君がいい
ずっと好きだった。
長い長い私の片思いで、それでも自分の気持ちはしっかり口にしてきたはずなのに、彼──五条悟はずっと知らないふりをしていた。だから私も気持ちを伝えることをやめた。なんだか負けた気がするから。いや、そもそも勝負にすらなっていない気がするけれど。
「五条君、伊地知君が呼んでたよ」
「そうなの? 次の任務かなぁ……ちょっと聞いてきてよ」
「何で私が。嫌だよ」
「えー……一緒に行ってくれるなら行く」
面倒なのか駄々をこねる彼を引きずるようにして伊地知君の所へ連れて行くと、これでもかというくらい頭を下げながらとても感謝された。普段呼んでもすぐに来ないらしい。伊地知君も大変だなと思いながらいつの間にか入れるのが癖になっていたポケットのチョコレートを渡すと、更に喜ばれたのでなんだかこちらも良いことをした気分になった、のに。
「え、僕の分は?」
「ないよ」
「伊地知にはあるのに?」
彼の分が最後の一個だと伝えるとまた駄々をこねるこの男は本当に成人男性なのだろうか。顔が良くなかったら確実に通報されるだろう(とは言ってもここは高専の中だからこの状況を見て通報するような人間は皆無だが)と思いながら冷ややかな目線を向ける。
「僕のこと嫌い?」
「別に嫌いじゃない」
「好き?」
「好きか嫌いかと言われたら好き」
「嘘。大好きなくせに」
「……その感情は制服と同時に卒業したから」
私の言葉にジッとアイマスク越しに目を見てきた彼ではあったが、それ以上私が何も言わないからか目線を逸らした。
「僕はずっと好きだよ」
「はいはい。友達としてでしょ。知ってる」
自嘲気味に言葉にすると腕を掴まれた。地味に痛い。
容赦ないなぁと思いながら顔を覗き込むと、困った様な顔をする五条君がいて、初めて見る表情に胸がチクリと痛んだのはきっと気のせいではない。
「オマエから告白してもらおうって考えが悪かったみたいだね」
その言葉に疑問をぶつける前に視界が五条君でいっぱいになって、唇を奪われた。
「もう遠慮も容赦もしないから」
そう言った彼の顔は先程までの可愛らしい姿は見間違いだったのかと思うくらい、いつもの飄々としたものに戻っていた。
「……ほどほどにして欲しいんだけど」
私の言葉は恐らく彼に届いたが、彼はそれを笑顔で黙殺した。
きっとこれからも私は彼に振り回されるのだろう。
だけど、それが少しだけ楽しみだと思える様になったのは彼が私のことを好きだという事実があるからだと思う。
「五条君」
私の言葉に彼は首を少しだけ傾げる。
「好きだよ」
今度は彼が恥ずかしがる番だろうとにっこり笑ってそう言うと、私の思惑通り顔を赤く染めてくれた。