聞いてない!
※とてもよくわからない設定
CPが無法地帯
「好きな人が出来た。」
ごめん、と続いた言葉に目を丸める。サングラス越しでは彼の瞳は見えないが、噛み締める唇を見れば彼がふざけているわけでも私を軽んじているわけでもないことがわかった。話があるから今夜部屋にと言われたのは朝一番、任務を終えて戻ってきた私を玄関までわざわざ迎えに来てくれた悟さんは慣れたように私のカップへとコーヒーを注いで二人で向かい合って座ったのが五分ほど前。他愛もない話を少しだけしてから意を決したように呟いた言葉を理解するのに30秒ほど必要だったが、10年の婚約期間を経た相手に言われたのなら仕方ないことだと思う。マグカップを手に取り一度口元に運んでコーヒーをひとくち。それからカップを机に置いて、首を傾げた。
「おめでとうございます…?」
「いや、反応合ってる?」
「一応聞きたいことは幾つかありますけど、10年結婚を前提に傍に居た人間とは言え初恋をしたのだからめでたいことだなぁと。悟さんに人を愛するって感情があったことにも驚きますけど、それはそれとして。」
「ちょっと?喜雨ちゃん?」
「……友人として、とても喜ばしく思うよ。」
元々政略結婚なのだ。共に過ごした時間の中で情は生まれていたが、お互い恋愛感情は芽生えなかった。刺激は沢山貰えたし彼に世界を広げてもらった身としてはやっぱり彼にも幸せになって欲しかったから素直にめでたいことだなぁと思ったのだ。
「一級になれたから家飛び出すくらいはもう出来るもの。当主の悟くんが婚約解消したいって言えば問題ないんじゃないかな?そのまま実家とはついでに縁切っちゃって…まあ、高専でそのまま術師してればいいかなぁ。結婚願望そんなにないし。」
「勝手言ってるの僕だけどそんなアッサリと…。」
「悟くんが好きになった人の話は聞きたいかな。あの尖りに尖った暴虐と自己主張の塊みたいだった悟くんの棘を研磨した人は気になる。」
「ねえ!泣くよ!?」
事実でしょうが。張り詰めた空気でもなくなったので土産に買ってきたマドレーヌを机に出して一つ摘み上げる。開封して口に運べば悟くんが大きく溜息を零してからヤケクソ混じりにマドレーヌに手を伸ばした。
「……ねえねえ、悟くん。」
「なぁに、喜雨ちゃん。」
「悟くんの好きな人って男の子?」
「なんで!?!?」
「ありゃ、じゃあ私と婚約継続して子供だけ残した方がいいかもなあ……五条家の末代悟くんはマズイ。」
「なんで!分かるの!?」
「ンー…まず術師の男女比率の問題があるじゃん?女性術師も少なくはないけど悟くんと関わりがある人を考えたら恋愛って感じじゃない。硝子さんとか歌姫さん冥冥さん辺りは関わり深いけど悟くんはあの人達をそういう風には見てないし見れないと思う。で、姉さんをそう言う目で見てたら私に絶対言えない。依先生は既婚者だし…そう考えたら同性の方が可能性高いかな?って。」
「……まー、硝子たちはナイ。依先生は普通におっかないし、見遥も既婚者みたいなもんだからね。」
「傑くん辺りなら納得するなってのが一番だけど。」
悟くんがぐ、と詰まる。親友ではあるが長い時間を共にして紆余曲折のあった二人だ。どう転がったとしても納得するってもんだろう。少なくとも知り合って2年に満たないほどの期間でお互い転がるように恋に落ちた親友二人がいるのでもっと長い悟くんと傑くんならそらそうだってなるじゃない。口の中の水分がなくなる感覚にコーヒーを流し込むことで乾きを防ぎ、そういえばと髪を摘む。
「ていうか結構前から悟くんって傑くんが好きなんだと思ってた、が正しいかな。」
「え、僕が自覚したのここ数日なのに?」
「家に仲良しアピールするのに手っ取り早く見た目悟くん好みの女になるから好きなタイプ教えてって言った時に長身で黒髪ロングでおっぱい大きい子って言ってたじゃん。傑くんは胸筋だけど。」
「あ?あー…言ったっけ……え、僕それいつ言った!?」
「んーと、私が中1くらいの時?だから、5年くらい前。」
「うっそぉ!?」
勢い良く伏せてったな。ゴンッと激しめの音がしたが悟くんの額及び頭部は無事だろうか。腰まで伸ばした髪は傑くんとは異なり癖があるが、今の私は大凡悟くん好みのはずだ。見た目だけなら。年齢差からそういう目で見れないと言われてしまえばそれまでだが、男の人は恋愛感情より性欲の方が前に出やすいからと硝子さんが言っていたのでつまりはそういうことなんじゃないかなぁとか。うんうん唸る婚約者を放置して深刻な話だとソワソワしていた親友たちが気になり始める。あの二人付き合ったばっかなんだから私が居ないこのタイミングで存分にイチャイチャすればいいのにね。あれ、私の身の回り男性カップルまみれになる?ちょっと居心地悪いな。当て馬にはなりたくないぞ。
「喜雨ちゃぁん……。」
「はいはい、なぁに、悟くん。」
「脈あると思う?」
「えー…どうだろ。」
傑くんこと、夏油傑。婚約者の親友であり想い人、私の親友の実兄。悟くんと婚約して数年で顔を合わせなんだかんだと話す機会が増えた私にとっても友人のような、そんな人である。悟くん呼びなら私も傑くんでいいよ、なんて言われたのでそのままプライベートだとズルズルこの呼び方をしてしまっているが、友達!みたいな距離感ではない。なんかこう、お互い悟くんのお守り仲間みたいな感覚だと思う。閑話休題。どうだったかなぁ、と記憶を探るがあの人はなにせポーカーフェイスが上手いのでよくわからない。駿と悟くんを見る目は優しい、それ以外の印象が特にないのが現状である。私に聞くより硝子さんに聞く方がいい気がするけど…いや、絶対遊ぶからダメだな。
「はー…色々どうしようなんだよね。考えれば考えるだけ僕らが婚約解消しない方がいいって結論しか出ない。」
「そうなの?」
「だって仮にそういう仲になれたとしてもさっき喜雨ちゃんが言ってたみたいに同性だから子供の問題も出てくる。そもそも傑が僕のこと好きになる、ってのも難しいだろうし。喜雨と婚約解消するデメリットはあってもメリットは一つもないんだよね。喜雨がダメならって適当な女宛てがって終わりでしょ。」
「まあねぇ。でも政略結婚だから個人の感情じゃなくて家同士の為のものだし…手っ取り早いのは私と結婚して子供は作るけどそれだけの関係、かな。」
「喜雨にメリットないじゃん。実家抜けるなら好きな相手と結婚とか出来るんだし、選択肢は多いよ。」
「じゃあ悟くん私以外と子作り出来んの?望まれた子供が出来るまでずーっと面倒くさい女抱ける?」
「それは嫌だけど僕の勝手で婚約解消するんだし。」
「でも婚約解消にはデメリットしかないんでしょ?」
「あああああああ、めんどくせえええ。」
別に私とは外だけおしどり夫婦装って後継だけ作って傑くんとイチャイチャしてればいいんじゃない?と思うけれども。悟くんもそれは分かっているし最適解がソレなのも十分に理解しているんだろう。それでも、10年分の情が邪魔をしている。傑くんの影響も大きいだろうな。きっと婚約直後なら私のことは上手く使ってた。人間らしくなったねぇ、とよくわからない観点から感動をする。それどころではないのだけれど。
「じゃあさー…傑くんに決めてもらおうよ。」
「は?」
「だから、悟くんが傑くんに告白するでしょ?事情説明するでしょ?その上で傑くんがどう考えてるのか聞くのが手っ取り早くない?」
「いやいやいやいや、何言ってるの喜雨ちゃん。」
「フラれた場合と告白がOKで私との仮面夫婦を推奨の場合は婚約続行。OKだけど私とじゃ嫌、扱いやすい女で上手く使おうって考えなら婚約は解消。」
「喜雨、どこに人の心忘れてきたの?」
「あんな家育ちなものでね、あいにく貞操くらいしか守れなかったよ。」
「術師な時点で、でもあるしね。いやでも…僕だって喜雨に幸せになって欲しいしその幸せは自分で選んで欲しいんだよ。」
「えー?」
あ、そういえば。これだけは言っておかなきゃいけないぞと項垂れたままの悟くんの肩を叩く。
「どっちに転がるとしても一つ条件があるんだけど。」
「なんでもどうぞ、僕に出来ることならね。」
「悟くんも傑くんも変わらず友達で居て。そしたら別になんでもいいよ、私。」
「…僕なんで喜雨のことを好きにならなかったのかな。」
「私と出会う前から好きな人がいたからでしょ。」
「やめて!」
というようなやりとりがあり。流石にその足で告白させるのはということで一旦解散になった。悟くんの部屋を出て自室に戻ろうか、空護の部屋に行くか迷っていると背後から声を掛けられる。なんというか、物凄いタイミングで…ちょっとぎこちなくなりそうだがなんとか平静を装い振り向くとやっぱり傑くんだった。
「悟との話は終わったのかい?」
「うん、一通り。傑くんは悟くんに用事?」
「いや…喜雨にかな。」
「………駿に手を出した記憶はないんだけどな。」
「はは、そんなことしないだろう。」
四六時中引っ付いてることに関しては手を出した判定じゃないのだろうか。やめろと言って駿が静かに怒り狂うリスクを避けている可能性もあるけれど。それにしてもさっきまで話の中心だった人物からの個別呼び出しに内心冷や汗はダラダラである。とりあえず促されるままについて行くと何故か傑くんの自室で、もう走って逃げ出したかった。
「ごめんね、あまり人に聞かれたくない話だから。」
「傑くんの部屋に入って怒るような人居ないでしょ。硝子さんは止めるかもしれないけど。」
「もしかして私は硝子に無節操だと思われてる?」
「私が中学生くらいの時に悟くんは童貞だけど傑くんは百戦錬磨だから隙を見せたらあっという間に処女が散るぞって言ってたよ。」
「あとで強めに叱っておく。」
何か飲むかい?と聞かれたがさっき悟くんにコーヒー貰ったし…と断ろうとしたけど傑くんの雰囲気的に長くなりそうなので頷く。緑茶が出されたのでそれをちびちび飲みながら向かい合って座る。デジャヴ。
「それで話ってなぁに?」
「あー…いや、数日前から悟の様子が可笑しかったんだ。それで声を掛けようと思ってたら神妙な顔をして喜雨を部屋に招いていたし…なにかあったのかな、と。」
「あったにはあったけど…。」
「やっぱり。悟となにがあった?」
悟くんがあなたに恋してる事に漸く気がついて混乱してるだけですよ、とか言えるはずもなく。でもここでプライバシーが…とか言うと余計に心配させてしまうかもしれない。ただでさえ傑くんは術師の意味不明な風潮やら上の考えが大嫌いで強めの反抗期だし、あんまり婚約云々は話さない方がいい気もする。でもなぁ…と考えたところでふと気が付く。悟くんの恋を応援する為、傑くんが悟くんをどう思ってるか聞き出すチャンスなのではないかと。生憎恋愛経験もなければ恋バナできゃっきゃ盛り上がるお泊まり会もしたことはないけど。…様々なことが未経験故に成功率がめちゃくちゃ低いな。失敗したら足引っ張るだけになるか、悟くんのまだ柔らかくてふわふわの恋心を傷付けることになるのでは?それは絶対ダメだろう。くっそ、私も百戦錬磨ならここで鮮やかに情報収集をして悟くんの力になれるのに。親友カップルとしか過ごしていない弊害が今此処に。
「そんなに話しにくいことなのかい…?」
「あ、ごめん。ちょっと…ううん、なんで言えばいいのかわからなくて……勝手に話していいのかとか、考えちゃった。」
「喜雨が悟との話を悩むのは随分と珍しいね?」
「いやだって今までは育児報告会みたいなものだったじゃん…【今日の悟くん】的なさ。」
「親友が8つ下の女性に育児されてると思うと頭が痛いな。」
それには同意する。会話の合間に色々と考えてみるけれど、やはり未経験者の浅知恵では誘導とか情報収集とか無理な気がする。素直に諦めよう。下手に誤魔化したりした方が傑くんにバレそうだし。なんというか悟くんの恋心流失だけしないようにすればいいだけだよね。
「あー…んん……もしかしたら、私たちの婚約を解消するかも、なんだよね。」
「は?」
「婚約当初はともかく、途中からは私を実家から守るっていう目的で悟くんは私との婚約を続けてくれてて。私も無事に一級として認められたし…まだ未成年ではあるけどこんな世界だから結構なんとでもなるみたい。」
「あんなに仲が良かっただろう。」
「勿論情はあるよ。親愛とか友愛とか…そんな感じ。お互い恋愛対象ってわけじゃないんだよね。私からすれば一番最初に出来た友達、が一番近いかな。」
傑くんが黙り込む。考え事をする時のこめかみに親指を当てる仕草を一瞥してお茶を飲む。嘘は言っていない、ただ決定的な婚約解消の理由を割愛しているだけだ。それにしてもこのお茶美味しい。あー、特級なだけでも安心感があるのにそれなりに付き合いの長い傑くん相手だから気が抜ける。
「とはいえ、私は兎も角悟くんが大変かも。当主を継いでるから後継問題は避けられないし…今から探すとなると適齢期が宛てがわれてすぐ入籍になるだ、」
「悟が、結婚?」
「あ、ごめん。傑くんこういうの嫌いだったよね。」
「悟が…喜雨以外と結婚。」
「まだ確定じゃないから。お世話になったっていうのもあるけど私は友達としても悟くんの意思を尊重したいと思ってるし…悟くん次第かなぁ。」
あと傑くんもだけど、という言葉はお茶と一緒に飲み込む。とりあえず悟くんが訳の分からない女と結婚することに関しては嫌そうなので全くの脈なしではないのかもなんて考えるのは流石に丼勘定すぎるか。親友としての心配って可能性もあるか、私も駿と空護が変な女に纏わりつかれてたら殴り込みに行く自信がある。傑くんも似たような感情になってもおかしくない。まあ、少なくとも私が高専卒業まで…残り一年程の猶予があるし悟くんが頑張ってそれまでに傑くんを落とせたらいいなぁと、目を伏せた。瞬間、ガッツリ両肩を掴まれる。誰にもなにも、この部屋には私と傑くんしか居ないので当たり前のように傑くんの両手なのだけれど。呪霊の可能性?ないない、あったら気が付くもの。特級と一級なんだからそれくらい…ところでこの現実逃避いつまですればいいの?なんで人の肩掴んだまま無言なの、傑くん。
「ダメだ。」
「へ?」
「どこぞの猿と悟が結婚なんて、考えただけで虫唾が走る。」
「いや、相手は術師だと思うけど…。」
「悟と結婚する女性なんて喜雨以外はみんな猿みたいなものだろう。」
「落ち着いて傑くん、闇堕ちしないで、帰って来て。情緒が乱れても女性と呼べるの凄いと思う、だから落ち着いて。」
「喜雨だったから、」
そこで言葉を止めた傑くん。あれ?もしかして?と思うが私の勝手な期待が判断を邪魔している可能性がある。大いにある。だがしかし、あの…なんで、女性補助監が空護と話してる時の駿と同じ顔をしてるんでしょうかね?
「傑くん、もしかしてなんだけど…間違ってたら本当謝るんだけど……悟くんのこと恋愛感情として好きなの?」
「好きだけど?」
「そんな知らなかったっけ?みたいな顔しないで!?」
そんなわけないだろう、親友として心配しているんだよ的な反応が来ると思ってたんだけどな!?自分のポーカーフェイスっぷり忘れちゃった!?と私が混乱する羽目になった。ていうか悟くんが好きなのに私との結婚推奨してるのは何故なの…好きな人が出来たら自分だけ見ててって思うんじゃないの?困惑する私に気が付いたであろう傑くんが深く息を吐く。
「悟の事情も知っているからね、気に食わないと言えば気に食わないけれど結婚して子供を作らなきゃいけないのは理解しているさ。その相手が喜雨なら構わないと思うよ。悟のことを尊重してくれているのは分かっているし、結婚したのだから愛せと厚顔無恥なことも言わないだろう。」
「厚顔無恥…。」
「自分の置かれた立場を正しく理解していないなら厚顔無恥の猿だろう?」
「傑くん、どこでなんのスイッチ入っちゃった?悟くん呼ぼうか?空護と駿のとこ行っていい?」
「まだ話は終わっていない。」
私に言わないで悟くんに言って欲しい、様々なことが数秒で解決するから。両思いなのは分かったけれど、なぜ二人して私に言うのか…お互いに伝え合った方が有意義じゃない?そして無駄がないと思う。こう考えると駿と空護の両片思い期間に惚気なんだか相談なんだかをしてきたあの時間が微笑ましく感じる。あの二人は本当に好きだーって私に言ってただけだもんな…本人に言えって言ったら素直に従ってたし。駿と空護の凄いところは付き合う前と後で私への態度が全く変わらないことかな。相変わらず二人ともなんの躊躇もなく私を膝に抱き上げるし真ん中は私なんだよな…気にせずイチャイチャしてていいのに。
「聞いてるかい?」
「聞いてない、駿と空護のこと考えてる。」
「素直だね。」
「だって悟くん大好きー!って話でしょ?悟くんに言えば良くない?」
「悟に言ってどうするんだい、困らせるだけだろう。」
泣いて喜ぶと思います。ごめん嘘、泣きはしないか。素直になれなくてあーだこーだ言うであろう悟くんが想像に容易かった。とはいえ此処から先、自分の片思いだと思い込んでる悟くんと傑くんに挟まれるのはちょっと…いや大分避けたい。親友カップルはしがらみもなく、少なくとも空護がアホのように素直だったので大変微笑ましいものであったがこの二人は絶対面倒くさいし拗れたら術師全てを巻き込んだエキセントリック大喧嘩になるだろうし。抉らないように手を尽くしたい限りではあるが、私は初恋すら未経験。絶対に上手く誘導とか出来ない。
「悟くんは傑くん大好きだから大丈夫だよ…。」
「親友として、ね。」
「親友だと思ってても些細なキッカケで恋愛に転がるなんて空護と駿見てたらわかるじゃん…ここで変に意地になって言わずにいたら私と婚約解消になって変な女宛がわれるかもよ?悟くんが休日にせっせと変な女に会いに行って心の底からどっちでもいいような服を選んでって言われたり趣味じゃない食器で食事したり、見てて不快になるような写真を撮ったりすることになってもいいの?ごめんね、奥さんが呼んでるからって傑くんとの出掛ける予定ドタキャンしても笑顔で見送れる?」
「………あ、考えただけでダメだ。術師とか非術師とか関係なく殺してしまう自信がある。」
「でしょう?だったら傑くんが告白して、一回目はダメでもアプローチしまくってオトした方がよくない?確かに悟くんの子供問題があるから表面上は私がパートナーになっちゃうけど、私なら二人の時間もしっかり確保するしどっちも友達として接するよ?術師の面倒くさい横繋がりとな私が請け負うしさぁ…。」
「魅力的ではあるが、喜雨にメリットがなくない?」
「二人が変わらず友達でいてくれて、駿と空護と馬鹿騒ぎ出来たらそれで十分だもの。」
本心である。勿論、これから先私に好きな人が出来る可能性だってあるが、二人の都合に合わせるのだからそこに文句を言ったりはしないだろう。子供だけは作るなよと、それだけだ。まあ、相手方が私たちの関係に理解を示さない限り絶望的っちゃ絶望的だけど。
「悟と、話をしてくる。」
「今夜の喜雨ちゃんは営業終了なので、結果は明日以降に聞くよ。」
「もう寝るのかい?まだ20時だけど。」
「駿と空護に癒されに行くんだよ。」
「……うん、ごめん…。」
そんなわけで漸く解放された。親友二人が恋しすぎる。でっかい犬が如くわしゃわしゃと撫でたい。撫でたい、けれど…今二人の時間かな。連絡してみようかと思ったがあの二人の事だからどんなにいい雰囲気でも私が声を掛けたら呼びかけに応じてしまう気がする。邪魔はしたくない。いや別に私が居ても居なくてもキスやらなんやらはするだろうけどね…それ以上を、するかもしれないので。明日駿は休みで空護は午後からだったと思うし本当にダメな気がする。明日の午後に駿に癒して貰うか、と溜息を零して男子寮から女子寮へと足を向ける。
「あれ、愛染なにしてる?」
「硝子さん。ええと…悟くんと傑くんと個別面談を…?」
「あのクズども今二人?」
「多分。傑くんが悟くんのところ行くって言ってたので。」
「そうか。」
二人に用事かな、同期だもんね。と思いかけて今のタイミングで硝子さんが悟くんの部屋に行ってしまったらマズイことに気がつく。なんとか引き留めたいが、任務の話だったら邪魔するわけにもいかないし…どうしよう、と考えていたら片腕を取られる。誰って、硝子さんに。何故。
「ちょっと付き合え。」
「え、あ、はい。」
腕を引かれるまま歩く。別に逃げたりしないけど、抵抗する必要性も感じないのでそのままだ。硝子さんは私より小柄だが、なんというかその差を感じない人だなぁなんて思う。なんだろう…こう、どっしり構えるタイプだからかも。ぼんやり考え事をしていたらあっという間に到着、硝子さんの仕事場だ。ところで何故私は此処に連れて来られたのだろう。なにか書類の不備?怪我をしたわけじゃないからお世話になるようなことはないのだけれど。首を傾げる私をソファに促し、正面に座る。私は今日この代の人たちと面談する日なのだろうか。そういうことは先に言ってください、学長。絶対無実だけど。
「五条と別れるのか?」
「へえ!?」
「クズ同士漸くくっつくんだろ。」
「……どこまで知ってるんです?」
「クズ同士の片方無自覚、片方自覚しつつも目を逸らしてたやりとりを間近で見てたんだ。なんとなく分かる。」
「で、ですよね…。」
勝手に話していいものか、と思いつつも恐らく硝子さんの想像通りだろうと分かっているので掻い摘んで説明をした。二人の言い分を聞く限り、私との婚約は続行となり表面上は夫婦でいるが変わらず友人として庇護してくれるだろう。悟くんも傑くんもうちの実家嫌いだし。硝子さんは一通りの話を聞いて、ふうんと興味なさそうに言った。そういえば昔から硝子さんは気に掛けてくれてたから、案じてくれたのかもしれない。ある程度の足場は整ったが、やはり悟くんからの庇護は威力抜群だものね。正直私も実家に連れ戻されて次、がないとは言い切れない。やれることはやるけど両親共に頭が可笑しいので常識が通じるとは限らないし。心配してもらえるのはありがたい。
「五条に特別な感情はなし、と。」
「恋愛感情という点においてはそうですね。」
「そうか、なら丁度良い。」
「なにが?」
「愛染の愛人枠、私にしないか?」
…………はい!?
「昔からいいなとは思ってたんだ。気が強いのに従順なところ。顔も好みだし、五条の為のってのは気に入らないけど。アイツに愛染は勿体無いだろう。夏油くらいで丁度良い。」
「どこからつっこめば?」
「私なら子供が出来る心配もないだろ。」
「今日情報量が多くてパニックなんですけど。」
「前から狙ってた女が半分フリーなんだ、掻っ攫われる前に引っ張り込むべきだろ。」
つい、と彼女の細い指が顎下に触れる。擽ぐるようにされて慣れない感覚に身を捩るとタレ目がちの瞳が愉快そうに細められて、ぞわりとした。興奮ではなく本能的な恐怖に近いけど、完全に蛇に睨まれた蛙の気持ちだけど。
「クズどもも、キミの親友たちも同性カップル。そこに嫌悪感もなさそうだしな。」
「ないですけども…硝子さんのことそういう目で見たことなかったし、見られてるという発想もなかったので大混乱ですよ。」
「人のモンに手を出すほどバカじゃないよ。五条と籍を入れて子供を作る事実は変わらなくても、恋愛対象じゃないなら構わないしな。」
「か、寛大なんですかね…?」
「最初はなんとなくで構わないよ、どうせオトすからな。」
硝子さんの指先が顎を持ち上げ、至近距離で視線が交わる。隈が凄いし顔色が悪い、ちゃんと休んで欲しいなんてぼんやりと思っていたら薄く開いた唇、が
「か、っく、」
「かく?」
「駿ー!空護ー!!」
転げ落ちるようにして指先から逃れて部屋から飛び出す。この時ばかりは悟くん仕込みの吐く程きつかった体術訓練に感謝するばかり。奇声を上げながら走らない自分を褒めたいし誰でもいいから褒めてくれ。二人の邪魔はしたくないなんて考えはもうどこかに行ってしまって、もう駿と空護に助けを求める気持ちしかなかった。もうセックスしてたとしてもいい、とりあえず顔を見せて欲しいとその感情のままに空護の部屋に転がり込むと二人が驚いたように目を丸めて私の名前を呼んだけれどそれに反応する心の余裕はもうない。1mmだってない!反射的に腕を広げてくれた親友たちの腕の中に飛び込んで二人の肩に顔を埋めた。
「喜雨!?どした!?」
「五条先生に酷いこと言われたの!?」
「おれちょっと乗り込んで来っか!?」
狼狽しつつも私の背を撫でてくれたり、抱き締めてくれる大きな二つの手にじわじわとなにかが込み上げてくる。二人の背に腕を回して強く抱き着いて、…駿はごめん、ちょっと痛そうな声出てた。でも今だけ許して。あと悟くんだけじゃないし今傑くんと大事な話をしているだろうから行かないであげて。
「ふ、二人と駆け落ちするぅ…!」
「ほんとにどうした!?」
「く、空護!ボク喜雨にあったかいココア淹れるから!」
「おおお!?」
私の呪力の乱れに気が付いたらしい色々乱れた悟くんと、なんだか髪がぐしゃぐしゃになった傑くんが空護の部屋に突撃してくるまで残り3分。硝子さんに口説き落とされるまで、あと何日?