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〜オマケSS 日常の一コマ with澤村大地〜



「あーつーいーーーーー!!」

6月のこの時期は全力で雨の季節。
天気予報によると、今年は梅雨前線がうんたらかんたらとかで少しだけ梅雨の時期が遅れたらしく、そろそろ7月になろうかというこの時期でもじめじめとした暑さが烏野高校体育館内にも広がっている。

けして気温が高いわけではないが、いかんせん湿度が高すぎる気がする。
じっとしていてもじんわりと額や背中を汗が吹き出してくるのがわかるほどに、だ。

本日の自主練習もだいたい終わり、1年生コンビの最後の10本スパイク練が終わるのを眺めながら片付けていた冒頭の私のぼやきに、傍でドリンクを飲みながら苦笑するのは我らが主将、澤村大地である。

「陽射しが強いのもキツイが、これはこれで辛いよな」
「ほんとだよー!!こういうじわじわ〜っとかく汗の方が、拭いても拭いても臭いがキツくなってくるし…!」
「…お前ね、一応女子なんだからそういう発言は控えなさいよ」
「んぇー……だって〜〜……こういうのは女子として死活問題なんだから、誰かに愚痴ぐらいこぼしたくなる!」

実際、先ほど片付けでせっせと動いていた時になんとなく「今の自分汗臭いかも…」なんて感じてしまったのだ。
女という生き物は少しでも自分で自分の体臭を感じてしまうと、その瞬間がずっと気になってしまうものではないだろうか。

昨今では様々な制汗剤が発売されてはいるものの、私達のように運動部で過ごしているものにはいささか効力が弱いと思う……

まぁ、私はマネージャーですけど。
人より汗っかきなだけかもしれないですけど……!!

ため息ひとつ零した私を見つめるのは隣に座って居る大地。
彼の隣に座っている私はその視線から逃げるように、先ほどみんなから集めたビブスが入っているカゴに目を向けてササっとたたみ始める。

「さっさと片付けて着替えよ〜〜」

ネットは自主練頑張ってる一年コンビに任せるとして、あとは手元のビブスを部室にしまうだけだ。
そろそろこれらもクリーニングに出すべきかな〜〜、なんて呑気に考えていると急に目の前に影ができる。

「え、…?」

と、思った時には目の前には先ほどまで隣に居たはずの大地。
体をひねって上から覗き込むように私の顔を見つめる大地の表情は何故か少し真剣だ。

不意に近くなった距離にドキッとして、体は無意識に後ずさろうとする。
が、2人して座って居たのは体育館の壇上下にある板の壁。無論、後ずさったところで後ろには壁なので距離は変わらず………というより……

「だ、大地ッ、ちか……いッ!?」

変な声が出そうだったのでせめて目線だけでも逸らそうとする私よりも、大地の方が上手だった。

首元に顔を埋められ、ほんの一瞬鎖骨付近で空気が動く。

すぐに顔を離した大地は小さく頷くと、いつもの爽やかな笑顔を向けてきた。

「確かに…汗かいてるといつもより強くお前の匂いがするな」
「……な、っ……!?」

変な気になりそうだわ、なんて言いつつぽんぽんと頭を撫でながら向けられた言葉に、身体中がカッと熱くなる。暑さとは違う汗が背中を伝っていくのがわかった。

「お、照れたか?顔…赤いぞ」
「う、るさい……!!照れてない!!何言ってんの!?」
「思ったことを言っただけでしょーが」

この余裕な表情がムカつく。
別にキスしたわけでも、直接触れられたわけでもないのに不意にこうやって距離が近くなるのはどうにも慣れない。
食えない男を好きになり、恋人になってしまったが故のこの苦労……

しかし惚れた弱みとでもいうのか。

満更でもないとどこか思ってしまっている自分が、大地の思い通りにされているような気がしてまたムカつく。
そんな自分の気持ちを誤魔化すようにぎゃいぎゃいと反論するのだ。

「それが大地はずるいの!だいたい場所ぐらい考え………」

そこまで怒鳴ってふと視線を感じてコートへ目を向ける、と……

顔を真っ赤にして、驚きと照れ臭さと焦りを含めたなんとも器用な表情でこちらを見つめていたのは、先ほどまで自主練していた一年コンビ……

バチっと目があってしまった日向が大げさなほどに肩を震わせた。

「っあ、えっと!!!オレ!!何もみ、みみみみみてないんで!!!2人がキスしてたとか!!!
「じ、自分もっス!!!!!!見てねぇ、ッです!!!」
「キ、キス!!??ちょ、ちが……ッ!!」

キスなんてしてない!と弁解する暇もなく、あたふたとネットを片付けた日向と影山は「お疲れ様っした!!!」と舌足らずに言いながら転びそうになるほど慌てて体育館を出て行った。

ポカンとその姿を見送ってしまった私の隣では、くつくつと喉で笑う大地。

「…………大地のせいで私は明日の朝練休みます」
「それは主将として許可できないな」
「心の傷が深すぎました」
「なら、それを癒してあげれば問題ないわけで」

相変わらず楽しげな大地には全く反省の色がない。
その様子にため息をついて手元へ視線を移せば、いつの間にかきつく握りしめていたのかビブスはくしゃくしゃになっていた。

「大地のせいだ」
「そうだな。手伝うぞ」

んで、さっさと終わらせて帰りますか。なんてまた爽やかな笑顔を向けてくるんだから、少しだけ頬が熱くなる。

どうにもできない熱さを持て余しながら、私はせっせと片付けを再開した。



end.




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