なまえ、寒くないか?ちゃんとシャツの下は着てんだろうな?」
「純、大丈夫だよ。下にも長袖着てるから。純のブレザー来たら私もこもこなっちゃう」
「こんの馬鹿!風邪引いてからじゃ遅えだろうが!」


「なあ御幸。あれ何の冗談?」
「さ、さあ…」
「そっか。1年は知らないんだったね。彼女、純の彼女。見ての通り純は溺愛してる。ああいうリア充見てるとムカムカするよね。むしろ爆発して欲しい、的な?」
「亮さん笑顔!笑顔!」


2年の教室に呼び出されたと思えば、今校内で人気の高い女の先輩と部活の先輩、伊佐敷純先輩が仲良さげに談話している姿に、一年である御幸と倉持は驚愕していた。
口を開けば叫んでいるようなそんな男にまさか、と言う考えはどうやら的中していたようで、二人は開いた口が塞がらずに甘い雰囲気を出す彼等から視線を外せなかった。


「信じられないよね。俺も最初は耳を疑った位だし」



あんな少女漫画大好きで強面の純が何で、よりによって、と言葉を連ねる小湊の口調は段々と荒くなっている。そして再び純なんか爆発すればいいのに、と何かを後ろに従え笑う物だから後輩二人は苦笑いする事しか出来なかった。

そして、伊佐敷と彼女、名前はそんな事情も露知らずにいる。



「お前が心配じゃなくて、見てるこっちが寒ぃんだよ!いいから大人しく着とけ!いいな!脱ぐなよ、先公に言われたら」
「純、独占欲を通り越してただの親だから、それ。ねえ、なまえさんもそう思うでしょ?」



正直、なまえは詰まっていた。伊佐敷は一度言い出したら聞かない頑固者である。それに反するかのように彼女はとても大人しく、伊佐敷に言い返し口で勝つようなタイプではない。

彼等の奇行は今までにも続いたが、男物のブレザーを羽織るのは流石にあんまりだ、とため息をついた小湊は伊佐敷に丸め込まれそうになった彼女に助け舟を出した。



「純は一体何を考えてる訳?てか何俺のブレザー着とけ、とか見てるこっちが寒い、とか。今時そんな男モテないよ。独占欲強すぎ。ツンデレだか何だか知らないけど漫画の見すぎ」
「何だとコルァ!」



正論を述べる小湊と、嫉妬のままに行動した伊佐敷とじゃ明らかに伊佐敷の分が悪い。彼がなまえの方をチラリと見れば、どうやら今回はなまえも小湊に賛成らしく、苦笑いをこぼすだけで、それが益々伊佐敷を落胆させた。

倉持はその光景に耐えられず、ヒャハ、また純さん負けてやんのと笑みを漏らしてしまい、御幸が慌てて口を塞いだのも無意味となり、火に油を注がれた伊佐敷は、「てめぇらも茶化してんじゃねぇぞコルァ!ぶっ殺す!」と乱暴な言葉で二人を追い掛け回す。

流石にマズい、と直感した二人をはそさくさと1年の教室へ戻っていった。―間違いない、判断である。


するとそこに、プリントを取りに行っていただろう主将の結城が戻って来て、来ていなければならない二人の名を挙げた所で、退散させた理由の本人は一気に縮こまる。
さっきの威勢はどうした、という程恐縮となっており、その姿は犬のようだ。



「哲からも言ってあげなよ。この女心の分からないスピッツに」



事情を話した所で、結城には掛ける言葉と言うものはなかった。伊佐敷程はいかないが自身も女心には疎く「寒いのなら自分がよく分かっている筈だろう」と最もな意見を口にし、御幸と倉持に渡さなければならないプリントを渡すべくその場を去った。


残された3人の空気と言えば最悪で、拗ねる伊佐敷に流石のなまえも可哀想だと少しだけ笑い、彼に諭す。



「ねえ純」
「んだよ!ああ、お節介で悪かったな!!」
「そうは言ってないでしょ。心配してくれるの嬉しかったよ、ありがとう。純のブレザーは着る事出来ないけど、寒い時は純が抱き締めてくれればそれだけでいいの。だから、私が寒い時は抱き締めてくれる?」



悪気も何もない彼女のその一言に伊佐敷は顔を真っ赤にし、小湊は笑みを深くした。

殺し文句だ…と右手で顔を覆う彼を再び襲うように、なまえの指が伊佐敷の指に絡んだのを見て、小湊は「爆発しろ」と悪態を付きながらも彼等の相変わらずさに笑った。


Q.彼が彼女を溺愛する理由とは

A.無意識の一言が彼のツボを抑えてしまうから

「大丈夫なら、それに越した事はねぇんけどな、あんまり冷やすなよ」
「心配性だなあ、純。私は純以外に好きな人なんていないし、他の男の人に興味なんてないよ」
「知ってらぁ」
「純は知っていないよ」
「お前、日本語おかしいから…知ってないって…」
「私も、純を独り占めしたい時だってあるの!」
は…

「は、はぁあああ?!」



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