寝る前に二次創作を読んだせいだろうか。鶴丸国永が会いに来た。それも職場にだ。番号札も取らずに話しかけてくるので私はイライラしていた。私の邪魔をするということは処理が滞るため、他の客の迷惑になる。そういう輩が私は嫌いだ。大好きな鶴丸国永とはいえ、仕事モードで立っている私の中では客の一人でしかなかったようだ。思い出して少し面白いなと思った。
ただ、親しげに話しかけてくる鶴丸国永は所謂「ヤのつく人に近い存在」で、反社会的勢力――我々は反社と呼んでいる――という、金融機関としては厳しい目で見なければならない存在だった。私は彼が話しかけてくるのを半ば無視して他の客の処理を終え、他の人にこっそりと該当顧客に返却を依頼した。そうして落ち着いて彼の話を聞こうとすると、どうやら彼は札束を預けたいらしい。私はどうしたものかと困っていた。
「なあ、きみ」
彼は話題を変えるようなトーンで私に話しかけた。
「結婚してくれないか」
「反社会的勢力の方とのお付き合いはご遠慮させていただきます」
私は反射的にはっきりと応えた。普段、マイペースな私が反射的に返すとは相当である。相手が相手なので心がぐらついたが。
「おいおい、酷いなあ。そんなのと一緒にされているのか、俺たちは」
彼は何ともなさそうに言った。そうして、
「あーあ。きみが俺と結婚してくれたら、この三百万、タダできみにあげられるのになあ……? いや、三百万じゃあ足りないかい?」
彼は言う。それは困る。ここでくれたところで、客の金を着服したとか横領したとか思われたくない。でも少し心が揺れたのは事実だ。鶴丸国永と結婚できる上、お金をくれるのだ。しかし、私は 金融機関職員の立場だ。個人的な感情を抑えて言った。
「お客様、大変申し訳ございませんが、それは困ります。お客様の大切な現金を、職員個人がいただくことはできませんので」
「でもきみ、お金好きだろう?」
いや、好きだけど。そう突っ込みたい気持ちは置いておいた。
どうしようか。私の手に負えない。誰か助けてくれればいいのに。でも両隣の窓口担当も忙しそうだ。課長や部長を呼ぶか。そう考えていたときだった。
不意に、ぐい、っとカウンターの外側に軽く引き寄せられた。何が起こったか分からないまま、彼とキスしていた。ちなみにこのときの私は「鶴丸国永とキスしている」という重要事項よりも「公衆の面前でそういうことをするな」という気持ちの方が強かった。
「どうしても、と言うなら、」
彼は私の好きな顔で言った。
「このまま攫ってやろうか?」
そこで目が覚めた。私の願望じゃねえか。そう思うのと同時に、鶴丸国永相手でもきちんと応対しようとする私を褒めたかった。
この話を鶴にしたら笑われた。うん、まあそうだよね。大金積んでまで平凡な女と結婚したがるのは面白すぎるもの。