光の速さで



都内某所。ウィングヒーローホークスはその日、出張で東京都内にてヒーロー活動を行なっていた。その時、たまたま通りかかった人気ブランド店で今まさに事件は起きていた。
男3人組による強盗。人質は店内に残された従業員を含めた一般人12名。敵の個性は異形型が2人と、指先から銃弾のようなものを放出できる者が1人。通報によって既にヒーローや警察も現場に駆けつけていたが、人質を取られているせいで身動きが取れないでいた。
ホークスは自分より先に現場に駆けつけていた彼らから店内の情報仕入れると、迷うことなく店の方へと足を進める。警官の1人が待ったをかけるが、そんな心配を他所に、ホークスは返事の代わりに片手を上げた。それが合図のように、ホークスの個性である剛翼からたくさんの羽が放たれる。警官や野次馬がごくりと生唾を飲み込んでまもなく、ホークスがくるりと首だけ振り返った。

「もう入っても大丈夫ですよ」

「へ?」間抜けな声を上げたのは警察だったかはたまた野次馬だったか。また視線を店へと戻したホークスは迷いのない足取りで店内へと入っていく。その姿を見て我に帰った警官の1人が「か、確保ー!」と声を上げた。
大凡、ホークスが現場に到着してから1分間の出来事だった。

あまりに迅速な対応。人質を取られている状況にも関わらず、怪我人を1人も出す事なく即座に事件を解決に導いてしまうヒーロー。それだけの実力を持つ故に、彼は世間から“速すぎる男”と呼ばれた。

緊迫した現場の状況を、生中継していたメディアが、嬉々として事件解決をカメラの向こう側へ伝えると、逃がさないとばかりに今度は事件を解決した張本人、ホークスにカメラを向け、取り囲んだ。それを振り払うこともせず、ホークスは人好きのする笑顔でヒーローインタビューに応じた。

「お手柄ですホークス!何か一言頂けますか」
「いやー、たまたま通りかかったんですけどね、みんな無事でよかったよかった」
「人質がいると聞いても行動に迷いがなかったように思いますが、なにか突き動かすものがあったのでしょうか」
「ともかく人質の方たちを一刻も速く安心させてあげたいの一心でしたね」
「人質に危害が及ぶ恐れはなかったのですか」
「もちろんありましたよ。けどそうさせない自信のがあったってだけです」
「さすがNo.3の自信というわけですね!誰1人として傷を付けさせないという確固たる自信、流石です!」
「はは、ンな大袈裟な」
「ホークスー!助けてくれてありがとうー!」
「いーよ、どういたしまして」
「では最後に応援してくださっている方々に何か一言いただけますか」

インタビュアーに向けていた視線をカメラに向けると、ホークスはニコリと愛想のいい笑顔を浮かべ、カメラに向かって手を振った。

「えー
「せんッぱーーーーーい!!!」

ドンガラガッシャンーーー!

突如、カメラの前からホークスが消える。
正確にはジェット機のような速度で空から突っ込んできた“何者か”によってホークスは画面外へ吹っ飛ばされたのだ。その場でホークスを捉えていた視線が一斉に音のした方へ向いた。

「先輩お久しぶりですー!2週間と3日と17時間ぶりですね!なんで東京にいるんですか?プライベート?あ、コス来てるからお仕事ですね、私も今東京で仕事してるんですよーお揃いですね!なんの仕事ですか?いつまでいるんですか?あ、そうだ今日の夜暇ですか?ご飯いきましょうよご飯!東京なら先輩の好きな鶏肉の専門店とかもたくさんありますし、私ちょっと隠れ家的なお店も知ってるんです、きっと先輩も気に入りますよー!仕事何時までですか?それとも解決するまで終わりのない系のやつですか?それなら明日でもいいですよ、てかいつ九州に帰っちゃうんですか?その前に一回でいいからご飯いきましょうよ、ランチでもいいですから!」

ホークスに猪の如く突っ込んできたのは、1人のヒーロー。止まることのないマシンガントークでホークスに口を挟む隙すら与えない。そんな彼女にホークスの額や頬にひとつ、ふたつ、と青筋が増えていく。

「あ、そーだ!」
「エンプリット」
「はいなんですか先輩!」

青筋を浮かべながらも笑顔を消さないホークスの歪な顔など気にする様子もなく、エンプリットと呼ばれたヒーローはキラキラと目を輝かせながらホークスへ身を乗り出した。ブンブンと振る犬の尻尾が見えるが、幻覚である。
ホークスは人差し指と親指をくっつけ、彼女の唇から数ミリ浮いたそこ、ファスナーを絞る様なジェスチャーでスーッとなぞった。

「ちょーっと黙っとって」
「ン゜ッッッ」

あまりの破壊力にエンプリットはボッと火が出る勢いで顔を赤くすると、両手で顔を覆いそのまま後ろへ倒れた。妙な奇声と共に。
ホークスはそんな彼女を気にする様子も見せず、立ち上がると服についた土や埃をはたき落とした。

「店前でなんかすげー音が………っておい!?うちの店の看板壊れてんじゃねェか!おいおい兄ちゃんたちコレどうしてくれんだよ……ってホークス?!」

ホークス達が突っ込み、ドンガラガッシャンと大きな音立てたのはラーメン屋の看板だった。店主が怒りの形相で出てくるが、No.3ヒーローの存在に気づくとその表情はすぐ驚きに変わった。

「おっちゃん悪い、ちょっと猪に突っ込まれちゃいまして」
「いの…?猪って」

店主がキョロキョロとあたりを見渡すと、未だに顔を押さえながらキャー!とはしゃぎ、ジタバタ地面を転げまわる女がいた。

「エンプリット……」

全てを察したような店主にホークスも苦く笑う。

「看板、弁償するからうちの事務所に…」
「いーよいーよ。“いつもの”だろ?弁償は請求しなくてもエンプリットがやってくれんだろ。それに、これでうちの店にも箔がつくってもんだ!」

看板を壊されたのにも関わらず、ガハハと豪快に笑う店主にホークスはなんとも言えない表情で頭を掻いた。

エンジェルヒーローエンプリット。本名は非公開。個性は翼針。背中から真っ白な大きな翼が生えている。ホークスのように羽から振動をキャッチすることこそできないが、彼女の羽軸根は針の様な形状になっており、点滴のように人に刺す事で治癒の効果を得ることができる。治癒の役目を果たした羽根は消滅してしまうが、また数日経てば生えてくる“らしい”。

2年前、高速道路で発生した玉突き事故で、多くの怪我人が出た。そこへ空から舞い降り、全ての怪我人を癒したのが彼女のデビューだった。敵との戦闘こそなかったが、死者が出なかった事に安堵し、笑顔を浮かべるエンプリットを目にした誰かが言った。
「彼女は天使だ」と。


何食わぬ顔でヒーローインタビューを受け続けるホークスにインタビュアーが聞く

お二人が揃ってるのに聞かないではないと思うので単刀直入にお伺いいたしますが

先ほどと打って変わって面倒そうに小さくため息をこぼすホークス

お二人、ホークスとエンプリットはお付き合いを
「してます!」
「してません」
二人の声が真逆の言葉で重なった
あ、えっとどっち…?
付き合ってます!
付き合ってません
付き合ってます!
付き合ってません
付き合ってますー!
俺嘘つく女の子苦手なんスよ
………今はまだ付き合ってませんけどいずれ結婚します

折れたくせにより図々しくなった…

別に嘘じゃないし、これから現実にするし、と不貞腐れてる
ため息ついて頭をぐしゃぐしゃと撫でる
まあかわいい後輩であることには変わりないですかね。個性も似てるし。綺麗な女の子に好かれて悪い気にはなりませんよ
式場は海の見える所にしましょうね!
こう言うところがなければハハハと渇いた笑

今後の二人の関係に期待ってことですね
ハハっまあそう言うことにしといてください。んじゃオレそろそろ仕事戻るんで
えーもう行っちゃうんですか?
エンプリットも仕事あるやろ
それに早う終わらせんと夕飯買い損ねるばい

行くんじゃなかと?
はい!
(なんやかんや甘いよなぁ)

おじちゃん看板壊してごめんねー!壊しちゃった所とついでに店内の改装したい所全部直してあげるから許してー!
いーよ!おじさんエンプリットの恋路応援してるぞー!
ありがとー!それと記者さんたちー!先輩と映ってる写真もVもぜーんぶ事務所に送っといてねー!
抜け目ねえ



A
先輩こっちこっち!とお店の前で手招く
お前ただでさえ目立つんだから静かにしなさい

先輩今日ホテルですか?
そ、駅前のホテル。朝イチに九州に帰るよ
駅前ならそんな遠くないですね、送ってきます
あのね、普通逆でしょ
送り狼してもいいですからね!
アホ
帰り送ってくれるってなって
なんか普通の女の子みたいで照れますね
頭わしゃわしゃ
わ、ちょ、髪せっかく可愛くしたの、に………ってなんて顔してるんですか
んー?どんな顔?
申し訳ないって顔
ま、確かに綺麗なことばっかじゃないですけど、私、先輩がどこまでだって飛べますよ


B暗闇の中命乞いする男から生命力を奪う
抵抗され血が飛ぶが瞬く間に傷口が塞がる
ミイラのように干からびた男はもう動かない
男に刺した羽根を抜く。血で赤く染まったそれはホークスの羽を思い出す。ちがう。あの人の羽はこんな汚くない。そんなことわかってるのにどうしようもなく
「ああ先輩に会いたいな」

バスの事故
神様お母さんを助けてお願い
神になんか祈らなくていい
私がいる

舞い降りた天使
本日まるまる山で突如土砂崩れが発生。乗り合わせた12名の乗客のうち、11名が土砂崩れに巻き込まれバスもろとも下敷きに。絶体絶命のピンチに現れたヒーロー、エンジェルにより救出された乗客は全員が重症だったもののエンジェルの個性により全員無傷で生還。

母の個性は具現型で背中から小さな翼が生えていた。父の個性は髪を針のような形状にして飛ばすことが出来た。その個性の複合型として生まれたのが名字名前だった。

名前は生まれた時から背中に羽が生えていた。それは小さな生まれたばかりの彼女によく似合うまるで天使のような羽だった。まるで天使のようだとその場にいた全員が生まれたばかりの赤子の顔を覗き込んだ。けれどそれがいけなかった。突如赤子の個性が牙を向いた。これは憶測でしかないが彼女は腹が減っていたのだろう。空腹を満たすために無意識下で彼女は個性を使った。小さな羽が針となり自分を産んだ母親、立ち会っていた父親、抱き止めてくれた助産師、その他看護婦の計5人の脳天を貫いた。瞬く間に正気を吸い上げられた両親たちは干からびたミイラのような姿になった。腹が満たされた赤子はその後病院のものに発見されるまで満足そうな寝顔でぐっすりと眠りについた。

その後、名前は病院の小児個性矯正科にて育てられた。小児個性矯正科とは幼少期に無意識下で個性を発動し、人を傷つけてしまった子供のケアや個性の使い方や制御の仕方を教える病棟だ。名前はその施設で3歳まで育てられた。その間彼女が原因で起きた施設内での個性事故は0件だった。
4歳になると同時に彼女は養護施設に入れられた。出産直後以降の個性の暴走もなく精神も安定していると判断された。施設にいた子供はほとんどが異形型だった。
施設での異形型に対する差別を目の当たりにして再び人を殺める。
警察と医者に囲まれ色々聞かれる
せんせい、たっくんをいじめてたの
たっくんがいたいやめてごめんなさいってしても、せんせいやめてくれなかったから
きこえてないのかなって、たっくんあやまってるよって、わたし、おしえてあげたの
でもせんせい、わたしにもいたいことするぞっていうからどうして?ってきいたの
そしたらせんせいね、
だからわるいこはたっくんじゃなくて、せんせいだっておもってね、わたし、おしおきしたの
いけないことだった?いけないことだったらごめんなさい
でもたっくん、いたいのいたいのとんでけーしたらありがとうっていってくれたよ?


小娘貴様ここで何をしている
次世代のナンバーワンヒーローから学びを得たいと思いまして
それが学びたいと思っているやつの態度か
いやほんとご指導ご鞭撻をお願いしたく
なぜ俺の元へ来る、ホークスの元へ行けばいいだろう
地雷踏むのやめてくれます?

なんやかんや
世間じゃオールマイトが不動のNo. 1じゃないですか。でも私のNo.1は出会ったあの日からずっと先ぱ…、ホークスなんですよ。
惚気に来たのなら帰れ
かっこいいランキングも方言可愛いランキングも抱かれたいランキングも結婚したいランキングも全部全部ぜーんぶホークスで一位が埋まってるんです
くどい!帰れと言ってるのが
でもね
聞かんか!
憧れランキングだけはエンデヴァーさんが一位なんですよ、私
私はあなたみたいになりたい。あなたみたいに、彼を救えるヒーローに…
じゃないと、ヒーローになった意味がないんです
エンデヴァーさん、ヒーローってなんですか?


あの人の射抜くような金眼が好きだった。けれどその奥底にあるのはいつだって赤い炎。それがあの人のオリジン。それならば、先輩は手を汚しちゃいけない。いずれあの人がナンバーワンになったとき、その背を支えるのはあなたの役目だから。だから、支えるその手を、その羽を、簡単に汚したりなんかしないで。大丈夫、私なら大丈夫だから。だから振り向かないで、前だけを見て、もっと速く、もっと高く、手の届かないところまでーーー