二番目の男と、一番の女
ホストと客
恋愛要素は薄め
カツン、とヒールが鳴る。キャッチと思わしき男が何人か近寄って来たけれどひと睨みすればどこかへ散っていく。そもそもヒール込みとはいえ180を超えた女の隣になんて並びたくないだろうけど。いつだかに買った腕時計で時間を確認してから目的地まで歩みを進める。此処ひと月で随分通い慣れてしまった歌舞伎町にある、ひとつのホストクラブ。Act.と書かれた看板を通り過ぎて扉を開けば少しばかり騒がしい…嗚呼、今日は金曜日か。ボーイに案内されるまま席へと腰を下ろす。ちらりと店内を見渡すと今日も曲者揃いって感じ。
「ワタリさん…は、まだ戻らないんだっけ。」
「申し訳ありません。」
「いいの。じゃあ…サトさんお願い。」
「畏まりました。」
新人かな、見た事ない顔だ。飾りボトルが次々と運ばれて来て小さな机の上に並べられていくのをぼんやり見ていたらスーツの男が隣に腰掛ける。ジッポを見せてくるからバッグの中からシガレットケースを取り出して煙草を咥えると隣の男が火を灯す。吸い込んで火がついたのを確認してからサトさんは笑っている。
「本日もご指名ありがとうございまぁす。」
「ワタリさん居ないからね。」
「僕のこと二番目やら代用品にする女なんて他に居ないんだからね?」
「駿がスグさん指名で来るかもしれから呼べないし必然的に二番なのよ。此処が永久指名制じゃなくてよかったわね。……今日は奥のテーブルの子がヤバそうだから呼んであげたの。」
「流石。ちょおっと癖が強過ぎるんだよね。今日は何飲む?」
メニューを差し出されて一瞥するが、特にこれといって心が惹かれる物はない。とはいえ酒を飲まないサトさんに決めさせても私好みの酒が来るとは思えないしな。スグさんなら任せるんだけど。
「とりあえずロジャー。あとはいつも通りで。」
「りょうかーい。」
片手を上げてボーイを呼んだサトさんを横目に紫煙を吐き出す。新人と思わしきボーイがコールをしようとするから眉根を寄せるとサトさんがけらけらと楽しそうに笑って、首を振る。
「彼女はコール嫌いだから集めなくていいよ。」
「え、でも…。」
「それともマイク使って店内に黙れって響くの聞きたい?僕は楽しいから全然良いけど?」
「……はい。」
引き攣った顔でバックに入っていったボーイに限界とばかりに吹き出すサトさんに溜息を吐き出して煙草を灰皿へと押し付ける。笑いながらも手早く灰皿を変える辺り流石のNo.1と言うべきか。
「アレ笑ったなぁ。」
「いらないって言ってるのにやらせるから腹立ったんだもの。」
「姫から一言!黙れ。からのワタリからのお静かに。はだいぶ面白かったよ?マイクパフォーマンスで被りの子威圧するこの世界でさぁ、ほんっと喜雨ちゃん面白い。」
「飾りボトルは飲まずにテーブルに並べることで威圧するのも貴方に聞いて初めて知ったもの。酒よ?飲みなさいよ。」
「居酒屋とかバーじゃないんだから。」
用意された私のロジャーと彼のカルピス、フルーツ盛りが机に並ぶ。だから狭いんだって、本当にさ。飾りボトルの何個か飲み切ってしまいたいのだけれどコレがあった方が良いとサトさんが言うから大半が半分程残した状態で保存されてるのだ。大皿いっぱいに詰め込まれたフルーツたちをサトさんが摘んで私の口元へと差し出すからそのまま口へと含む。何故か、彼はいつも一番最初はブドウかマスカットを食べさせてくる。
「僕パイナップル食べたーい。」
「いつも思うんだけど、最初から自分で食べたら?」
「ひと口目はキャストが勝手に食べちゃダメなんですー。」
「あっそ。」
用意されたピックでパイナップルを一つ取って彼の口へと運ぶ。甘い物ばかり好むからグレープフルーツとかは食べないんだろうな。嫌いな物はないよと言っていたけれど好みはあるしね。ピックでキウイを取って口に運ぶとサトさんがなんか騒いでるけどスルー。
「そういやなんでロジャー?今日安めに済ますの?」
「後でエンジェル頼むわよ。ホワイト在庫ある?」
「さっすが。確認させとくね。ね、フルーツ何がいい?」
「グレープフルーツ。」
サトさんは何故かピックを使わずにその指で摘んで私に食べさせるのが好きらしい。もう慣れたから好きにさせるけど。グラスを傾けて炭酸が喉を通ると少し痛い。不意に視線を感じてグラスに反射するのを見ればサトさん指名の、サトさん曰く癖の強い子が此方を睨み付けている。あー、被りだと思ってんのか。まあ、実際被りだが。
「サトさん、私すごい睨まれてるんだけど。」
「あー…あの子僕と付き合ってるって妄想、……虚言癖があってさ。」
「言い様悪化してるわよ。…これは張り合ってなんか入れそうだねぇ。」
「げえ、僕此処にいたいんだけど。あの子僕とアフターもした事ないのにいつ家に来るの?とか聞いてくるんだよ。めっちゃ怖くない?」
「それは怖いわ。」
「戻りたくなーい…。」
「エースに来てって頼めば?」
「それがびっくりする事に僕の今のエース喜雨ちゃん。」
「は?」
「最近ワタリ居ないから僕指名してくれてるじゃん?喜雨ちゃん掛けもせずに三日置きくらいに来てくれるから現状僕のエースなの。」
「そういうの私に言っていいの?」
「本当はダメ。秘密ね?」
マンゴーが唇に触れて、人差し指を口元にやる。こういう言い方をするから虚言癖の痛客ばかりがこの人につくんだろうなとは思うけど、それが彼の売りなので指摘はせずにそのまま口へと含む。甘い。
「そろそろ呼ばれそうだけどね。」
「メニュー見てるわ。はー、喜雨ちゃん早いとこ空けて呼び戻してね?」
「いつも通り私の隣でラスソン歌えばいいわ。」
「心強いねぇ。」
ボーイがこちらに来て、サトさんを呼ぶ。サトさんはにっこりと笑みを浮かべて私にごめん、行ってくるねと形式上の挨拶をして来たので手を振っておく。今日のヘルプは誰が来ることやら、と思っていたら見慣れた顔が此方に来たので小さく笑みをこぼす。
「久しぶり。」
「お久しぶりです、喜雨さん。」
「何飲む?頼んでもいいし、ロジャーで良ければそっちをどうぞ。」
サクラくんが私の正面の椅子に座ったのを見てから声を掛けるとロジャーを飲んでみたいとのことでグラスを用意して貰う。他愛もない話をしながらボトルが半分程になったタイミングで店内が騒がしくなる。お、シャンパン入れたんだ。サクラくんが慌てて行ったのを見送ってから端末を開いて仕事の連絡が来ていないか確認する。
「王子が飲んで〜!姫が飲まない〜? わけがない〜!! 」
「愛情一気、愛情一気、愛情一気!」
「可愛い〜!姫から〜!一言くださーい!」
「サトくんだぁいすき♡一番応援してまぁす!よいちょ♡」
「ふううう!」
「それじゃあ〜!王子から〜!お返事の一言ぉ〜!」
「いつもありがと♡」
「ふううう!!!」
「…………。」
「喜雨さん、本当にコール嫌いですね…?」
「楽しそうだなとは思うけどね。ていうかサトさん飲んでないのに一気とは?」
「はは…。」
アホくさ、とは思うけどもアレが好きでアレが生き甲斐の子も居るのだから仕方ない。戻ってきたサクラくんが私の言う楽しそうの真意に気が付いたのか全力の苦笑いをしていたけれど気にせず端末を伏せて机に置き、煙草を手に取る。まだ少し覚束ないかと思ったけれどスムーズに火を差し出されたので少し驚いた。吐き出した紫煙をぼんやり見ていたが、不意にボトルが目に入る。うーん。飲んじゃうか。
「サクラくん、エンジェル入れるからサトさん呼んでくれる?」
「あ、はい!」
「忙しなくてごめんね。」
「いえいえ、お気になさらず。」
最後の一杯分を残して煽り、サトさんが戻ってくるまで空にしないようにグラスに入れて貰う。したり顔でこちらを見てくる女の子に思わず吹き出しそうになったがなんとか堪えているとひょっこりと派手な男が帰ってくる。
「お待たせ、ただいまー。」
「実家か?」
「飲まされることもないから安心って意味では?……ね、喜雨ちゃん。今日コールしない?」
「は?」
「あの子すげー顔してるじゃん?どうなるか気にならない?」
「………気になるわ。」
「決定!」
一時間程前にコール嫌いだと言っていた女が急にコールをすると言ったらボーイが戸惑いそうなものだけどなぁ、と思いながらも好きにさせているとボーイは私を二度見した後急いで準備をしに行った。ごめんねと心の中だけで謝っておく。運ばれてきたエンジェルと共に何人かのホストに囲まれて既に頬が引き攣るがやると言ったので諦めて眺める事にする。
「グイ!グイ! グイグイよし来い!グイ!グイ!グイグイよし来い!」
始まったので、サトさんに手渡されたグラスを一気に煽る。
「姫が飲んで〜!王子が飲まない〜? わけがない〜!! 」
「愛情一気、愛情一気、愛情一気!」
サトさんがぐい、と煽るのを横目に見てから漏れた小さな笑みに気が付いたのかへらりと笑みを返してくるので二人で空になったグラスを合わせて高い音を鳴らす。
「それじゃあ〜!姫から〜!王子に一言くださいな〜!」
「安酒でごめんなさいね?」
「ふうううう!!」
「王子から〜!姫に〜!お返事は〜!?」
「もう一回、一緒に飲む?」
渡されたマイクを使った後、サトさんに手渡せばサトさんはにんまりと悪戯っ子のような笑みを浮かべて飾りを指差す。いつだかに彼に言われて入れたシンデレラ。込み上げた笑みをそのままにひとつ頷き、二人で空になったグラスに真っ青な酒を注いで飲み干す。お酒飲まないのに珍しい、そんなにあの子が顔真っ赤にしてるの見たかったのかな。そのまま自然に肩を抱かれたので、なすがままになっているとサトさんが私の耳元に唇を寄せて小さく囁く。
「見て、顔やべーの。」
「ふっ、……ちょ、笑わせないで…!」
顔を真っ赤にして此方を睨み付ける痛い子に腹筋が捩れそう。こんなに笑うの、駿が盛大に煽り返してた時以来だわ。コール面白いね、楽しみ方もの凄く性格悪いけど。クスクス笑いながら新しく用意されたグラスでシャンパンを飲んでいるとサトさんが上機嫌にフルーツに手を伸ばしてまた私の口元へと運ぶ。林檎美味しい。
「掛けだろうから暫く来ないかな。一安心。」
「結局何入れてたの?あの子。」
「モエロゼ。」
「わお。」
「文字通り桁違いなのに安酒って、ふ、ふふ、喜雨ちゃん面白すぎる。」
「アルマンドの方が良かったかしら。」
私の肩に埋まってヒイヒイ言いながら笑ってるサトさんにつられて笑っているとやっぱり視線が痛い。が、私のテーブルに置かれた物を見て奥歯を噛み締めてる辺り稼ぎはあんまりなのかな。ていうか、モエロゼで掛けかぁ…私が来る前にフィリコでも入れたのかね。サトさん飲まないし。飾り…は、あんまなさそうだし。メニューを睨みつけて居るけど現実的ではないと気が付いたのか、それとも掛けが膨れた分だけ会えなくなる期間が長くなるからか迷っているみたい。ま、掛け支払えないとサトさんが払う羽目になるもんね。一番応援してるとか言っておきながらそんな事になったらヤバいし。
「はー、一週間分笑った。」
「一番応援してますぅって言ってた姫が奥歯噛み締めてこっち睨んでる間、ずっと笑ってたの凄いわ。」
「裏声やめて…!だって面白くってさぁ。ね、痛客来た時毎回やらない?」
「私の担当、ワタリさんなんだけどな。」
「そろそろ指名替えしない?」
「極太エース手放したくないものね。」
「単純に僕が喜雨ちゃん気に入ってるんだって。なんならプライベートで会いたいくらい。」
覗き込む顔が幼くて、可愛らしい表情の筈なのに細められた双眸が色っぽい。まあ、色気担当のスグさんには勝てないだろうけど。ギャップという点で言えば確かに…成る程、こうしてこの人はNo.1の座をキープしてるんだな。
「ちょおっと、お返事は?」
「ごめんごめん、なんだっけ?指名替え?」
「嘘でしょ?」
「ふふ、そっちは考えておく。指名替えは視野に入れておくわ。ワタリさんいつ戻って来るから分からないし。」
「やった。」
「あと単純に、サトさんの客煽るの楽しくてダメ。」
「悪いんだ。」
「あら、元々の提案はサトさんでしょ?」
グラスを傾けて喉を通す。ベリー系の甘い香りのするコレは結構気に入っている。飲みやすいし、これならサトさんも飲める気がするんだけど飲んだ時に刺されかけたらしいからなぁ。でもさっきシンデレラ飲んでたし今更か?
「飲んでみる?」
「やめとく、さっき一気したからあっついもん。」
「美味しいのに。」
「今度飲ませて?」
「はいはい、今度また入れてあげる。」
カルピスを追加で注文してそれをちびちび飲んでるサトさんを見ながらフルーツに手を伸ばすが、サトさんの方が早くてブドウを差し出される。なんでブドウ取ろうとしてたの分かったんだろ、なんて思いながらまた彼の指に挟まれた物を食べる。これカフェかなんかでやってたら完全にカップルだろうなと思うけど…いや、カフェでこんな密着して食わせてる人いたら引くな。これはホストクラブだから成り立ってるだけだわ。成人してから人目も憚る事もせずにベタベタと外でひっついてるのは痛すぎる。
「喜雨ちゃん?」
「夢売る仕事も大変ね。」
「急にどしたの?」
「なんでもないわ。」
ラストソングが自分の隣でない事が嫌なのか、顔を真っ赤にしたあの子は最後に私を睨み付けてからさっさと店を出たのでもうくっつく必要はないけど此処で離れるのも不自然だからそのままにしておく。サトさんは何も気にしてないみたいでフルーツを摘んでは口に放ると繰り返していた。ボトルの中が少しずつではあるが少なくなって行くが閉店まであと一時間だし流石にもう一本入れたら飲みきれないかなー、どうしようかなーなんて考えてたらサトさんが覗き込んでくる。
「そう言えばラストソング何がいい?」
「なんでもいいわよ、歌ってる間暇だもの。」
「一緒に歌っちゃう?」
「ラスソンはそういうんじゃないでしょ。」
そういえば、と伏せたままになっていた端末を手に取り検索ワードを打ち込んでページを開く。やっぱ書いてあるわ、と文字を目で追っているとサトさんが覗き込んで来たので二人でホスラブを眺める。
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141 匿名
ルブタン来たわ
142 匿名
今日もサト指名?
143 匿名
担当替えとかねーわ
144 匿名
ルブタン今日何入れてんの?
145 匿名
ルブタンの担当ワタリだからワタリ居ない間はサト指名してるんじゃないの?
146 匿名
リスカ顔真っ赤でウケた
147 匿名
>>144
ロジャーとエンジェルは見えた。
ていうかルブタン今日コールしてたんだけど。サトが酒飲んでた
148 匿名
は?ルブタンまじなんなの?
149 匿名
>>146
リスカってあの整形地雷?被りじゃないから忘れた
150 匿名
>>149
それそれ。いつもハーフツインしてるク○ミリスペクト(笑)のやつ
151 匿名
ルブタン金払い良いからまだいいけどリスカくそなんだよね。モエロゼ程度でサト連れてくの意味不明なんだけど
152 匿名
実際に見たことないんだけどルブタンって掛けなしなのマジなの?
153 匿名
>>152
マジ。毎回現生。風俗かと思ってたけど三日位に一回二百万払ってくから相当稼いでるんじゃん?
154 匿名
>>153
今のサトのエースルブタンじゃん、クソ。こっちがクソみたいな仕事して金入れてるのバカらしくなって来る。サクラ狙おっかな。
155 匿名
早くワタリ戻ってきてくれ、サトのエースは私
156 匿名
ルブタンサトと密着し過ぎじゃない?まあ私はスグがいれば良いけど
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流れが止まっていたのでそこで終わる。相変わらずルブタンらしい。他の子に比べれば随分マシなあだ名なので特に気にする事もないけれど。はー、面白い。賑わってるし今夜にでも大荒れするんだろうなと思うとそれを見ながら酒飲めそう。サトさんもケラケラ笑って、態とらしく顔を近付けてフルーツを差し出してくるからこの人も大概性格が悪い。
「どうする?」
「んー、多分まだ130くらいでしょ?」
「まあ、そんくらいじゃない?なになに、今日も200使う?」
「あー…飲みきれないかもだけどいい?」
「んなもんキープすればいいんだって。」
「シャンパンをキープはねえわ、飾りにするか。ラーセン。」
「はぁい。」
船の形を模した、ネイビーのボトルがテーブルに置かれる。へえ、見た目好みだな。気に入ったからと特に飲む気もしないので他愛もない話をしながらボトルに残ったシャンパンを飲んでいるとそろそろ、か。今日だけで随分常識をわけわからなくしてしまっただろうボーイくんにそっと心の内だけで謝罪してデンモクを適当に操作する。
「はい。」
「…マジ?」
「ええ、マジ。」
「歌えるけどさぁ、僕がコレ歌うの初めてなんだけど?」
「あら、初めて奪っちゃってごめんなさいね?」
「Prologue Endかぁ…はー、頑張ろっと。」
私の肩を抱いたまま、サトさんが甘ったるい声で歌うのを聴いているとこつん、と鼻先を合わせてくる。こういう他人を煽る事だけに関して言えば天才だと思う。まあ、女たらし的な意味でも天才なのかもしれないけれど。
「"君を愛すと誓ったから"」
サトさんがそのフレーズを歌った瞬間、場内がシンと鎮まる。何人かが顔を上げて惚けたみたいに見つめてて笑いが込み上げそうになるのをなんとか堪える。指先で彼の顎に触れ、にっこりと笑みを浮かべてやれば彼もまた悪戯っ子のように笑ったのだった。
「ね、アフターしない?」
「えー?」
「お会計此方になります。」
「税忘れてた、小銭面倒くさ…。」
\2,034,340と丁寧な文字で書かれた伝票を見て眉根を寄せる。財布の中から諭吉を4枚と帯付きのままボーイに手渡す。ちょっとだけ手が震えていたように見えたけど気のせいだということにして腰を抱くサトさんへと向き直る。
「迎え行くからさ、向かいのバーで待っててよ。」
「はいはい。」
「此方お返しになります。」
トレーに置かれたお釣りをそのまま、ボーイに差し出す。混乱しまくってるね、ごめんね。
「今日、コールやるなって言ったりやれって言ったりで迷惑かけちゃったでしょ?大した額じゃないけれど貰っておいて。」
「本心は?」
「財布出すの面倒。」
楽しそうに笑ったサトさんが出口までへとエスコートしてくれるので階段を登って扉を目の前にして、歩みを止めたのを不思議に思ってサトさんを見ると一枚の名刺を差し出された。あ、サトさんの名刺。しかも電話番号書いてあるSSRのやつじゃん。
「終わったらすぐ行くから絶対待っててね?」
「お腹空いたからラーメン食べてるわね。」
「いやいや、僕と行こうよ。そこで飲んで待っててってば。」
「分かった分かった、じゃあ後でね。」
サトさんが言ってるのは向かいのバーだろう。本当は空護の所にでも行って飲みたいけれどあそこをアフターに使うのは嫌なので大人しく言うことを聞く事にする。小型犬みたいで可愛いんだよなぁ、こういうとこ。まあ、私猫派なんだけど。
結局最後までスキンシップの激しかったサトさんの体温に慣れた体が少し寒く感じたけれど、さっさと店に入ってしまえばいいだけの話だ。さて、あの人が来るまで今頃荒れに荒れているだろうホスラブを見ながら飲むかな。