キムチより刺激的でプリンより甘い



銀さんは事あるごとに私の頭を撫でる。それは出会い頭だったり、別れ際だったり、場面は様々あるけれど、とにかく銀さんは私の背を縮めようとしてるんじゃないかと思うくらいの頻度で、私の頭を撫でた。

私はそれが嫌で仕方なかった。

理由は触られるのが嫌とか、背が縮むのが嫌だとかそんな事じゃない。ただ、銀さんが私のように頭を触る人を私は神楽ちゃんしか知らなかった。
ぽんぽんと優しく頭上で弾ませるのも、髪を乱すように掻き回すのも、頭を掴んでぐらぐら揺らすように撫でるのも、全部神楽ちゃんと同じで、子供扱いされてる気がした。お前なんか眼中にないですよって間接的に言われてるんじゃないかって。

「銀さん、コンビニ行くけど何かいるものある?」
「そんじゃ、美味くて気の利いたもんたのまァ」
「なにそれ、キムチでいい?」
「どこが気が利いてんだよバカかオメーは」

文句を言うなら最初から欲しいものを具体的に伝えればいいのに。私が「適当にコンビニスイーツでも買ってくりゃいいんでしょ」って言えば「最初からそうすりゃいいんだよ」って偉そうにされた。その態度が気に食わなかったからマジでキムチ買ってきてやろうって心に誓った。
草履を履き終えて玄関から立ち上がると、ギィと床が鳴いた。振り返るとお見送りにでも来たのか、いつの間にか銀さんがそこに居た。

「お前マジでキムチ買ってくんなよ、いらねェからな」
「………………うん」
「なにその間!ぜってェ嘘じゃん!ぜってェキムチ買ってくんじゃん!頼むからプリンとかシュークリームとか甘くて美味しい物の土産でお願いしますいやほんとマジで!」

そんなにキムチが嫌なのか、銀さんが予想以上にキムチを拒否するものだから可笑しくなってフと笑ってしまった。それを見た銀さんも釣られるように優しく笑みを浮かべた。仕切り直して、じゃあ行ってくるねと玄関を出ようとしたら銀さんに名前を呼ばれる。振り返るといつもの様に私の頭上へ伸ばされる銀さんの手が目の前まで来ていた。

ガシィ――

「……は?」

目の前まで来ていた銀さんの手。私はそれが自分の頭にたどり着く前に、両手で受け止めた。真剣白刃取りならぬ真剣白夜叉取りだ。いややかましいわ。
突然の拒否に戸惑った銀さんは間の抜けた声を上げた。銀さんより一段低い位置から見上げた顔は予想していなかった私の行動に死んだ魚の様な目を少しだけ見開いていた。頭撫でるのやめて、と声に出せば見開かれていた銀さんの目は直ぐに細められ、何で意地になったのかは知らないがグググとどんどん腕に力が込められていく。え、ちょ、重い重い重い!精一杯支えようと力を入れるけど、どう考えても力の差が有りすぎる。無理無理無理。

「ちょ、…銀さん…!重っ…!」
「いやいやいやお前こそなんでそこまでして拒否ってるわけ?昨日までぽんぽんナデナデされて締まりのねェ顔を更にだらしなくニヤニヤデレデレさせてただろーが」
「わ、たしそんな顔し、てないし…!」
「そんなに銀さんに触られるの嫌なわけ?」
「…そ、うじゃない、訳でもない、っ事もなくも…ない!」
「いやどっちィ?!結構傷付くんですけどォ?!」

どんどん力が強くなってきて私は全身で銀さんの腕を支える。ちょ、もう、ほんと無理。腕がプルプルする。二の腕もプルプルする。流石に限界を感じていると、頭上から呆れた様なため息が聞こえた。

「んだよ、反抗期ですかコノヤロー」
「ッ!……こ、ども扱いしないで!」

ギロリと銀さんを見上げる。少し力が抜けそうになった腕に再度力を込めて断固拒否の姿勢を貫いた。呆れ顔だった銀さんが私の言葉を聞くなり、そんなに目大きく開くんだってくらい見開いて私を見下ろす。少しの間があったかと思いきや、一瞬だけ口元に弧を描き、いきなり腕の力を抜かれた。全身で力を入れてた私はその勢いのままバランスを崩して少しよろける。さっきまで銀さんの腕を捕まえていた私の手が、今度は銀さんに捕まった。

「んじゃ、大人扱いならしていいんだな」

一段低い位置にいる私に視線を合わせるように銀さんが少しだけ屈んでいた。銀さんに捕まった腕がグイと引き寄せられると近付いた事もないくらい近くに銀さんの顔があって、それってどう言う意味、なんて聞く間もなく私の声は銀さんに飲み込まれてしまった。なんだそれ、コンビニスイーツよりよっぽど甘いじゃんか。