鶴が誰かと話している内容が聞こえてしまった。私は黙って聞いていた。多分、気付かれてはないと思う。
「……最初は、あの子が現実で生きるのが楽になればいいと、それだけだったんだ」
鶴はぽつりぽつりと語り始めた。
「それだけじゃあ、満足できなくなった」
彼は言う。
「慰めてやりたかった。きみは良くやっていると、他の誰かに代わって褒めてやりたかった。でも、あの子は満足しなかった。そりゃあそうさ。現実があの子の本当の世界。こちらはただの夢物語。あの子の中で、鶴丸国永(おれ)が自分に愛を囁くなんて有り得ないことなんだ」
悲しそうな声だった。
「……俺はここにいるのになあ」
鶴と誰かは、もっと、いろいろなことを話していたと思う。でも、また思い出せなくなっていた。