あの時俺は
ずっと考えていた。
もう一度会えたらちゃんと礼を伝えたいと。
この約二十年の間、忘れた事など一度も無かった。
ずっと、もう一度会えたらと願っていた。
まだ人を信用していないかつての俺を見捨てる事もなく世話をやいてくれたあの人に。
そんな無理難題と言っても良いほどの願いが、届いたのかもしれない。
…
伝えなきゃならねえ事があるとナルトから発信されて開かれた五影会談。
市民に向けての演説を終え、そこから部屋へと集まり本題へ入る。
大筒木一族が、またどこかで攻め入って来るかもしれないという話に驚きも少しあったが、それでも世界を守るのが自分達の役目。自分達の代でなくても、将来世界を守りうる忍を育て見守るのが自分達の役目だと、それを再確認した上で、また何か情報が入り次第随時報告という事で会議は決着した。
「大変です!火影岩が…!」
丁度、本題が終わった辺りで会議室の扉が勢いよく開かれる。
そこには息を切らした一人の忍がいて、歴代火影の顔岩が大変だと、大層慌てているようだった。
一体どうしたと影達がざわつく中、ナルトだけはひたいに青筋を浮かべていて、とにかく来てくださいという忍に連れられて外へ出た。
そこで見た光景は、ナルトの息子であるボルトが、父の顔岩に落書きをしている光景で。
すかさず大声を上げながら止めようとするナルトを見て、微笑ましいと思いながら他の影達と顔を見合わせる。
「なんだ?!、あぶねえ!」
「!」
本当に突然だった。
顔岩の丁度真上辺り、崖になっているところが崩れ、そこに偶然居合わせたのかは分からないが一人の少女が崩れるがけに足を取られ真っ逆さまに落ちていく。
それにいち早く気づいたのはナルトで、気づけばその少女をナルトが抱えていた。
「…!」
ナルトが下まで降りて来ると同時に、抱きかかえられたその少女の顔見た途端、心臓を鷲掴みにされたような気分に陥る。
この少女…いや、この人は、俺がもう一度会えたらと長年願って来た張本人。
「……名前、」
きっと、思わず呟いてしまったその人の名前は、小さすぎて風の音に消されてしまっただろう。
気絶していたんであろうその人は、ナルトの腕の中で目を覚まし、立ち上がるや否やナルトに謝罪と感謝を伝えていて。
名前と思われるその人は、20年前に出会った時と全く変わっておらず、何故、どうして、ここに居るんだと、嬉しさの反面、変わっていない姿を見てやはり異世界から来たんだと、別の世界の住人なんだと再確認させられたようで苦しくなった。
内心冷静さを欠いていた俺は、穏やかな表情をする事もできず、何故か逃げ腰の名前を半ば強制的に火影の執務室まで来るように言い放った。
どうして逃げようとするのか、ナルトには普通に接する事ができて、何故俺にはできないのか、多少イラつきが出てしまっていたんだろう。余計に名前から怯えのような感情が滲んで居るのが見て取れた。
そんな顔を見たくて、もう一度会いたいと願った訳ではない。
だが俺にはナルトの様に優しく問いかけてやる事も、構わず会いたかったと抱きしめる事もできなかった。
昔の俺を、母の様な愛情で包んでくれた名前。それなのに裏切られたと感じて最後には殺そうとしてしまった後悔の念がそれをできなくしてしまったんだろうと思う。
「お前、名前だろう。何故ここに居るんだ」
「…20年も前に会った人の事よく覚えてるね。風影になって、立派になってて私は嬉しいよ、我愛羅君」
執務室へと皆で集まり、単刀直入に名前
へ問い詰めると、あっさり名前だと認め、俺を我愛羅君と呼ぶ。
名前の世界から戻ってきて早20年。ナルトに出会って俺は心を入れ替え、皆に認めてもらおうと努力し風影になった。
そしていつしか、もう一度名前に会いたいと願うようになった。
別の世界、簡単に叶うはずは無いと思いながらもずっと忘れられず、次会えたとしたならもう離したくないとも思うくらい俺の中で名前の存在が大きくなっていた。
それが今、叶うはずもなかった願いが叶い、あの時と変わらず俺の事を「我愛羅君」と呼ぶ名前。
今すぐ抱きしめて、もう離さないと言いたい衝動に駆られたが、それを堪え、とにかく疑問の表情を浮かべているナルトやシカマル、そしてカンクロウに名前の事について説明する。
「こいつは、俺がまだ中忍になる前に会った。この忍の世界では無く、化学がとてつもなく発達した所謂異世界、お伽話のような、忍が存在しない世界。俺が消えたと騒がれた時期、一週間程度だったが、俺はこいつの世界にいた」
自分で異世界と、言えば言うほど折角再開できたのにも関わらず名前はいつしか元の世界に帰ってしまうんだと考えさせられる気分だ。
下忍だった時に世話になったと言うものの、年齢的に信じられないといった表情をしているナルト達に、昔名前から借りた携帯電話というもので撮影した写真を見せると、どうやら歳をとっていない事は信用してくれたようだった。
だがその時、知らないはずのカンクロウの名前を名前が口走ってしまった所為で、頭のキレるシカマルが再び疑いの目を向けてしまった。
やはり少し抜けているところは変わっていないようだ。
「……あ〜、えっと、信じてもらえるか分かりませんけど、」
明らかに、しまったという様な表情を見せた名前は、自分が一体何者なのか、何故知らないはずのカンクロウの名前を知っていたのかを白状しようと、少しづつ話だす。
その話を聞いていく内、名前もまた、例の本の事を黙っていたという自責の念がある事を知った。
俺を想って泣いて、もう一度会えたらと思ったと言う名前の表情は少し沈んでいたが、俺の心は高揚していた。
俺も同じ気持ちだったと、俺もお前に謝りたかったんだと、もっと言えばまだ名前も知らないこの気持ちも伝えたいと思ったが、その名も無き感情を伝える術を、今の俺は知らない。
そのもどかしさから堪らず名前の方へ手を差し出し、頭を撫でる。
そうしてから、自分もずっと謝りたかったんだと告げ、誠意を込めて頭を下げた。
「あ、えと、我愛羅君、頭あげてよ。ダメだよ風影がそんな簡単に頭下げたりしちゃ。それに私の方こそ嘘ついててごめんね」
「…いや、いい。もういいんだ」
やっと言えた。ずっと心に引っかかっていた事を、もう伝える事は不可能なんだと思っていた事を、伝える事ができて俺は感極まってしまい、それが表情にでてしまっていたのか、名前はおもむろに俺の頭を両手で包んできた。
懐かしい。
20年経った今でもこうして触れられると思い出す。
里から嫌われ尖りきっていた俺を不器用ながらも優しく包んでくれたこの手で、もう一度触れてもらえるとは。
「………。おいお前ら、イチャついてんじゃねーよ、弟のそんなところ見せられる俺の身になれ」
「はあ?イチャついてなんかいませーん、我愛羅君は可愛い可愛い子供なんだから公然の前でイチャつくとかそんな事しませーん。ね?我愛羅君」
頭を無作法に撫でられていると、カンクロウが間を割ってくる。
昔の思い出に浸りながらされるがままだったが、俺の事を今だ子供扱いしてくる名前に多少なりの反抗として、ジト目を送ってみるが効果は無いようで、構わず頭や頬を触ってくる。
そんな様子をしばらく見ていたシカマルやナルトは、今のところ帰る場所がない名前に、これからどうするのかを問うていた。
何故だか迷っている様子の名前だったが、俺としては砂へ連れて帰る以外の選択肢は無い。
「…俺が砂へ連れて帰る」
有無を言わせない感じで、ハッキリと言い放つ。
カンクロウが嫌そうな顔をし突っかかってくるがそんな事は関係ない。
名前でさえも、迷惑かけるかもしれないと砂へ来る事を躊躇しだしたが、そんな事は気にするなと諭した。
少し強引すぎるだろうかとも思ったが、ここで連れて帰らなくてどうするのだと、独占欲が滲み出てしまう。
もう二度と、離したくないとさえ思ってしまうのは我儘なんだろうか。
異世界の住人である名前に、ずっと側にいて欲しいと思うのは、駄目だろうか。
まだハッキリとは分からないが、自分の中にある名前へ向かう気持ちを、伝えるのは自分勝手だろうかと考え、結果名前自身の幸せを願うなら、自分のこの気持ちは胸の奥に仕舞い、想い続けるだけに留める事にしようと、ナルトにこの世界の事が描かれた本の事を聞かれている名前を見ながら思う。
「不束者ですがしばらくの間、よろしくお願いします」
話もようやく決着した様子で、最後に頭を下げながらよろしくと言う名前。
本当に変わらないな。
名前によると俺が消えてから向こうの世界では一年程しか経っていない様だったから、変わっていないのも当たり前なのかもしれないが、優しく、少し抜けているところもあるが真っ直ぐで、曇りのない目で俺を見てくれる名前は、本当に昔のままで。
いつか、俺の身勝手が通るなら、このままずっとこの世界で、名前と将来を共にしたい。
それを願う事だけは、どうか許してくれと静かに思った。
おわり
こあみ様リクエストで、大人我愛羅くんとヒロインが再会したあたりの大人我愛羅くん目線のお話でした!
我愛羅君はヒロインちゃんに再開する前から気づかぬウチに好意を抱いていたと私はイメージしていましたので、そういう感じにしました〜!
なんだかセリフが少なくてすみません!
リクエストありがとうございました!
そして連載完結へのコメントも本当にありがとうございます〜!
これからも遊びに来てくださいませ!