世界中で人が鳥になってしまう病気が流行っていた。私の町もそれは例外ではなく、家族や友人も次々と鳥になってしまい、町中は混乱で溢れている。
その原因も、戻る方法も数年経った今でも誰も解明はされてない。学校や仕事などはようやくこの事態にも耐性がついたのか常時運転してきた。
その中でも鳥になってしまった親族の世話は個人個人で行うことになっており、一部の人は世界が有益に進むため、働かせられている人もいる。

「名前!」
「純!平気だったんだね…よかった」
「あぁ。お前もな」


この現象が起きてから、私と純は朝の9時に互いの家の中間である河川敷にて落ち合うことを決めている。お互いの安否の確認は勿論、こんなことになってしまった以上、電力の消耗を恐れた世界では携帯の使用を制限している。
それは私達個人個人の携帯に設定されており、その上限わや過ぎると強制的に停止されており、それを解除するにはそれ相応の金額を払わなければならない。
使えない訳ではないけど、無闇やたら電子機器は使わないでおこうと決めている。
その為にこうすることにしているのだ。

ちなみに私と純は幼馴染であり、恋人でもある。
彼は高校卒業後、関西の大学へと進学したのだが、純の両親が二人共鳥になってしまったことで、帰省しているのだ。そして純のお姉さんも同様であり、今は休学し両親の姿が人間に戻るよう大学の友人と研究をしているらしい。
詳しいことは分からないが、ホモサピエンスがどうたら難しいことなので、それは専門の人達に任せている。自室で篭りきりのことが多いようで、鳥になってしまった両親の面倒は主に純が見ているようだ。

純のお姉さんもだが、専門家が数年もかけて謎を解明してくれることが頼もしいと思う反面で、果たしてこの恐ろしい現象に終わりは来るのだろうか。私達は分からないのだ。何もかも。

何故なら、私の家族もみんな鳥になってしまったのだから。


「それはそうと、ちゃんと飯食ってんだろうな?」
「……」
「言ったろうが。倒れちゃ親御さんには心配すんだろーが。アホ」
「鳥でも?」
「お前な、鳥だって生きてんだぞ。自我だってな、多分ある」
「信憑性ない」
「だらっしゃあ!姿が変わっちまったぢけで何もかも変わってねーと俺は思う。そうしねーと、しんどいだろ」
「そんな非科学的なことあるのかな…」
「目の前に起きてる事から目を逸らしてんじゃねーよ」
「うん。そうだよね」


ちょっと可笑しくなってるのかも。
乾いた笑いは消えた。
正直言うと、怖いのだ。二度と元の姿には戻らないかもしれない。そして再び鳥にならないとは限らない。そんな恐怖が入り混じっているのだ。
頼れる両親も兄弟も皆鳥になってしまった家ではひとりぼっちだから、余計に精神的にくるものがある。

「いつ終わるんだろう」


純は答えない。だって答えなんかなくて、誰にも分からないのだから。呟くような俺も知りてェよ、という声は諦めに近くて聞こえない振りをした。

「私が鳥になっても、ちゃんと見つけて私に気付いてね」
「お前は負けんなよ。まぁ、こんな時だからかもしんねぇから言えるけど、お前は俺が守りたいって思ってる」
「流石スピッツ。いざという時は頼りになる」
「茶化してんじゃねーぞ。オラ」

寄り添った影は重なる。
自分でした事なのに顔を赤らめる純は相変わらずだ。
いつもと変わらない日々が余計に気味悪く感じた。変わらない日常が一番幸せという言葉がよく身に染みる。

「とりあえず、俺はまた姉貴の様子見てくっから、お前も何かあったら言えよ。携帯でな。渋んなよ。いいな」
「うん。わかった。純もね。気を付けて」

おう、と純は去って行く。私はなんとなく呼び止めた。理由なんてないけど、嫌な予感がしてだ。

「気を付けて、ね」


あぁーー。見間違いでありますように。

一瞬だが、純の背中に生える翼が私の思い込みだったらよかったのに。

翌日の朝。純はいつもの場所にはこなかった。



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