これは嫉妬なのか
最近名前が忙しない。
娘が産まれて、まだ小さい娘を抱えながら家事をこなしてくれている名前には非常に感謝している。
だが、なんだろうか。このどうにも表し難い感情は。
「名前、」
今日もいつものように忙しなく家事と娘の世話をしている名前になんとなく声をかけてみる。
以前なら、名前を呼べば間の抜けたような声で返事をしてくれていたが、女性というのは母になるとやはり何か気持ちに変化があるものなのだろうか。
俺の声は結局名前に届く事なく、宙を舞って消えて行った。
別に、自分の娘に名前を取られたなんて思う程、俺は子供じみた性格でないと自負している。
何より自分の娘だ。それにまだ小さいのだから、名前が付きっきりになるのは当然だ。
「あれ、我愛羅君、今日休みなのに。どっか行くの?」
「…ああ。少し里の様子でも見て来ようと思う」
なんだか何もできず、名前の背中をただ見続けるのに居た堪れなくなって来た俺は、外の空気でも吸ってこようと立ち上がった。
本当はもっと、娘の世話をしている名前の手助けをしてやればいいと思うんだが、何か出来る事はないかと聞けば、何もないと返され、俺が休暇を取った時は「休め」の一点張り。
そこまで俺に、何もして欲しくないのかと思うほど、何もするなと言われている。
気を使われているのか、もしや俺が家事を手伝おうとするのを迷惑がっているのか。
ここまで来るともはや分からない。
俺はそんなにひ弱ではないと思うんだが。
「里の様子見に行くのもいいけどさ、休みなんだからたまには一日中ゴロゴロとかしたらー?」
「……いや、」
先ほどまで泣いていた娘をやっと寝かしつけたところで、出て行こうとする俺の方へと漸く名前が寄って来た。
最近はこうやって二人きりになる事も少なくなっているし、やっと俺へと向いた名前の意識が嬉しくもなんだか妙に照れ臭い気分に陥ってしまって、合わさっていた視線を外しながら空返事をする。
そんな俺の心情など露しらずの名前は、
「でも我愛羅君は本当に里想いだね!休みの日まで里の事考えるなんてさ!」と、俺の肩を叩きながら笑顔で言う。
「…」
「あれ、どしたの。元気ないね?やっぱ疲れてんじゃん」
そうではない。と、一瞬口が開きかけたものの、まさか俺が、名前が寄って来た事で照れてしまったなんて、そんな事を言えばきっと「キャラ変してる!」とかなんとか、訳のわからない事を言って来るか、「何言ってんの!」と流されるかのどちらかであることは間違いない。
そして今の名前から出て来る言葉は後者だろうと思った。
どこか抜けているものの、やる時はやる。意外にしっかり者である名前の、戸惑っていたりする姿をもうここ最近は見ていないなと考えながら、結局名前には何も返さずにそのまま部屋を出て行く。
簡単に言えば、構ってもらえなくて拗ねている。認めたくはないが、その考えが一番今の自分にしっくり来るのだ。
例えばナルトなら、上手く自分の感情を表に出して甘えるなどできるのだろう。
例えばシカマルなら、相手を上手く翻弄して自分へと意識を向けさせるように出来るのだろう。
俺はそんな二人のように、素直な性格でもなく、頭がキレる訳でもない。
男は子供が産まれると、自分の妻を女として見れなくなると大概の奴は言っていたりするが、女も然りではないだろうか。
部屋を出て特に何の目的もなくただ里内を歩きながら、すれ違う住人に軽く会釈をする。
こうやって、里の者達に必要とされ、認められたいが為に俺は努力して来たのだが、一番に必要とされたいと思う名前に相手にされなくなっては何もかも意味がないように思えて来る。
考えすぎだろうと思うほど、俺は名前に依存してしまっているのかもしれないな。
「おーい、我愛羅君」
「…名前」
自傷めいた事を考えながら気づけば里が一望できる場所に辿り着いていた俺に、後ろから声をかけて来たのはまさかの名前。
本当は今すぐにでも目の前の妻を抱きしめたいと思ったが、そこまで俺は素直になれず、ただ返事と称して名前を呼ぶことしかできない。
「こんなとこにいたんだね、里はもう見て回ったの?」と問うて来る名前に、そういえばそう言って出て来たんだったなと内心考えながら、短く相槌を打つ。
一体何しに来たんだ、娘はどうした、などと言ってしまいそうになる俺はやはり素直ではない。
「……ねえねえ、なんか本当に元気ないね、どうしたのさ」
「いや、」
ここで、お前が娘ばかりに構っているから拗ねているんだと、そう言えばお前はどう出る。
しょうもないと呆れるのか、軽蔑するのか、怒るのか。
考えれば考えるほど、気分が落ちてしまいそうな感覚に襲われるが、理由を知らないとはいえ俺を心配してくれている名前に少なからず嬉しさがこみ上げる。
「最近さあ、我愛羅君てば根詰めすぎなんだよ。何かあれば家事とかも手伝ってくれようとするし、休みなのにこうやって里を見て回るとか言い出すしさ。休んでて良いと思うよ?たまには」
「……それはお前もだろう」
「へ?」
疲れているから元気がない。
そう思いきっている名前に、咄嗟に言葉が出てしまった。
だが確かに、家事や娘の世話をこなしている名前もまた、疲労が溜まっているに違いない。
いつも疲れている素ぶりなど露ほども見せないが、目の下にうっすらと浮かんだ隈でそんな事は一目瞭然だ。
「最近あまり眠れていないんじゃないか。俺を気遣う前に自分を気遣ったらどうだ」
半分本当で、半分不本意な言葉が口をついて出てしまう。
名前には自分のことを気遣って欲しいと思ってはいるが、今、こんな風に言わなくてもいいだろうと少しの後悔が俺を襲う。
頼ってくれ。
その一言が今出なければ、何の意味もない。
こんな言い方をしてしまっては、名前は適当に返事をしつつも結局は今まで通り変わらずあくせく家事をこなすだろう。
「…うーん、じゃあさ、わがまま言っていい?」
「…?」
思いもよらなかった名前の返答に、自分でも疑問の表情になったのが分かった。
だが強がって出てくるかと思っていた名前が、今俺を頼ろうとしてくれていることに表情が緩む。
「…なんだ」
「あの〜…あのね、ちょっとだけでいいからさ、その、抱きしめてくれない、?」
「…っ」
上目遣いで、少し恥ずかしそうにしながら名前は、わがままとやらを言ってくる。
そんな事、俺からすればわがままの内には入らないが、もしかすると、名前はいつも公務で忙しなくしている俺に気を遣いすぎて、そんな事も言えなくなっていたんだろうか。
咄嗟に可愛いなと思い返事が遅れてしまった俺に、「だ、だめ?」と落ち込んだ表情になってしまった名前に、慌てて口開く。
「…いや、そんな事、わがままの内には入らない。……こっちへ、」
「、」
すかさず名前の手を引き自分の胸中へと収めると、驚きつつも嬉しそうな名前から薄っすらと笑い声が聞こえた。
「…?」
「ふふー、なんか久しぶりな気するね、こういうの」
腕の中に収まる名前の顔を覗き込めば、ふにゃりと笑いながら「久しぶり〜」だとか「いい匂い〜」などと言っていて、堪らず頭を撫でてやると更に表情が緩んだ。
「俺は、お前がこうして言い寄って来てくれる事が嬉しい」
「言い寄るって…何、構って貰えなくて寂しかった?」
「ああ、」
冗談混じりに言うような口調で、俺を見上げながらそういう名前に、「そうだ」と返すと、思いもしなかったと言いたげな表情に変わった。
構ってもらえなくて寂しいなど、そんな事を言う男は嫌だろうか、なんて言ってしまった事を今更少し後悔してしまったものの、意外にも名前は嬉しそうな表情になっていて。
「寂しいなんて、我愛羅君も思うんだね」
「当たり前だ。娘ばかり、と思う事だってある」
「え!なになに、子供に嫉妬してんのー?かーわーいーいー」
変わらず笑顔で俺を茶化しつつも、背中に回った腕の力は更に強くなり、俺の高揚感が増した。
名前の小さなわがままを聞いたんだ、俺のわがままも聞いてはもらえないだろうかと、見返りを求めるような考えが頭に浮かんで、それを口にしてみると快く「いいよ」と言ってくれる名前。
「…たまには、時間を共有したい」
「へ?」
「夜娘を寝かせた後でも、お前はいつも一人で家事をこなしている。それを俺にもやらせてくれ。二人ですれば作業も早い。その後ゆっくりできるだろう」
いつも娘を寝かせて、俺にも先に寝ててねなど言いながら一人で残りの家事をこなしているのは知っていた。
それを二人ですれば名前の負担は減り、俺も名前と過ごせる時間が増える。一石二鳥だ。
「……いいの?」
「邪魔にだけはならないようにしよう」
本当にそんな事でいいのかと言うような表情で俺を伺う名前に、精一杯の微笑みを投げた。
それに答えてくれるように笑顔を返してくれた名前は、「そうしてくれると私も嬉しい」と言う。
「あ、じゃあ色々覚えて貰わなきゃ!ミルクのやり方とかオムツの変え方とか〜、洗濯も手伝って貰おうかな!」
「…もちろんだ」
それからは俺の公務が早く済みそうな時はなるべく名前の手伝いをし、夜は二人で昔のように過ごした。
ただの家事がこんなにも大変だとは思いもよらなかったが、それを今まで一人でこなしてくれていた名前には更に感謝したが、気を使わなくていいと言った俺に名前は、何かあればすぐ俺を呼んでくるようになり、大変な思いこそすれど嬉しさが上回っていた。
「我愛羅君!砂嵐来てる!洗濯物入れてー!」
「分かった」
そして今日もまた、名前に振り回される事を喜びつつ毎日を過ごしている。
おわり
名無し様リクエストで、ヒロインに構って貰えなくて拗ねる我愛羅君でした!
拗ねる我愛羅君、難しくてただのほのぼのしたお話になってしまいましたが…
リクエストありがとうございました!
暖かいコメントもありがとうございます!
また遊びに来てくださいませー!