春の日ざし



もし今日の天気が雨じゃなかったら。もし今日が生理前じゃなかったら。もし今日お気に入りのネックレスを無くした事に気付いてなどいなければ、私の考えも少しは違ったのだろうか。

万事屋に向かう道中、突如現れたさっちゃんはこう言った。

「結局アンタって銀さんのなんなのよ」

普段なら曖昧に笑って誤魔化せるさっちゃんの素直な言葉が、今日に限って鉛のように重くのしかかった。従業員でもないのに万事屋に入り浸る私は、銀さんのなんなのだろう。
明確な繋がりなど無い私が彼との関係を言い表すなら友人の他ないだろう。それでもその言葉を口にするのを躊躇ったのは、それが私の望んだ関係では無いからだ。





「銀さんは」
「あ?」
「銀さんは、私の友達かな?」
「なに急に。お前友達欲しいの?」

いつもの調子で鼻をほじりながらテレビに夢中な銀さんは私の方を見ることなく言った。
私は銀さんの隣にいる為の言葉が欲しかった。明確な繋がりが欲しかった。けれどそれを口にした瞬間、私は銀さんの側にいられなくなる気がした。
女という生き物の思考回路は心底面倒臭いもので、想いを言葉にして否定されたらどうしよう。手を触れて振り払われたらどうしよう。やっぱり隣じゃ無くていい、後ろでも斜めでも構わないから側にいたい。なんて我儘ばかりが脳を支配していく。

「友達は沢山いても困らないから」
「そうでもねェだろ。ロクでもねェ奴ァパチンコで散財して金貸してくれーだとか、競馬で負けて金貸してくれーだとか、挙げ句の果てには今月の家賃立て替えてくれだとか言い出すぞ」
「それ全部銀さんじゃん。っていうか銀さんって私のこと財布か何かだと思ってる?」
「んなこと言ってねェだろ。ダチんなる相手はちゃんと選べっつってんの」
「……そうかぁ私の友達は嫌かぁ」

思わず俯いた。それすら拒否されてしまったら私はこれからどういう理由で銀さんに会えば良いのだろう。それとも間接的にもう来んなと言われているのだろうか。
嗚呼ダメだ。一度マイナスになると何もかもが悪い言葉に聞こえてしまう。これ以上口を開いたら余計なことを言ってしまいそうで、きゅっと唇を噛み締めた。
下がった視線が上げられない。銀さんの顔が見れない。

「お前さァ」

ため息混じりの声に思わず肩が震えた。

「何グダグダ考えてるか知らねーけどこっちはお前とオトモダチなんか望んで無いっつってんの」
「……うん、わかってる」
「だァから違ェって!お前何?俺のこと依頼人でもなんでもねェ女ホイホイ家に招き入れるようなクズだと思ってんの?」
「……………え?」
「え?じゃねーよ。逆にこっちがびっくりだわ」

驚きのあまり、ゆっくりと顔を上げれば向かいのソファに座る銀さんと目が合う。いつも死んだ魚のような目をしてる癖に今日に限ってその目は煌めいていて、嘘や冗談を言ってるようには思えなかった。
銀さんはもう一度ため息をつくと心底めんどくさそうにガシガシと頭をかいた。

「……銀さんのここ、空いてますよコノヤロー」

芸人の真似事でもしようと思ったのか、銀さんは肩でも組むように自分の隣を指し示した。そんな事するならしっかりやり切れば良いのに。羞恥心に負けてしまったせいで中途半端になった声真似に、なんだか私の方まで照れ臭くなって「なにそれ」と揶揄うように笑った。