を言ってるんだろう…あ、わかった!可愛いって話していた続きね。
「なまえちゃん、愛でたくなるような可愛い白い薔薇が好きなんだよね」
「………」
「って言う話だね」
「……………っんつー紛らわしい……」
「ジュンくんは好きなんでしょ?」
「…そっすね」
あれあれ、随分と素直に認めるんだ。珍しいなと思ってジュンくんを見ると僕以上に驚いた顔でこちらを……いや、僕の後ろを見ていた。
「どうも、なまえさん」
「どうも、Eveのお二方」
なんだ、なまえちゃんがいたんだ。珍しく1人でしかも女装、ううん、こっちが本当の姿なのかもしれない。女の子が好きそうな少しだけ大人っぽい白のトップスに紺のロングスカート。それに踵のある靴を履いてる姿はどこから見ても女の子。
髪型も学園内や英智くんといる時とは違うのに………よくわかったね、ジュンくん!
「そして、よくバラしましたね。ジュンくん」
「は?何がっすか?」
「貴方のおひいさん、この格好に全然驚いてないじゃないですか」
「…ああ、いや、知ってたんですよ」
夢ノ咲には生徒会の女の子みたいな子がいるからなまえちゃんが男の子って言われても違和感ないけど、外では違和感あったよ。顔だけは可愛いからね。
「今の格好の方が身の丈に合ってると思うよ!うんうん、君のこんな格好が見れて今日はいい日和!」
「貶しているのか何なのかわからない発言はやめてください。私は別にいい日和ではないので」
「気にしなくていいっすよ」
ジュンくんが中々、彼女に目線を合わせようとしないし、せっかくのアピールタイムなのに何も言わないから僕が御手本としてアピールしてあげたのに、まだ素っ気ない態度をしてる。
ホントに手が掛かるね、ジュンくんは!
「ねぇねぇ、ジュンくん!僕は用事が出来たから先に帰るね!」
「は?!1人で大丈夫なんすか?」
「すぐそこの夢ノ咲学園に寄っているから大丈夫だよ!」
「ちょっ、おひいさん!」
ここはちょっと2人に任せて遊びに行こう!僕がいてもつまらないしね!
僕は空気も読めて、いい事した気分!さすが僕!うんうん、今日もいい日和!
「…いいんですか、おひいさん追いかけなくて」
「あーもー…ああなったおひいさんは止められないんでいいっす」
「心配なら帰りに学園へ行くのでお送りしますよ」
「いや、それなら俺も一緒にいきますって」
その方が長くいられるからとか思ってる時点でヤバいですよねぇ…自覚はしてますよ。
だけど、こんなとこで偶然会えるとかないですよ。普通に考えて、他校の人なんて友達じゃない限り会わないですからね。俺ら友達ですらねぇですし。
だからこれは逃がしちゃいけねぇなと思ったんですよ。誰に言い訳してるのかわかんなねぇけど。
「なまえさんはどこ行くとこだったんですか?」
「…えっと……」
なんだ、この間…あ、待て。こんな格好して1人で歩いてるとか、男に会いに行くような…
「ぱ、パフェを…」
「……パフェ?」
「…食べたくて」
「………」
かわいいかよ。
なんつーの?ああ、可愛いが過ぎる、だ。パフェ食いたくてこんな格好して外歩いてたんすか?帽子のつばを持って照れてる顔を隠そうとしてるのが余計に可愛い。あと、顔隠れてないっすよ。可愛い。
「な、にか、何か問題でもありますか?」
「いや、可愛いなって」
「バカにしてますね」
そんなことないっすよ、と冗談っぽく言うけれど、真面目に可愛いと思ってんですからね。
ぷんすかと怒りながら歩き出す姿さえ可愛く見える。
「パフェ食うなら、俺も一緒にいいっすかね」
「ああ、そう言えばジュンくん、甘いもの好きなんですよね」
ピタッと、自分の足が止まる。
なんで俺の好みをアンタが知ってるんだ…そこまで話してる回数も多くないし、お互いの事についてなんて殆ど話してる事なんてないのに。
「……なんで知ってんすか」
「食堂でパフェ食べてたじゃないですか」
なるほど、サマーライブの時の。
ふーん、なるほど…
「よく、俺の事見てるんですね」
意地悪を言えばアンタはどんな顔を見せてくれるのか、気になって、そんな言葉が出てきた。内心、俺の事を見てくれてたのが嬉しくて、それを隠そうとしてたのかもしれない。
けれど、そんな期待もなまえさんは裏切って
「いや、あんずちゃんと仲良く食べてるなって思って……」
「…………………」
あの時か!!
おすすめ聞いた時に、じゃあ一緒にってなったあの時を見てたんすね…。タイミング悪ぅ…………。
「ジュンくん、あんずちゃんみたいな子が好みなんですか?だとしたら、ライバル多いですよぉ」
天然タラシですから!と、自分の事の様にドヤ顔をこちらに向ける、可愛い。
……じゃない、これはまずい。
つか、天然なのは自分でしょうが。あんだけ、アピったのに気づかないとか、俺も異性と食事してたのは迂闊だったけども。
「違いますから」
「またまた、照れなくてもいいんですよ」
「違う」
「まあ、あんずちゃんは渡しませんけど」
「いいから聞けって!」
きょとんと目を大きくして俺に顔を向けるなまえさん。少し、大きな声を出してしまったと怖がらせてしまったかもしれないと、罪悪感がよぎるが、ここで誤解されたままなんて真っ平ごめんっすよ。解らせてもらいますよ。
と、思ったが、
この時に言いすぎた事に気がついたのは、俺が口を動かし終わって、なまえさんの顔がりんごの様に赤くなった後だった。
「俺が、見てるのはアンタだけだっつーの!」
あーこの後、一緒にパフェ食いに行く予定なのにやらかしましたわ。