翌日、部活後に何処からか噂を聞きつけた御幸と倉持が私の元へやってきた。
「熱い抱擁を交わした苗字さん、感想をどうぞ」
「何の真似なの、御幸、気持ち悪い」
「いやぁ、お前らがそんな関係だったなんて、俺らは驚きだったわけよ」
「どういうこと?」
「昨日な、降谷が練習中にお前の身体が柔らかいって言い出して大変だったんだぜ?」
御幸からのカミングアウトに私は作り掛けだったドリンクの蓋を落とした。その動揺にニヤ付いた二人はさらに私への攻撃を始めた。
「降谷君、本当に言ってたの…!」
「いやぁ、多分内野には聞こえていただろうな」
うそだ…!と恥ずかしさに悶えていると、張本人のお出ましだと現状など何も知らない降谷君がやってきた。何も知らないって本当に無敵だと思う。
センパイ…とやって来る辺り、御幸に用でもあったんだろうが、倉持と二人ニヤニヤしていておまけに私が居たものだから、よく分からない顔をするのも無理はない。
「本当タイミングの悪いときに…」
茶化しの矛先が降谷君に向き倉持が「苗字の身体、どうだったんだよ?」と色んな意味でもいやらしい質問に、降谷君は想像通りやわらかかったです、ともう一度昨日の抱擁の感想を口にした。
そうしたら二人はまた私をにやりと見て…、だからその顔と話題はもういいんだって!
終わり終わり!と二人を蹴散らせばおアツイことで!と去り文句を言っていたから、今日のあいつ等のドリンクに塩でも入れてやろうかを目論んだ。
ポツンと残された降谷君はどうやら御幸に用時ではなかったらしく、苗字センパイ…と寝ぼけ目で私の名前を呼んだ。
「はぁ、御幸と倉持がごめんね…」
「何がですか?」
どうやら先ほどの質問の意図がよく分かってなかった様で、私はその純粋さが彼らに染められずいつまでも続くように願った。
所で、と話を戻せば彼はお腹をさすりながら言った。
「お腹が空いたので何か入れたかったんですけど、何かありますか?」
きゅるると控えめな音を出してなるお腹の間抜けさに、何かあっただろうかと悩むがそういえば、と昼に食べられなかったパンがあったな、と思い付いた。
「私の今日の昼食べられなかったパンでもいいなら、カバンの中にあるけど、それでもいいなら食べる?」
余りお腹の足しにならないかもしれないけど…付け足せば、貰えるならなんでも、了承を確認するとじゃあ行こうか、と部室へ足を進めた。降谷君がお腹が空いてるとなると、他の人たちもそうなんだろうなと思いもしたが、降谷君に近寄り今のみ皆に内緒ね?と念を押せばはい、と返事をした。これは口で返事をするのに、どうしていつも頷くんだろうと言う疑問が浮かんだが、まぁいいやと部室に入った。
「はい、どうぞ」
やや潰れ気味のツナサンドを遠慮がちに差し出せば、頂きます、と受け取ってくれた。
ぺしゃんこにならかっただけマシだったな、とどこで食べようかと尋ねれば彼も迷っていた様で立ち尽くしていた。部屋に持っていけば、意地悪なルームメイトと争奪戦が始まるのは目に見えているし、基本部室で何かを食べるのは禁止されている。
仕方ないから、彼が食べ終わるまで付き合うか、と花壇付近の場所を提案すれば、同意してくれた様で後ろに着いて来てくれた。
夜のベンチは少し冷えていて、制服で座ればスカートで捲れた部分に足が直で当たり冷たかった。大丈夫ですか、という彼の問いに少しすれば慣れるから、と隣に座るのを促せばストンと隣に座った。
「そういえば学校はもう大分慣れた?」
コクリ、とモシャモシャしながら頷いたのを見て、それなからよかった、と笑った。基本降谷君は人と馴れ合おうとしないみたいだから、学校はつまらなくないのかと思っていたけどそうでもないみたいで安心した。
此処付いてるよ、と口端を指差せばぺロリと赤い舌で拭うものだからその仕草にドキリとした。綺麗な顔してるなぁ…。
「急がなくていいよ、ゆっくりでいいから」
きっと私の帰りを心配して早急に食べようとしてたんだろう。なんとなく雰囲気がそんな感じだったからいざ口にしてみれば、どうやら当たりだったようで、彼のペースが落ちた。
彼が後の一口を飲み終えた所で、私も帰ろうかと腰を上げれば、降谷君の右手が私の左手に乗っていて、どうしたものかと尋ねれば「送ります」と立ち上がり荷物を引ったくり、歩き出した。
水もあげようかとカバンを持ってきたのが間違いだったのか。
そんな厚かましい事出来ないと思いながらも、投手の握力の凄さに私は諦めて彼の好意に甘えることにした。
◆
「ごめんね、送って貰って」
「いえ、パン、ありがとうございました」
「美味しかったのなら良いけど」
「助かりました」
「そっか、気をつけてね。寮長さんには怒られないかな…」
「センパイの家、近かったので走れば大丈夫です…」
「そっかそっか、スタミナつけなきゃいけないもんね」
何気なくそういえば、どうやらそれは彼の禁止ワードだったらしく、メラメラと何かを燃やしていた。
あちゃーと思いながらもまた明日ね、を声を掛ければペコリと頭を下げて報告通り彼は走っていった。どうやら相当体力不足気にしている様だな、と家に入った所で明日は何かお菓子でも作ろうかな、とローファーを脱いだ。
純情な少年の正直な感想
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