きみの傍にいる方法

※夢主本丸の鶴丸国永が(基本的に)刀剣女士


 うちの本丸は、他の本丸に比べればまだ新しい方の本丸だ。今のところ、刀剣は三十振りに満たない程度。本丸のメンバーは、短刀、脇差、打刀が中心だ。大太刀と太刀という重要な戦力が欠けている我が本丸は、彼らが来てくれるのを心待ちにしていた。兄刀が太刀であるという刀剣男士もいる。また、審神者としての戦績が伸びれば彼らの生活にちょっとは贅沢を取り入れることもできるだろう。私はそんな、いつもお世話になっている彼らのために、そして戦力増強や私の成績のために、何としてでも大太刀や太刀を顕現させたかった。
 しかし、鍛刀の戦績はどうだ。同名の刀は本丸に二振りも顕現させないというのが我が本丸のセオリーである。結果は今のところ全敗。表示される一時間半という数字に、数日近侍を務めてもらっている堀川国広も私も飽き飽きとしている。何がいけないと言うんだ。これが物欲センサーか。滅多に現れないと言われる通称レア太刀の皆さんじゃなくても太刀なら正直誰でもいい、というのは神様に失礼かもしれない。それでも私にはなりふり構っていられない理由があるのだ。ちょっと美味しいご飯が食べたい。みんなでちょっとした贅沢をしたい。戦績が上がればそんなこともできる。資源を入れて、依頼札を鍛刀妖精さんに手渡す。そして私は外に出て、手を合わせた。
「神様、仏様、お願いします……!今度こそ私や本丸のみんなのためにステータス高めの太刀や大太刀をお恵みください……!」
「神である刀剣男士を降ろすのに神頼みなんて、主さんも面白いことしますね」
 顔も名前も知らない神に祈る私を見て、堀川国広がくすくすと笑う。うるせいやい。こうでもしないときっと出てきてくれないんだよ、多分。
 恐る恐る、顔を上げる。資源もカツカツなので、しばらく鍛刀はお休みしたいところである。頼む、これを最後にしてくれ。そう思いながら、表示時間を見る。
「……さ、さんじかん、にじゅっぷん」
 見間違いかと思い、もう一度表示時間を見る。三時間二十分。この数字は、太刀も太刀、それも滅多に現れないと言われるレア太刀だ。
「堀川くん天才か……!?」
「いえ、僕は何もしてませんよ。主さんの祈りが彼に通じたんじゃないですか?」
「ありがとう顔も知らぬ神様」
 珍しく堀川国広が優しい。更に出ているのはレア太刀。きっと私のお祈りは神様や仏様、そしてこの太刀様に通じたのだろう。
 私は手伝い札を取り出した。うちは軽傷でも手入れを怠らないホワイトもホワイトな本丸である。ビビって進軍させてないわけではないからそこは注意な。というわけで、手伝い札には困っていないのである。こんなときに手伝い札を使わなくてどうする。
「こんのすけ」
 管狐の名を呼ぶと、どこからともなくそれは現れた。頭にはタオルを巻いている。こんのすけは私の手元を見て、
「手伝い札を使いますか?」
と、問うた。私は躊躇うことなく、
「お願いします」
と、答えた。
 さてさて、表示されているのが三時間二十分でレア太刀確定ということは、これから現れるのは鶴丸国永、鶯丸、一期一振、江雪左文字のどれかということになる。
 さっきも言ったけど、我が本丸は短刀、脇差、打刀が多い。できれば大勢力である粟田口の長兄こと一期一振が来てほしい。もしくは江雪左文字。江雪左文字さん、弟の小夜左文字や宗三左文字が待っていますよ。
 物欲センサーと闘いながら、鍛刀妖精が持ってきたその刀に、私は霊力を込めた顕現札を乗せる。一瞬辺りが眩く光り、刀剣が人型に顕現したことを示す桜が舞う。
 私は、現れた人型に、息を飲んだまま唖然とした。我々審神者が呼び出すことのできる付喪神は、最強の付喪神とも呼ばれる「刀剣男士」である。刀剣男士という名の通り――乱ちゃんのように女の子みたいな見た目の子もいるけど――彼らは人間の男の姿で現世に現れる。
 しかし、その人型はどうだ。真っ白な美少女だ。何と言えばいいのだろう。語彙力のない私の辞書から言葉を引っ張り出して彼女(?)を表現するならば、透き通った白い肌に、アルビノチックな白くて綺麗な髪と、まあとにかくめちゃくちゃ好みの見た目をしているのだ。雪の精霊か、本当は刀の付喪神ではなく某大好物の大福の妖精なのではないか。そんなことはない。だって顕現札はちゃんと刀に乗せたんだから、彼女は間違いなく刀剣の付喪神だ。
 ふと、他の審神者さんから聞いた話を思い出した。最近、顕現札使用時のバグで、刀剣男士が女の姿で顕現されてしまうのだとか。その審神者さんのところでもそんなことがあったのだとか、なんとか。うちは大丈夫って聞き流していたけど、まさか。
「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」
「めっちゃイケボじゃないですかぁ……」
 彼女の第一声こと顕現時の台詞を聞いて、隣の堀川国広が「主さん」と呼んだことにも気づかず、私は小さな声で呟いた。見た目は美少女なのに発せられた声は男の人のそれだと誰が思うのだろうか。ていうか貴女(貴方?)が噂の鶴丸国永様だったんですね。巷では驚きと称していたずらをしでかす古刀ということで「びっくりじじい」と呼ばれていることもあるらしい。しかし、何度も言うようだが、そんな彼も今では立派な美少女だ。何でだよ。
「……ん?どうした?驚きすぎて声も出ないか?」
 目を丸くして私の顔を覗き込む美少女もとい鶴丸国永に、私は、
「……ええと、あの、ちょっと、自分の身体を見てもらってもいいですかね……?」
などとわけのわからないことを言い出した。私の言葉に、彼(というか彼女)は自身がどんな状況に置かれているのかに気付いたようで、自分の胸を両手で少し持ち上げる。ああ、いけませんお客様。綺麗なお胸が着物から溢れてしまいます。
 彼女は明らかに自身の意図とは違うだろう見た目で顕現させられた身体を見下ろして、
「……こいつは驚いた」
と、一言呟くのだった。

「これは顕現札使用時のバグですね」
 鶴丸国永の身体をまじまじと見て、こんのすけは一言言い放った。
「ばぐ?ばぐとは何だ?」
 鶴丸国永は首を傾げた。私が男だったら絶対この子に惚れている自信があるなあと思いつつ、
「不具合のことだよ」
と、答えた。
「ああ。本来は刀剣男士として顕現するところを、そうだな……あえて呼ぶなら、刀剣女士として顕現してしまった、と、そういうことかい?」
 さすがは平安に打たれ、様々な人間を見てきた刀、と言ったところだろうか。察しが早い。
「そういうこと」
私は頷いた。
 こんのすけはため息を吐いて、
「最近多いんですよ、こういうの。特にレア太刀の皆様に起こりやすいと言われていまして、他の本丸では短刀サイズの一期一振や薙刀サイズの江雪左文字、他にも鶯そのままの鶯丸が顕現されたとか」
と言い放つ。ということは、鶴の姿で顕現されてしまった鶴丸国永もいるのだろう。彼らはどうなったのか、正直気になるところではある。
 その疑問はすぐに晴れることとなった。こんのすけ曰く、
「そのような刀剣は、出陣時には刀剣男士としての姿で送り込まれるようです」
とのことだ。
 この目の前の美少女な鶴丸国永ちゃんもそうなのだろうか。私はこんのすけに疑問を投げかける。しかし、こんのすけは首を横に振った。
「ただ、例外もあります。刀剣女士として顕現されてしまった刀剣男士は、出陣してもその姿のまま、とのことです」
 こんのすけの話によると、どうやら女の子の姿で顕現してしまったケースとそうでないケースでは、勝手が違うようだ。
 刀剣女士として顕現してしまった刀剣男士は、審神者から供給される霊力を大量摂取すれば、一時的に刀剣男士としての姿に戻ることができるらしい。しかし、それはあくまで一時的であり、大量摂取となると審神者側の負担が大きい。それゆえ、刀剣女士となってしまった彼女が刀剣男士に戻る方法は、今のところ、ほぼ無いに等しい。
「うーん……」
 私はちらり、と鶴丸国永を見た。彼女の表情は暗いものではない。寧ろ、身体を得た喜びを噛み締めているような、そんな印象さえ覚える。どうやら彼女は自身が女の姿で顕現したことについて、そこまで深刻に悩んではいないらしい。
 正直なところ、男所帯のこの本丸で、彼が彼女として顕現してくれたことは願ったり叶ったりであった。とても個人的な話になるが、私は女友だちが少ない。いくら周りが美男ばかりとは言え、女の子と接する機会が無いのは少し寂しいものがある。酷いときなんか、母親が恋しくなって、少しばかりホームシックになることもあった。だから、新しい女友だちができるみたいで、ちょっとだけ嬉しかったのだ。
 しかし、彼女はそうは思ってなかったら。表面上は気にしてなさそうでも、本当は気にしているのかもしれない。
 そう思う一方で、私は、彼女が望んだとしても簡単に刀解させたくなかった。彼女は太刀である。何度も言うようだけれども、短刀、脇差、打刀しか居ないこの本丸において、彼女は重要な戦力になり得る存在だ。ましてや、あのレア太刀の一振り、鶴丸国永ともなれば、鍛刀の希少性や顕現確率にあまりこだわりのない私でも、彼女のステータス的に、彼女を手放すのを渋ってしまう。
「……あのさ」
 私は、意を決して口を開いた。
「原因が分かって改善策が見つかるまで……しばらくその姿のままで居てもらってもいいかな?想定してたのと実際の身体の勝手が違って、不便だとは思うけれど……ええと、ほら、私も頑張るから!」
 自分で言って、何を頑張るのだ、と突っ込みを入れたくなった。まあ確かに先程言った通り、この本丸は私以外全員が男で、さすがに彼らや彼女や私の精神衛生上、主に着替えとかお風呂とかは絶対に彼らと別の方がいいだろうなって思うけども、それ以外に何を頑張るというのだ。ほぼ政府の調査機関やこんのすけに早く改善してあげてと頼むくらいしかできないじゃないか。
 そんな私の心配なんて吹き飛ばすくらいの笑顔で、彼女は言う。
「ああ。顕現された直後は、さすがの俺も戸惑いを隠せなかったが……この姿なら余計に退屈しなさそうだ」
 彼女は、自分の身体の具合を確かめるように、手を握っては離しを繰り返す。
 あっ、なんだ。私が思ってたよりも、彼女は全然大丈夫そうだ。
「これからよろしく頼む」
 そうやって私に微笑みかけてくれる鶴丸国永ちゃん、まじ天使かよ。
「うん、よろしくね……!大事にするよ!」
 彼女が刀解を選ばなくてほっとしたとか、怒ってなくてよかったとか、なんかいろいろ安心感や嬉しさが込み上げてきた。そして、こんのすけが呆れたような困ったような顔でこちらを見ているのにも構わず、思わず彼女に抱きついた。そんな私を受け止めながら快活に笑う彼女に、改めて、私が男だったら絶対惚れてたなあと思うのだった。



 鶴丸国永が鶴丸国永ちゃんとして顕現されてから、早三ヶ月近くが経過した。
 刀剣女士として顕現されてしまったため、刀剣男士諸君とは同室では無い方がいいことや、何かあったときのために審神者兼本丸の主である私の目の届くところに居て欲しいことなど、いろいろ考慮した結果、近侍は常に彼女に任せることにした。
 さすがはレア太刀四天王の一振り、彼女の有能っぷりは初期刀にも負けず劣らず素晴らしいものだった。
 出陣させれば、誉は常に他の刀剣男士を差し置いて彼女が取ってしまう。彼女が帰ってくると、必ず周囲には桜が舞っている。本質が退屈が嫌いで驚きを求める悪戯好きの刀剣なので、多少おてんば(って言えばいいのかな?)なところはあるけれども、仕事はきっちりこなす。更に、今まで鍛刀で降ろすことのできなかった刀剣男士も、彼女のおかげで無事本丸に迎えることができるようになった。彼女が拾ってきた刀剣も数知れない。頭が上がらないとはこのことだ。
 有能な彼女に対して不満なんて全く無いし、むしろ心の底から感謝している。しかし、少しだけ問題点がある。
 それは、めちゃくちゃスキンシップが多いことだ。
 決して嫌ではない。嫌ではないんだけど、どうしてだか距離が近いようなそんな気がする。慣れないことも多いだろうからということで、最初の頃は一緒にお風呂に入っていた。彼女は眠るのがとても苦手なようで、就寝時には一緒に寝ていた。
 いや、そこまではいいんだ。問題は、三ヶ月近くもずっとその調子だ。
 信じられるか。今だって私の隣で鶴丸国永とかいう美少女が同じ布団で寝てるんだぜ。正確には寝ようとしているんだけど。
 やはり他人の目から見ても私たちの距離はかなり近い方らしく、初期刀の加州清光には、
「ねえ、そこまでべたべたしないほうがいいんじゃない?だって、女の姿をしてたって、元は俺たちと同じ刀剣男士でしょ。ひなはもう少し危機感を持ったら?」
と、言われた。危害を加えるような子じゃないから大丈夫だとは思うけど、それにしたって、加州清光の言う通り、確かに、いろいろ近いような気がする。
 苦言を呈す加州清光に対して、鶴丸国永は、
「女同士なんだ、何の問題がある?」
と返していた。彼女の言葉に対し、私も加州清光も何も言い返せなかった。私はむしろ、「そうだよね、何の問題も無いよね」と、納得さえしていた。
「ひな……?寝ないのかい?」
 私がまだ起きていることに気付いたのだろう、鶴丸国永が問うた。
「あー、うん。ちょっと、寝付けなくて」
 私は答えた。
 なんだか今日は目が冴えていた。明日、私たちの部隊も演練に参加することになっている。
だからだろうか。目をつむって眠りにつこうにも、ふわふわした高揚感や不安感が襲ってくる。そわそわして落ち着かない。
「明日は早いんだろう」
「分かってるんだけど……寝れないというか」
 彼女の言葉に、私はそう返した。寝なければ明日に差し支えると分かっていても、やっぱり不安になってしまう。定期会合とは違って演練は審神者同士の交流場面が多いと聞く。本丸の刀剣男士と仲良くなるのでさえ割りと時間がかかっている方なのだ。ましてや、うちは彼女が来るまで弱小本丸と言っても過言ではなかった。交流相手は本丸の刀剣男士のように好意的に見てくれるとは限らない。
 私はつい、
「明日、やだなあ」
と、零してしまった。
「どうしたんだ。らしくないな」
 私のつぶやきを拾った彼女はそう言う。
「……加州から聞いたぞ」
 ぽつり、と彼女は零す。私は、びくっ、と肩を震わせた。
「きみが演練に参加したがらないのは、最初の演練が原因だと」
 どうなんだ、と言いたげに、彼女が目で問う。しかしながらそれは、決して責めるようなものではなく、心配そうな眼差しだった。
 私が演練に参加したくない一番の理由は、他の審神者に会うからではない。彼女の言うとおり、最初の演練のせいだ。
 それは初期刀と短刀しか居なかったころのことだ。練度が高くレア太刀のみで構成された他の本丸の部隊にボロ負けして、弱小レッテルを貼られたことは記憶に新しい。
 「薙刀、槍、大太刀、どころかレアでもない太刀さえ降ろせないなんて」 とか、「采配が下手くそ」とか、とにかく私だけが文句を言われるだけならいい。けれど、そのせいでみんなが悪く言われたのが一番のトラウマだった。
 一番、「弱い短刀は何も出来ないな」という男の人の言葉が、私の胸を抉った。彼らは立派に任務をこなしてくれているし、彼の言っていることは全くもって正しくない。お前は命令して彼らにしてもらってる立場の人間だろうが、とも思った。
 しかし、負けた私たちは何も言い返すことができなかった。みんな、「主は悪くない」と言うけれど、矜持を傷付けられて辛くないわけがない。彼らが戦闘で傷ついて帰ってくるのも本当は嫌なのに、これ以上彼らが傷つけられるのは見たくなかった。
 そんなことから、私は演練の参加を渋っていた。しかし、政府がそろそろ演練に参加しろとうるさいものだから、仕方なく申し込みをしたのだ。
「この本丸はきみたちが負けた当時とは違うんだ。彼らも強くなっているし、今では刀種も増えただろう。打刀と短刀の部隊で負けたのなら、部隊や作戦を変えればいいだけの話じゃないか」
 そして、
「きみはこの本丸の主なんだ。俺たちを信じて、どっしりと構えていればいい」
彼女はそう言った。
 柄にもなく、ちょっと泣きそうになった。今までは、私が本丸の主だからみんなを守らなくちゃと、一人で立っている気になっていたのかもしれない。
「うん……ありがと」
 私が礼を言うと、彼女は私の頭を撫でた。いつまでも不安で寝付けない私をあやすような、そんな優しい手だった。
「さあ、もう寝てくれ。きみが寝てくれないと、俺も眠れないからな」
 彼女はそう言う。赤子を寝かしつけるように一定のリズムで私の身体を、とん、とん、と優しく叩く。安心したのか、さっきまで全く無かった眠気が襲ってきた。
 深い眠りにつく直前、遠くで、
「……きみは俺が守ってやる」
と、彼女の声が聞こえた気がした。



 そうして迎えた演練当日。
 審神者である私の隣に部隊長として立つ彼女(というか彼)の姿が姿だからか、多くの視線がこちらに集まってくる。目立つのは得意ではないので、なんだかいつも以上に緊張する。
「大将、手、震えてる?」
 後ろから、部隊員の一振りである信濃藤四郎が私に問いかけた。
「だ、大丈夫!……多分」
 私は振り向いて、笑顔を作って答えた。正直、何も大丈夫ではない。人間、一度深い心の傷を植え付けられると、それはなかなか癒えないのだ。きっとこの笑顔も引きつっている。
「ひな、」
 私の作り笑顔に気付いているんだろう。加州清光が何かを言いかける。
 しかし、それは遮られた。
「ひな」
 他の本丸のそれとは違う美少女姿の鶴丸国永に、ぽん、と頭を抑えられた。そうして、わしゃわしゃと撫でられる。
「ちょっ……!さっき整えたばっかりなのに!」
 私が抗議すると、彼女は楽しげに笑って、ぐちゃぐちゃになった私の髪を直していく。
「そうそう。先程のような作り笑いよりも、その笑顔の方がきみには似合う。そのまま、」
 そうして、私の肩を掴んで前を向かせて、
「本丸の主として、堂々と立っていればいいんだ」
と、彼女は言った。ちらり、と首だけ後ろを向いて、彼女を見上げる。すると彼女は、
「な?」
と言って、優しそうな眼差しでこちらを見つめている。
 なんだか大丈夫な気がしてきた。私が頷くと、彼女は満足そうに、同じように頷いた。

 番号札をもらって、グループ分けされた演練場付近に行くと、対戦相手たちとそれぞれの部隊が集まっていた。
 私は、ちらり、と鶴丸国永を見た。演練区画なんて、めったに来ることができないところだ。だからてっきり、彼女はいろんなところを見て回ろうとするもんだと思っていた。
 しかし、私の予想とは裏腹に、落ち着いた様子で周囲を見渡している。なんだか、誰かを探している様子だった。一応、うちの本丸にはインターネットなどの通信環境も整っている。私が知らない間に、他に審神者に仕える刀剣男士の知り合いができていてもおかしくないだろう。
 彼女の横顔をじっと見つめていると、
「わっ!」
と、後ろから大きな声が聞こえた。
 それに驚いて、私は思わず、
「ひえっ!」
と声を出し、びくっ、と肩を大きく震わせた。同時に、ぐいっ、と鶴丸国永に腕を引き寄せられる。そうして、彼女は守るように私を腕の中へ収める。あの、顔におっぱいがダイレクトに当たっているんですがそれはいいんですか。
「……なんだ、『俺』か」
 鶴丸国永が大きなため息を吐いて、腕の力を緩める。私は何が起こっているのか分からず、状況を確認しようと、彼女から顔を離して声の主を見る。
「いやあ、珍しい姿の『俺』が居たもんだから、つい……ああ、『俺』、そんなに睨まないでくれ。その子を取って食ったりはしないさ」
 そこには、他本丸の鶴丸国永がいた。刀剣男士として顕現できているからか、うちの鶴丸国永よりも背が高い。刀剣男士・鶴丸国永の本当の姿ってこんな感じなんだなあ、と、ついまじまじと見てしまう。
「あまり見かけない顔だな。新人かい?」
「そうだな。審神者に就任して、まだ一年足らずという意味では、この子は新米だ」
 向こうの鶴丸国永に対し、うちの鶴丸国永はとげとげした口調で返す。字面に起こすとそうでもない台詞が、いつになくイライラしているような口調で聞こえる。
「へえ。新米審神者なのに刀剣女士の『俺』を引き当てるとは……」
 そう言って――同じ刀だから当たり前なのだけれど――彼女と瓜二つの彼は、まじまじと私を見る。私の肩を抱く刀剣女士の鶴丸国永の手に、力が込もる。ちょっと痛い。
「余程、『俺』たちに好かれやすいんだな、きみは」
 ははは、と笑ってみせる姿は彼女と全く同じだ。鶴丸国永はそういう刀なのだろう。見た目や考え方が違っても、本質的には同じらしい。それはそうか。
 刀剣男士の鶴丸国永がこちらに手を伸ばす。すると、すぐさまうちの鶴丸国永がそれをはたき落とす。
「駄目だ」
「あまりにも好ましいもんだから、少し霊力を分けてもらおうと思ったんだが……駄目かい?」
「駄目に決まってるだろ!きみにはきみの審神者がいるんだ。さっさと主の元へ帰ってくれないか」
 ぽかん、として私は二振りのやりとりを見ていた。好ましいとか好ましくないとか、よく分からないなあと思いつつ、そろそろ恥ずかしいから離してほしいなあと彼女の腕から出ようとした。しかし力が強く、びくともしない。女の子の見た目でもやっぱり刀剣男士は刀剣男士であるようだ。
「こんなに面白い『俺』と審神者を見つけたんだ。すぐすぐ帰るわけにはいかないねえ……」
「帰れ。今すぐこの場から離れてくれ。でないと斬ってしまうかもしれないが、いいのかい?」
「おやおや、この『俺』は随分と余裕がないようだ。見た目だけじゃあ好いた子に好かれないぜ?」
「刀剣男士の『俺』はどうやら余程斬られたいと見た」
「好戦的なのは嫌いじゃないが、ここは演練場の外だからなあ……下手に手を出すと困るのはきみじゃないか?」
 二振りが何やら言い合いをしていると、「ピンポーン」のあとに、アナウンスが鳴る。
「おっと。俺たちの番か」
 どうやら刀剣男士の鶴丸国永の本丸が呼ばれているらしい。彼は、
「もう少し遊びたかったんだが、残念だな……」
と、わざと残念そうに言う。さっきのは遊んでたんですか。
「まあ、縁があれば、また会おうじゃないか!ああ、それと、」
 彼はその場を去ろうとして、うちの鶴丸国永に耳打ちする。
「……その姿で居ようとするのも、そろそろ限界だと分かってはいるんだろう?いつまでそうしている気だ?」
 それは確かに小さな声だが、近くに居た私にも聞こえるような声だった。彼はもう少し続きを言いたげな様子だったが、それを遮るように、
「この野郎……!演練で当たったら完膚なきまでに叩きのめしてやろうか……!」
と、彼女は大声で言った。
「ははっ、そりゃあいい!女の『俺』の本気、見せてもらいたいものだな!」
 彼はそう言って、手をひらひらと振って、風のように去っていった。むしろ嵐のようだったかもしれない。

 刀剣男士の鶴丸国永が去ったあと、私はとある審神者を見つけた。その顔を見るなり、私は、
「げっ」
と、小さく声をあげた。そいつは、過去の演練で私に深い心の傷を与えた男審神者だ。
 前回と同じく、天下五剣の三日月宗近を中心とした部隊構成。前回の参加は審神者に就任したばかりの頃だったから、半年くらい前の話だ。それなのに、馬鹿の一つ覚えのように、彼はレア太刀を見せびらかしている。
「へえ、あいつが例の、きみをいじめた審神者かい?」
 鶴丸国永が私に問うた。私は、こくり、と頷いた。
 男審神者がこちらの視線に気付いたのか、こちらへと向かってくる。嫌だ、と反射的に後ずさりしかけたが、鶴丸国永が私の手を握って、
「大丈夫だ」
と、私に言って聞かせる。私は、彼女の手を握り返した。
「ああ。君が今日の対戦相手か。よろしく頼むよ」
 男審神者が言う。私は、
「よ、よろしく、おね、お願いします!」
と、どもりながら返した。
 彼は、私の連れてきた刀剣を見回した。
「短刀が二振り、脇差が一振り、打刀が二振り、太刀が一振り……それも、刀剣女士の鶴丸国永か。呆れたものだな。可哀想に、正しい姿で自分の刀剣を顕現してやれないとは」
 その口から出てくる言葉は、相変わらず棘がある。嫌味なやつだ。半年前とちっとも変わっていない。
「きみたちがよく知る姿で顕現されたからと言って、俺たち刀剣の全ての力を引き出せるとは限らないさ」
 鶴丸国永が言う。男審神者は驚いた顔で彼女を見た。
「見たところ、三日月宗近や他の珍しい太刀はきみのところに集まってくれたようだが、『俺』は……『鶴丸国永』はどうした?」
 彼女はそう言い放った。確かに、彼の部隊には鶴丸国永の姿が見当たらない。前回もそうだった。鶴丸国永は一振りも居なかった。
「まさか、古参の審神者ともあろうお方が、『俺』を鍛刀できないだなんて……余程、『鶴丸国永』に嫌われてるんだろうなあ」
「……何?」
 男審神者は眉を顰めた。私は、鶴丸国永の挑発に分かりやすく乗ってくる彼の様子を見て、いい気味だ、と思った。これはリベンジマッチ、私たちは勝ちに来ているのだ。
「新参の本丸が……舐めやがって……」
 男審神者は私を睨みつけた。そうして、歪んだ笑みを浮かべる。
「そうだ。一つ賭け事をしようか」
 そして、男審神者はとんでもないことを言い出した。
「こちらが勝てば、そちらの刀剣女士の鶴丸国永を戴こう」
「はあ!?そんなこと、できるわけない!」
 男審神者の言葉に、鶴丸国永ではなく加州清光が声を上げた。
「刀剣の譲渡は禁じられてるって、古参のあんたなら知ってんじゃないの?」
 加州清光が反論する。私はもっと言ってやれ、と思った。まさか、こいつ、うちの鶴丸国永を奪って、あんなことやこんなことをするわけじゃないだろうな。エロ同人みたいに。私は嫌な想像をしてしまった。
 同時に、私は思った。こんなやつに、私の大切な刀剣を奪われたくないと。
「何、鶴丸国永が自らの意思でこちらに来たいと言った、と言えば、譲渡にはならないさ」
「そんな屁理屈、通るわけ……」
「分かった」
 加州清光の言葉を遮って、鶴丸国永が承諾した。
「きみの刀剣が俺たちに勝てば、俺はそちらに行こう」
「ちょっと、鶴丸さん……!」
「許可をくれ、主」
 鶴丸国永は私の方を見た。顔は笑っているように見える。しかし、私は目が合った瞬間に分かった。
 彼女は、今まで見たことがないくらい、怒っている。
「……主」
 彼女には彼女の考えがあるのだろう。
「……わ、分かりました」
 私が承諾すると、鶴丸国永は、
「ただし、」
と続ける。
「俺たちが勝てば……そうだな。こちらが提示する数の小判を譲渡することと、二度と俺たちの前に姿を現さないことを誓ってもらおうか」
 彼は言う。小判なんかじゃ足りないと私は思ったが、一応、これは彼女と男審神者の取引だ。私は口を挟まないことにした。
「いいだろう」
 男審神者の了承を得た瞬間、彼女は口角を上げて、
「……言ったな?付喪神とはいえ……神との約束は絶対だぜ」
と言った。
 男審神者が、自分の席へと向かっていく。私は、
「ねえ……大丈夫なの?」
と鶴丸国永に問うた。
「……きみは、俺があっちに行っても平気かい?」
 彼女は私に問いかけた。私は、ふるふる、と首を横に振った。
「それなら、俺を……俺たちを信じてくれ。必ず、きみのために勝ってみせよう」
 彼女はそう言って、
「驚きの結果をきみにもたらそう」
隊長に任命されたときの、お決まりの台詞を口にするのだった。

 結果はどうだ。一当事者である私もぽかんとなるくらいには、それはすごい闘いだった。
 久しぶりに間近で見る戦闘は、目を見張るものがあった。
 私たち審神者は、基本的に、部隊のバイタルをモニタリングし、彼らの通信から敵の状況を把握、そして命令を下すしかない。
 いつもは音声のみでしか聞こえない戦闘が、目の前で繰り広げられている。前回参加していたメンバーは前回よりも動きが良くなっている。今回初めて組み込んだ鶴丸国永や信濃藤四郎は、こんな動きをするのか、と、他の子も見なければならないのに、つい目で追ってしまう。
 彼女が言っていた「大丈夫だ」という台詞は、こういうことなのか、と理解した。同時に、私はみんなのことを、まだまだ何も知らなかったのだ。
 相手は、太刀中心の部隊。硬い。刀装もなかなか破れない。
 しかし、そこで負けないのが私の本丸。短刀だろうが、脇差だろうが、どんな刀種だろうが、強い相手にも負けないような闘い方をしてきた。無理はしない。しかし、負けない。勝たなくてもいいから最低限負けない闘いを身に付けてきた彼らは、私の想像以上に強かった。
 部隊員全員が、鶴丸国永と相手の部隊長の三日月宗近との一騎打ちに持ち込むために、懸命に闘ったのだ。一騎打ちこそ、分が悪くも――唯一、勝算のある賭けだった。
 三日月宗近を下した後、鶴丸国永が観戦席にいる私へ向けた笑顔は忘れない。

 演練場からみんなが戻ってきたのだろう、ぱたぱたと足音が聞こえる。
「ひな!」
 鶴丸国永が私を呼んだ。私は彼女の声のする方を向く。すると、彼女が抱きついてきた。私は、受け止めきれず、よろける。倒れそうになるが、なんとか踏ん張った。
「な?言っただろう?勝ったぜ」
 先程の殺気はどこへやら、彼女は満面の笑顔で言う。
 ほっとしたのとか、不安が解消されたのとか、いろいろなものが込み上げてきて、視界がぼやけてきた。
「よかった……本当に……よかった……」
「きみが見てくれているんだ。負けるわけがないさ」
 彼女は私の目から溢れる涙を、その指で拭き取る。
「ああ、きみは泣き虫だなあ」
 彼女は笑って言った。



 あの演練の一件以来、彼女が過保護になったような気がしてならない。戦で疲れているだろうに、何故かことあるごとに私の世話をしたがるのだ。
 書類などの事務仕事はもちろん、着替え、化粧、身体を洗うこと、エトセトラ、エトセトラ。餌付けのように私の食事まで手伝おうとしたときはさすがのへし切長谷部も止めにかかった程度だ。
「最近、鶴丸の様子がおかしい」
「そーね。鶴丸国永ってあんな刀だっけ」
 今日――とはいえ、もう三時間ほどしたら明日なのだが――の近侍である加州清光は、私に同意するように頷いた。彼の目はどこか遠くを見つめている気がする。
 彼の横には、あの男審神者からこれでもかというくらい請求した小判が置いてある。倉庫に入り切らなかった分なので、実はまだまだたくさんある。
「最近いたずらを仕掛けてこないと思ったら、甲斐甲斐しく主の世話をしだすし。何か企んでるとしか思えないんだよね」
「企んでるって?」
 私は加州清光の言葉を拾って問いかける。しかし、
「さあ」
と彼は首を傾げた。そして、
「悪巧み、ってほど悪巧みでは無いんだろうけど……」
彼は続ける。なんだか、さっきから含みのある言い方ばかりしている。
「とにかく、気をつけて」
「気をつける、って何を」
「いろいろ。特に身体?」
 彼は言う。ますますわけがわからない。
「え……?私、鶴丸に謀反を起こされるようなこと、した……?」
「いや、斬られるとかそういうのじゃなくて……」
 加州清光が続きを口にしようとしたときだった。
「ひな、入ってもいいかい?」
 扉の向こうから声がする。鶴丸国永だ。
「噂をすればなんとやら、って?」
 加州清光が書類を整えながら、小さな声で言った。そうして、
「んじゃ、これ終わったし、俺はそろそろ寝るね。おやすみ、ひな」
と言って、部屋から去っていく。
「あ、うん。おやすみー」
 私は就寝の挨拶を加州清光に返す。すると、彼と入れ替わりで鶴丸国永が入ってきた。彼女は戦装束でも内番服でもなく、就寝時にいつも使用している着物に身をまとっていた。
「もういいのかい?」
「うん。もうお仕事は終わったからね」
 加州清光が置いていった書類に、各部隊長から渡された報告書を重ねながら、私は答えた。そうすると彼女は、ふにゃりとした笑顔を向ける。みんなの前には見せない、彼女の気の抜けた笑顔が、私は大好きだ。
 私たちは部屋を後にして、いつものように二人で寝室へと向かった。

 その夜は、珍しく夜中に目が覚めた。暑苦しさを感じたとか、ストレスでだとか、そういうことは一切ない。夜中に目が覚めるなんてことは、年に何度かあることだ。
 私は、とある異変に気が付いた。彼女はいつも私を抱きしめて寝るから、ふわふわしたおっぱいがいつもは目の前にあるのだ。ところが、なんか今日は違う。
 何か、骨ばった感じがするのは気のせいだろうか。
 私は、目を開いた。ふわふわしたおっぱいはどこに行ったのか、目の前にあるのはえっちな胸板ではないか。
「ん?んん!?」
 どういうことだ。私は恐る恐る、目の前に眠る顔を確認した。
 そこにはなんと、彼女そっくりのイケメンがいるではないか。
 本当に待って欲しい。どういうことだ。私の知っている鶴丸国永は女だったはずだ。ここは私の本丸ではなく別の本丸にトリップしてしまって鶴丸国永と寝ている別の審神者と入れ替わったとか、そういうことはないだろうか。私の想像力の豊かさを誰か褒めて欲しい、と思ったが、彼の着ている着物は彼女の着ているそれと全く同じデザインである。残念ながら、これは夢ではなさそうだ。いや夢であってくれよ。私のおっぱい返して。いや、鶴丸国永のだけど、私の刀のおっぱいは私のなんだよ、意味分からないかもしれないけど。
 ふと、演練のときに出会った、どこかの本丸の鶴丸国永の言葉を思い出した。あの刀、あのとき何と言っていたんだ。「そろそろ、その姿も限界」みたいなことを言っていなかったか。
 更に、寝る前に頼れる初期刀様の加州清光は何と言っていた。「いろいろ気をつけて」みたいなことを言っていなかったか。
 まさか、とは思うが。
 彼となってしまった彼女の目が開かれる。まずい、起きているのがバレてしまう。寝ているふりをしよう。そうだ。これは夢だ。私は目を閉じた。
「んん……」
 彼の口から、寝息が漏れる。寝てる。まだ寝てるぞ。大丈夫、大丈夫。
「起きてるんだろう、ひな」
 何が大丈夫だ。全然大丈夫じゃないわ、私の阿呆。バレバレじゃないですか。私は目を開いた。イケメン美少女から元のイケメン美男子になった鶴丸国永がこちらを向いている。
「……ええと、これは一体……」
「きみには黙っておこうと思ったんだがなあ……」
 仕方ない、という顔で彼は呟いた。私はというと、隠し事をされていたショックよりも、何が起こっているのかいまいち把握できないということが頭の大半を占めていた。
「さて、どこから聞きたい?俺がきみに惚れたところからかい?」
 さらっと大事なことを言った気がするが、頭の中がパニックすぎる私は、
「最初からお願いします」
と答えた。もう突っ込みは放棄することにした。
「本当はこうなる前に、雰囲気を考えて話すつもりだったんだが……俺はきみが好きだ」
 彼は言う。実はとっくに気付いていたなんて言えない。元々、女同士にしては距離が近すぎるかもしれないと思っていた。あの別本丸の鶴丸国永や演練の一件からの代わりようから、四分の一の確信から九割近くの確信へと変わっていた。気付かまい気付かまいとしていたのだ、私は。
「それを前提で話す。最初はほんの悪戯心だったんだ。俺は寝ているきみから霊力供給を受けていた」
「ちょっと待って」
 私は話を止めた。彼は、
「俺の告白は躱したのにそこは止めるんだな……酷くないか?」
と、わざとらしく泣き真似をした。
「霊力供給ってどういうこと?」
「どういうことも何も、毎日寝ているきみに口吸いをしていただけなんだが……」
 あの儚げ美人なくせして豪快に笑う美少女が毎日マウストゥマウスで触れ合ってくれていたというのかよ。可愛いなあ。いや可愛いとか思っている場合ではない。
「……続けて」
 私は続きを促した。
「そして、ちょっとずつきみから霊力を分けてもらっていたある日、夜中の一定時間だけはこの姿に戻るようになっていたんだ」
 彼の話を整理しよう。彼は私のことが好きで、美少女姿で私に毎晩ちゅーしていた。そんでもってそれは霊力供給の方法でもあったから、夜中の一定時間だけ美少女鶴丸国永ちゃんは刀剣男士の鶴丸国永に戻れるようになったと。
 本当にどういうことだよ。神様ってなんでもありかよ。
「女の姿できみに甲斐甲斐しく世話していたのも、こうして毎晩共に寝ていたのも、あのとき演練できみをいじめた審神者に仕返しをしたいと思ったのも、全部きみが……ひなが好きだったからだ」
 彼は続ける。
「ほら、一度、演練の前の日に眠れないときみが嘆いていた日、俺はきみに早く寝るように言っただろう?ひなから不安を取り除きたかったのとは別に、もう一つ、理由があったんだ」
 彼の言う通り、彼女の姿で私をあやしてくれたとき、彼は早く寝ろと言っていた。私は、なんとなくもう一つの理由が分かった。
 彼は、更に続ける。
「きみは、最初から、女の友人を欲していたからな。それに、この姿では、いつものように接してくれないかもしれないと思うと……」
 彼は、最初から私の望みを知っていたのだ。私のことを想って、ずっとあの姿で居てくれていたのだ。
 私は彼をそのまま抱きしめた。女の子の姿だったころより、やっぱり身体が大きく感じる。
「私も好きだよ、鶴丸のこと」
 私は続ける。
「私を守ってくれるって言ってくれて、本当に嬉しかったんだよ。それに、男でも女でも、私はどっちの鶴丸もすき」
 彼は、ぎゅうっ、と私を抱きしめた。女の子の姿のときとは違う。彼に埋もれているみたいだ。身体のどこも女性特有のやわらかさがある彼女の姿も好きだけど、なんだか本当の彼に会えた気がした。それに、この本丸でこの姿の彼を知っているのが私だけだと思うと、ちょっとした優越感がある。
「……そうか」
 そう呟いて、彼は私の上に跨がる。
「……ん?」
 ちょっと待て。
「お互いに想い合っているということは、もう遠慮は要らないな」
 彼が言う。待ってほしい。これってまさか、寝かさないぜコースなのではないか。
「……あの、鶴丸国永さん……?」
 彼はにっこりと笑って、私に触れるようなキスをした。

 翌朝、彼は彼女の姿に戻っていた。私は全身、特に腰を痛めた。


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