ふと思い出す。そういえば、鶴がおかしくなったのはいつ頃からだろう。徐々に、ではあるような気がする。というのも、鶴は自分のことをあまりよく覚えていないような様子だったからだ。それに、私よりも鶴の方が、いつか訪れる別れに対して、そうしたいかしたくないかはとりあえず置いておいて、納得はしていたと思う。
聞き分けのない子どものようなことを言っていたのは私の方だった。でも今は、鶴の方が必死になってこの世界を繋ぎ止めている。
神社を通りかかって、ふと思い出す。こんなに桜が咲いていた頃ではなくて、秋の、紅葉がもうすぐ散ってしまう頃。鶴丸国永の写しをどうしても一目見たくて、わがままを言って自分の貯金を切り崩して藤森神社へと向かったときのことだ。
――くすくす。くすくす。
幼いけれど、聞き覚えのある少年の笑い声を、そこで聞いた。宝物庫よりも奥にある建物の周辺だ。本殿、と言うのだろうか。刀剣男士たちが好きな癖に、学生時代から日本史に弱く疎い私には、そこを何と呼ぶのかはよく分からなかった。
くすくすと、私を見てずっと笑っているような声だった。家族が居ることもあって、私はそれに反応できなかった。変に思われても困るからだ。鶴も、そのときは話しかけてこなかった。多分、どこか離れた場所に居たのだと思う。
くすくす。くすくす。笑い声は絶えない。宝物庫の入口でも聞こえたが、流石に写しの前では声は止んだ。
写しはとても美しかった。元となった鶴丸国永もこんな感じなんだろうか。私は息を呑んだ。ずっと見ていたいと思った。先も言うように、私は自国の歴史に明るくはないし、日本刀も素人目でしかまだ見ることはできない。けれど、そんな私でも、綺麗であることはよく分かる。
あのときのことを思い出す。そうだ。あのときの声は夢で出会った――幼い姿の私が出会った、幼い姿の鶴丸国永の声によく似ていた。