サビに入る佳境の所でスッポリとイヤホンを抜かれて、私は不機嫌丸出しになる。イヤホンを手にした男、真田俊平は俺の相手しろよ、自己主張を強くする。

「さっきまで野球雑誌読んでた人がよく言うね。先に放ったらかしにしたのはどっちよ。私だけに要望を押し付けるなんてお門違いだよ」
「悪かったって。お前怒ると早口になんだからそうカッカすんなって」
「その原因を作ったのは俊平でしょ!」


暑い中わざわざあんたの家に来てやったと言うのに、待遇の仕方間違ってるわ。
私と俊平の家は自転車で1時間弱掛かる所にあった。
交通機関を使えばすぐなのだが、私は乗り物酔いが激しい方なので、今日も一時間掛け自転車でやって来た所、俊平は野球雑誌に夢中で私に討て合おうとしなかった。
流石の私もそれには堪忍袋の緒が切れる

こうなったら無視を決め込もうとして、ウォークマンの音量を大音量にして冒頭に至る。


取られたイヤホン先からは音漏れを起こしていて、本当は私の耳に響く筈だった音が微かに聞こえるだけ。それも今の空気には合わない位ひょうきんでアップテンポな歌。私は何でこの時にこんな歌を聴いていたんだろうか、と呆れ到底目の前の男を怒る気も無くし、ウォークマンの電源を切り男と向き合った。


「今日だけだから」

私だって数少ないオフの日を一緒に過ごしたいと言う気持ちだってあった。久しぶりなのにこんな険悪なムードだと嫌だし、何しろ俊平が横暴なのは今に始まった事ではないのは知っている。

俊平の手元からイヤホンを抜き取りウォークマンに巻きつければ、その手が取られる。


「線切れんぞ」
「大丈夫よ、これ巻き付けても大丈夫な奴だから」
「屁理屈」
「誰かさんよりはマシよ」
「まだ怒ってる訳?」

そうむくれんなよ、と頬を右指は何気に痛い。圧力が高いのを忘れているのかこの男。
仕返しだと皮膚の薄い頬を掴めば、ツルツルとしている頬がとても羨ましかった。


「どうしてツルツルなの」
「どうしてお前は胸がツルツルなの」


そんな質問をするな!と脛を蹴飛ばせば、痛みに悶えている姿に嘲笑してやった。
私の両手は俊平の頬を抓っていて、俊平の両手は私の胸に添えられている。端から見たら奇妙な光景に我に返った私は思わず吹き出してしまった。


「さっきから思ったけど、今俺達すっげー近いよな」
「近いね」
「キスしても怒んないよな」
「激アツなキスは嫌いだけど」
「何でだよ」
「苦しいから」
「どうしても?」


首を横に振れば、その振動が俊平の頬にまで伝わったようで痛、と短く呟いていた。
可哀想だと頬から手を離してやれば、頬が丸く赤みを差していて可笑しかった。


「まるこちゃんみたい」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「可愛いよ、俊平」
「お前がな」


視界が揺れたと思えば、チュッとリップノイズを立て私の唇をかっさらっていった俊平は、悪戯が成功した子供のように笑った。


「こりゃ激アツだな」


そう言えばさっき聴いてた曲名、lipnoiseだったっけ。



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