我愛羅君の子育て奮闘記
名前が愛しい娘を出産してから約半年。
名前も俺も、子育てについて右も左も分からず毎日が勉強の日々であるが、産まれて半年、成長した娘は自分の意思をこれでもかと主張して来だしていて、今日も風影としての公務を果たしながら娘に振り回されている俺がいた。
……
「むー!!」
「どうした」
「ぬー!!」
「遊んで欲しい、のか?…すまないが今は手が離せない」
シンキはいつも通り任務へと出向き、名前は今買い物へ行っていて、その間だけ見といて!と言われるがまま、執務室には俺と小さい娘の二人きり。
言葉を話せない我が娘の主張を、なんとか汲み取りながら仕事半分娘半分で過ごす。
「あーーーー」
「今度はどうした、…っおい、」
「きゃきゃっ!うーー」
書類を避けて、俺が仕事をしている机に座布団を置いて、その上に乗っているこいつは、ゴロゴロと俺が判を押している書類の上まで転がって来た。
それだけならまだしも、すぐそばに置いてあった朱肉にべったりと手を付き、俺の真似をするように書類へと朱肉のついた手を振り下ろそうとする。
「それはだめだ、…そうだな、ここへ捺してくれ」
「きゃ!あー」
咄嗟に書類を避け、近くにあったいらない紙を差し出すと、そこへ手形を押し付けた。
楽しそうに何回も、朱肉と紙を往復し、白い紙はあっという間に手形だらけになる。
「なかなか上手いな。大きくなったら俺の仕事を手伝ってもらおう」
「むーーーー」
「……もう飽きたのか?では手を拭こう」
「んや!」
手形でいっぱいになった紙に満足したのか、朱肉で染まった両手をこちらに向かって差し出してくるので、拭いてやろうと娘の手を掴むが、なぜだか嫌がられる。
父に触られるのがもう嫌な時期になってしまったのかと気持ちが一瞬沈むが、それでも手を拭かなければいけないと思い、手を離さないでいると突然泣き出してしまった。
「あああああん!」
「っ、な、どうしたんだ」
「ひ、ううううううう」
両手を俺に握られながら、涙を流す娘に戸惑ってしまう。
とにかく手を離せば泣き止むだろうかと思い、手を離してみるものの、泣き止む気配はまるでない。
こんな時はどうすれば…。
名前がいつも泣き出した娘に何をしているかを思い出してみる。
食事なのかトイレなのか、はたまた抱っこなのか。
夕方になると何故か理由もなく泣いてしまう「黄昏泣き」というものがあるらしいが、今は昼間だ。それはないだろう。
食事に関しては名前がいなければ与えてやる事もできないし、残るはトイレ。そうなればと一先ずオムツを確認してみるが、どうやら違うようだった。
「んああああああ!」
「オムツも汚れていない様だが、やはり腹が減ったのか……」
そう呟いてみたところで返事をしてくれる訳でもなく、ただ泣き喚き続ける我が娘。
やはり父とは情けないものだ。こんな時何もできないのだからと内心落ち込むが、とにかく泣き続ける娘をどうにかせねばと書類の上に座り込んで泣いている娘をヒョイと持ち上げる。
「お前の母はもうすぐ帰ってくるだろう。少しの間、俺で我慢してくれるか?」
腫れ物を扱う様に抱き上げ、背中をポンポンと叩く。
そうしてやればだんだんと泣いている声が小さくなり、やっと落ち着いた様子だった。
なんだ、抱いて欲しかっただけなのか?
ゆらゆらと身体を揺らしながら娘の顔を覗きみると涙で濡れた瞼は落ちていて、しばらくすると寝息が聞こえて来た。
「眠ったのか?」
自分の肩口に顔を押し付けて寝息を響かせる娘を起こさない様に、立ち上がっていた身体を椅子へと沈ませ、片手で娘を抱いたまま、空いているもう片方の手で書類に再び目を通し始める。
寝ているんだからまた机の上に置かれている座布団の上に娘を転がせばいいのだろうが、それをしてまた起きてしまっては元も子もない。
それに、この小さい身体から伝わってくる体温と規則正しい寝息が、俺にとっても心地良いため、抱いたまま公務をこなす。
「ただいま〜!我愛羅君ごめんね仕事中に!大丈夫だったー?」
「……静かにしてくれ。今は寝ている」
しばらくすると名前が執務室の扉を開けて入って来た。
もちろん、今小さい娘が寝ているのを知らない名前は、大きな声で喋りながら俺の方へと近づいてくる。
…そんな大きな声を出したら起きてしまうだろう。
「わ、抱っこしながら仕事してんの?ごめんね〜、ほら、こっち。貸して。重かったでしょ」
「いや、問題ない」
「…ん、んん」
両手を差し出してくる名前に、娘を渡そうとした瞬間、今まで静かに眠っていた小さな娘の瞳が開いて、次の瞬間にはまた泣き出しそうに顔を歪めてしまった。
折角眠ったのに、また泣き出してしまう…と、名前に渡すのを辞め、抱え直してみるが、寝起きは機嫌が悪いのか、ついに声をあげて泣き出してしまった。
「ううううう、ふええ」
「ありゃ、起きちゃった。ほら、おーいで」
泣き出してしまって動揺を隠せない俺に目もくれず、名前は笑いながら俺から娘を掻っ攫うと、先ほど俺がした様に身体を揺らしながら娘をあやす。
すると一瞬で泣き止んだどころか、きゃっきゃと笑っている娘に驚いた。
「お父さんに抱っこされて、よかったねー!良いなあー羨ましいなー」
「きゃあ!」
「なになに、自慢して来てんのー?良いだろー!って?」
「あーう!」
一体どうしたら言葉を離せない娘とそこまで会話ができるんだ。
一心同体で約一年過ごして来たから、言葉さえも分かるというのだろうか。
…母とはやはり尊いものだ。
そんなことを考えながら、名前と我が娘を見ていると、唐突に愛しさが込み上げて来た。
立ち上がり、二人の元へと足を運んで、二人同時に、包み込む様に抱きしめる。
「お、我愛羅君、どしたの」
「……いや、母には叶わないと思ってな」
「ははは、なにそれー」
「あーー!」
愛しい二人を抱きしめて、心地よさを全身で感じていると、腕の中から娘の声。
ん?と覗き込んで見た途端、先ほど朱肉につけた手のひらを惜しげもなく俺の顔へと押し付けてきた。
「あ!ちょ、手のひらどうしたの!」
「……さっき手形を紙に捺して遊んでいたんだ」
「遊んでたって、我愛羅君、顔、」
「構わない。こいつが楽しければ良いんだ」
「きゃー!うー!」
少し乾き気味の手のひらをペタペタと、俺の顔に押し当ててくる我が娘の楽しそうな事。
顔が手形だらけになろうが、そんな事は娘の楽しそうな顔を見れば関係ないと思えるほどに、今の俺は幸せだ。
母には叶わないと思っていたが、俺にも興味を示してくれる娘を名前から引き取り、頬を撫でてやると笑ってくれる。
意思疎通がなかなか難しい年頃だが、分からないなりに理解しようとするのもこれまた一つの楽しみだと、初めて娘と二人きりになって感じた。
が、また突然不機嫌そうな表情に戻ってしまった娘を見て、子供とはやはり難解なものだと思った。
おわり
チミ様リクエストで、赤ちゃんに奮闘する我愛羅君でした!
娘と我愛羅君を二人きりにさせてみましたが、どうだったでしょうか…!
連載完結についてのコメントもありがとうございました!
これからも頑張って参りますので、また遊びに来てくださいませ〜!
本当に、リクエスト、コメント共にありがとうございました!