何でもない日のナイトパーティー


授業終わり放課後、級友と部長がぎゃあぎゃあと騒ぎながらチェスをするのをBGMにスマホを弄る。話題になったオンラインゲームはやり込み要素が売りだと聞いてインストールしたけれどスタートダッシュに気合いを入れすぎたせいか最近はデイリーミッションを熟すだけのゲームになってしまった。有り体に言えば飽き始めているのだが、据え置きゲームをこの場に持ち込む訳にもいかず、なんとなくで操作する。別に幽霊部員万歳のこの部に態々部室に顔を出す必要もないのだが、恋人が貴重な生身で来るのだからなんだかんだと足を運んでしまう。ちらりと二人を見ればニヤニヤする恋人と眉根を寄せる級友、どうやら今日のゲームは恋人に軍杯が上がりそうだ。

「フヒッ、アズール氏ってばこの手に気付かないから楽勝っすわぁ。」
「あああああ!!!」

コン、という音と共に上がる絶叫。なんとなくスマホを置いて恋人の背後から抱き着き盤を覗く。遅れて鼓膜を揺らす絶叫、恋人が距離を詰めたくらいで一々騒がないで欲しいのが本心だがこの男は何時までも概念童貞なので仕方がない。なので放置して悔しげに眼鏡を指で上げる級友へと声を掛けることにした。断じて面倒臭いわけではない。

「アーシェングロット、頭良いのに。」
「ぐっ…!」
「あ、ああああああああアメリア氏!近い!近いでござる!密!!」
「うるさ。」

するりと腕を解いてそのまま適当に椅子を引っ張ってきて対面する二人の近くへと腰を下ろす。ボードゲームに参加しようかと思ったがセンパイが使い物にならなさそうだから雑談へと切り替える。頭を使っただろうから二人にキャンディを手渡して、自分も咥内へと放り込み転がす。余談だがセンパイの口には棒付き故に問答無用で捩じ込んだ、静かにさせたかった気持ちも3ミリくらいはある。何ミリ中の3ミリかは言えないけれど。

「そういや、ラウンジは?」
「今日は各々部活等に顔を出していますよ。僕も部活が終わり次第、ラウンジへ向かいますが。ああ、アメリアさんも遂に我がモストロラウンジへ来て頂けますか?」
「んー、デートなら行ってもいいけど…。」
「ヒィッ!」
「…この調子だから難しいんじゃない?私、モストロに誘うような友達居ないし。」


端に置かれたクイーンを手に取り手慰みに弄びながら恋人を一瞥するも勢い良く首を左右に振り拒絶を示す。「あんな陽キャかリア充の巣窟行きたくないでござる!!」とでも言いたそうな顔だ。一応、私と貴方で"リア充"という区分に入るのだけれどそれは頭からすっぽ抜けてるのか。いや、そもそもこの人はあんな煌びやかな場所に行くメンタルを持っていないだけなんだろうけど。最初は私のことも陽キャ集団の一員だと思ってたみたいだし…スートのせいだろうか。いつだかにイグニハイドのクラスメイトに陽キャマークと呼ばれたのは忘れない。描きたくて描いてるわけじゃない、我らが女王様の命令なのだから仕方なくなのだが、やれ何でもない日のパーティーだクロッケーだなんだと騒がしい日々の続く我が寮とは相容れないのだろう。私だってやりたくてやってるわけじゃないし、規律は好きじゃないのだから根本的にハーツラビュル寮であることが不可解なのだ。考えれば考えるほどになんでイグニハイドに入れなかったのか、あっちの方が生きやすいのに。閑話休題。ともあれ鋭い歯でガリガリとキャンディを砕く恋人から視線を逸らしてアーシェングロットを見る。

「少ない同性ってこともあってロビンとは仲良くしてるけど、あの子だと楽しめないでしょ。」
「まあ、従業員ですからね。」
「あと、やんちゃな方のリーチが面倒。」
「…フロイドが何かご迷惑を?」
「この間二人で食堂でご飯食べてたんだけど、回収されてったの。お陰で一人で食べる派目になった。」
「ああ…。」
「キミら見てればツガイが最優先、ツガイの最優先も自分って理解出来たから良いけどね。」
「アメリア氏、あの、拙者の腕抓るのやめ、ちょ、痛い痛い!」
「この間もぶっ飛んだ方のリーチが昼寝してるバルピナスに自分の上着掛けて絶対誰にも寝顔見せないマンしてたよ。」
「アレらはそういう生き物だと思ってください。」
「オルキヌスの話もしようか?」
「やめてください。」

表情は変わらないが赤くなった耳が銀髪から覗いている。身内の話ならまだしも矛先が自分になると照れが勝るらしい。普段の胡散臭さは何処へやら、恋人を前にするとこの男もこんな風になるのか。

「テンペーラ氏と言えば、この間学園長の無茶振り案件に遠い目しながらアズール氏の所へ行きたいと騒いでた記憶。なんで自分だけイグニハイドなんだ、とさめざめしてましたわ。」
「この間錬金術でペアになったけど、アーシェングロットがこの間モストロラウンジの売上が良くて上機嫌だったのが可愛かったとか言ってたよ。部屋に招いてくれたって。」
「ははぁん?この間の事後報告の外泊届けはそれですかな?」
「へぇ、バイト終わりにちょっと寄ったわけじゃなくて上機嫌な恋人に誘われてお泊まりに?」
「やめろと!言ってるでしょうが!」

揶揄いスイッチが入ったのかケラケラ…いや、ドゥフドゥフ笑いながら後輩虐めに転じた恋人をぼんやり見る。まさにNRC。この人スタイルもいいし整った顔をしてるんだからもうちょっとなんかあるだろうと思うがコレも含めて彼なのでまあいいか。耳どころか首まで真っ赤になったアーシェングロットがキッと此方を睨む。


「お二人は!どうなんです!?」
「グッ、こっちに矛先を!」
「どうもなにも、部室で会うのが殆どだよ。イデア先輩は基本自室から出ないし、私はご存知厳正戒律国家所属だからね。不純異性交友の為に外泊したいなんて言ったらおっかない女王様にオフられちゃう。」
「待って、アメリア氏自寮のことそんな風に呼んでんの?それこそ怒られない?」
「リドルさんがそれはそれは怒りそうな…。」
「186条に火曜日にハンバーグを食べるべからずなんていう、なんの意味があるかもわからない世界で生きてる理不尽耐性SSS+ナメんな。」
「ヒェッ…。」

271条の昼食後15分以内に席を立たねばならぬ、はわかる。私が自他ともに認める効率厨なのもあり食後にダラダラする趣味はないし、回転率が悪くなるのは本意ではないから異論もないし従おう。339条の食後の紅茶は必ず角砂糖を二つ入れたレモンティーでなければならない、もまだ良い。でも、なんで火曜日にハンバーグがダメなのか。豪に入れば郷に従えとは言うがよく分からない。ゲーム感覚で810条の法律は全て数日以内に頭に入れたが理解出来るものと理解し難いものがある。そう漏らせばセンパイが少し考え込む仕草をして、そうして閃いたと言わんばかりに此方を勢いよく見る。


「アメリア氏!ハートの女王の法律124条は!」
「体がずぶ濡れになったら、海の中で走って体を乾かさなければならない。」
「では僕からは…469条を。」
「新しい仲間をパーティに招く日は、赤と白の薔薇を交互に飾ること。」
「えっと、じゃあ562条!」
「"なんでもない日"のティーパーティーにマロンタルトを持ち込むべからず。」

その後もいくつかの問題が出されては私が答える、と繰り返していれば二人が拍手をしてくれた。いや、ハーツラビュル寮生なら知ってないといけないことなんだけど…と喉まで出かけたが未だ曖昧な1年生たちの存在を思い出しそっと飲み込んだ。

「…改めて凄いですね。」
「そもそも二人は正解知ってるの?」
「一応?ニュアンスだけ知ってるのが殆どっすわ。」
「他寮のことをそこまで詳しくは知りませんね。」
「アメリア氏、なんだかんだハーツラビュル寮生。」
「私だってイグニハイドが良かった…。」


ハートの女王の"厳格"な精神に基づくハーツラビュル寮。
百獣の王の"不屈"の精神に基づくサバナクロー寮。
海の魔女の"慈悲"の精神に基づくオクタヴィネル寮。
砂漠の魔術師の"熟慮"の精神に基づくスカラビア寮。
美しき女王の"奮励"の精神に基づくポムフィオーレ寮。
死者の國の王の"勤勉"な精神に基づくイグニハイド寮。
茨の魔女の"高尚"な精神に基づくディアソムニア寮。

特色の違う七つの寮へと闇の鏡により魂の色、形で選別される。今年の一年には特例が居るようだが…まあ、彼だか彼女にも色々あるのだろう。関わりがないので不明だが。それにしたって嫌いなものが規則な私が法律に従い生活するハーツラビュル寮に選ばれたのは何かの間違いではあると思う。本気で転寮を考えたこともあるが、どの寮を見てもどこが自分に向いているかがわからないのも事実。なんせ、イグニハイドに所属する程私は魔導工学に明るくない。なんだ、消去法か?と闇の鏡をかち割りたい気持ちにもなる。ではなぜイグニハイドを選ぶのかと言われれば、それは勿論他人と無理に関わらずに済むからである。なにせ寮長が他人と距離を置くタイプだ、やれパーティーだ薔薇の色塗りだとゲームの時間が割かれることもない。


「アメリア氏がうちに来たら全員引き篭るのでは?」
「イデアさんがそれを言います?」
「ただでさえギーク精神、そこに数少ない女子なんて来ようものならうちはパニックですぞ。」
「センパイの部屋に行くだけでプチパニックだからね。」

ダラダラと喋りながら時計を見ればまだ一戦くらいは可能なことに気が付く。適当にボードゲームを見繕うかと腰をあげようとした矢先、それはもう勢い良く部室の扉が開いた。壊れたかと思うレベルで。大きい音にビックリしたであろう恋人が言語化出来ない悲鳴を上げて私の背に隠れるがこれもいつものことなので放置して扉を見れば見慣れた顔が二つ。クラスメイトと、友人。

「アズール居るぅ?」
「此処に居ますよ。…何してるんです、ロビン。」
「ぼくも知りたい。」

やんちゃな方のリーチがさながら子供を抱えるかのようにロビンを抱いている。同級生を片腕に乗せるようなその体勢はどうなんだ?と思うが、割といつも通りの光景でもある。どちらもその体勢に疑問点がなく、当然だと思っている節があるというか。それでいいのか、キミたち。

「フロイド、部活に行ったのでは?」
「ぼくが呼んだ。ラウンジでちょっと厄介なお客様が来ちゃって、アルがキレ散らかしてるんだよね。」
「そういうことは早く言いなさい!というかジェイドは何してるんです!?」
「めっちゃ喜んでたぁ。」
「あんのウツボは!!」

なんともマイペースな二人である。リーチらはそういう性質として、この幼馴染たちの中では常識人枠のロビンまで止めないとは。いや、止められないのか。冷静に考えてロビンはこの六人組の中で圧倒的に庇護される側であり、そもそも喧嘩に参加出来ない。矢継ぎ早に言葉を連ねて慌てたように部室を後にするアーシェングロットの背に手を振って見送り、イデア先輩の方を見る。


「アーシェングロット帰ったけどどうする?部屋戻る?」
「ングゥ…アメリア氏は?」
「センパイ次第。」
「ぼ、僕の部屋来たり、します?この間話したらアメリア氏がやりたいって言ってたゲーム実家から送ってもらったからあるよ。幸いにも今日は金曜日だから徹夜でゲーム合宿可能ですしおすし。」
「じゃあ一度寮に戻って外泊届け出して来る。」
「今夜は寝かせませんぞ!」
「なるほど。勝負下着は必要?」
「童貞殺し良くない!!!」
「童貞は私で捨てたでしょうが。」

まだ騒いでる恋人の頬に軽く唇を押し当てて黙らせ、数秒後にはまた発狂することを見越してさっさと鞄を取って部室を出る。自寮に戻って外泊届けを適当に書いて副寮長に手渡し、必要最低限の荷物を愛用のリュックに詰めて自室を後にして目指すはイグニハイド…の前に、購買部に寄って適当に摘める菓子類や飲み物を買う。駄菓子とスティックパンは必須なのである、ついでにミステリードリンクだかを買って飲みながら向かう。寮長に歩きながら飲食してるところなんか見られたら絶対面倒臭いので足早に。イグニハイドへ踏み込むと丁度オルキヌスと鉢合わせて、なんとなく会釈する。

「アーシェングロットんとこ?」
「え、なんでアズール?」
「なんかラウンジに厄介なのが来たとかで部活切り上げてたから、オルキヌスも呼ばれたのかなって。」
「…聞いてない。行ってみるよ、ありがとな。」
「なんかバルピナスが暴れてるとかなんとか。」
「あ、すぐ行く。」

慌てて鏡を通るオルキヌスを見送りサメもシャチもウツボも凶暴だからな、なんて思いながら寮長の自室へと足を進める。勝手知ったると部屋に入れば相変わらずの姿勢でモニターを覗き込み何やら打ち込んでいる恋人の背中。私が入ったことに気が付いていないらしい。また学園長からの無茶振りかな、とアタリをつけて適当な位置に荷物を置き買ってきた物、主に飲み物を冷蔵庫に詰めた。それでもまだ気が付く様子のない、爪を噛む恋人の背中を見ながらベッドへと腰掛ける。ゲームでもしようか、それとも課題?夜通しゲームなら今のうちに仮眠してもいいかも。ペンを振ってスートと化粧だけさっさと落とし、ごろりと制服のままベッドに寝転び枕へと顔を埋める。ついでにジャケットだけは脱いでベッド下へと落としておく。普段より丸まった背中を見て、そうして瞼を閉じた。


「アメリア氏!?」
「うるさ…。」
「何時から居たの!?声掛けてよ!」
「んー…声掛けたけどセンパイが気が付かなかった。」
「うっっそ!?」
「うん、嘘。」

無意味な嘘はやめてとかなんとか言ってるセンパイをそのままに時間を確認すると仮眠して2時間程度、体を伸ばして未だゲーミングチェアから離れない恋人を手招きして呼べば恐る恐る近寄ってくる。ベッドに腰掛けた恋人はいつものパーカーを着ていないせいか細さが際立つが、それでも私よりは力があるのはもう知っている。体力はないけど。壁際に寄って隣を叩けば視線をあっちこっち散らばせてブツブツ呟いた後、漸く隣に寝転んで来た。決して広くはないベッドで二人、狭い故に触れる体にやっぱり挙動不審になる恋人はいつになったら慣れるのやら。

「アメリア氏、あの…、」
「あ、寝巻き持って来てないから服貸してね。」
「またぁ!?拙者の服じゃサイズ合わないから持っておいでって毎回言ってるのに!」
「本音は?」
「彼シャツ最高っすわ、暫くオカズに困らん。」
「服で満足してないで本人に手を出せよ。」


ピッタリと隙間なくくっついてやれば、おっかなびっくりではあるものの背中に腕を回される。この人は何時だって一歩目までに時間は掛かるがそれを乗り越えてさえしまえば躊躇なく進める。現に背中に回った手がブラのホックに触れているし。服の上から外せるかチャレンジ中らしい、放っておく。

「センパイ、ちゅーしよ。」
「ん、目ぇ閉じてくだされ。」

ゲームはまた今度にしよ、そう言った私に彼は小さく笑って、そうして優しくキスした。ぱちん、と音がしてブラ外しチャレンジに成功した恋人のゆるゆるのシャツに手を差し込んで…そこから先は、お察しである。


「センパイってよくわかんないよね。」
「ッンヌグ、…アメリア氏、もうちょっとオブラートとかない?」
「巨乳淫乱ナースのえっちな個人看病。」
「ああああああああぁぁぁ!!!!!!」
「私そんなに胸ないよ?」
「拙者!美乳派!!アメリア氏のおっぱいこそ至高!!」
「触る?」
「困りますお客様!お客様!困ります!!ああああ!!!」



タルト有馬す。