中学時代。
一度だけ、かっちゃんが負ける姿を見たことがある。いつもの友達も引き連れず、そこにいたのはかっちゃんとそれよりも背の低い女の子。
初めは何をしているのか分からず思春期真っ只中な僕はもしかして…ともピンク色の妄想を始めたが、それは大いに違っていて、予想を遥かに上回る対面となった。
彼女は名前ちゃん。
女の子で唯一かっちゃんの頭を垂れさせた本人だ。
あれから名前ちゃんは遠くに引っ越してしまったようで、二度と会うことはなかった。
かっちゃんの機嫌はというと、これはもう非常に最悪で「あのクソ女。殺す」「ぶっ殺す」「次会ったら覚えてろ」とかそんな物騒なセリフを吐いていた。
かっちゃんは勿論彼女がこの町を離れたことを知らない。僕は一度だけそれを伝えようとしたことがあるが、本題に入る前に爆風を起こされそれは叶わなかった。だから、僕が見たのはあの日だけ。
正直僕もそこまで名前ちゃんとは面識はない。勝手にそう呼んでいるだけで、本人の前で名前を呼んだこともない。
好きとかそんな感情ではなく、どちらかといえば尊敬とか、僕がヒーローに抱く感情と似ていたと思う。
僕の中でかっちゃんは最強で、無個性の僕が逆立ちしても勝てない相手だとは自負していて、その僕の中の最強を、彼女は打ち砕いた。同年代じゃ、まず誰も叶わなかったあのかっちゃんを。
だから、さらに正直にいえば、仲良くもなりたかった。強くて逞しい、そんな個性を持った自分とは大違いの女の子と。
あの頃を思えば、あれも初恋の一種だったのではないかと思う。僕には彼女がヒーローに見えたのだ。
いつかまたどこかで会えるだろうか。
僕は知らない。そんな彼女と再び再開することを。
ーそれが突然、やってくることを。