爆ぜるはキミの愛
※性描写有り
大きな手が頬を包むのはキスするサインで、それは付き合い始めからずっと変わらない勝己の癖のようなもの。爆破を繰り返して皮膚が厚くなり硬くなった掌が頬を撫でるその感覚が私はどうしようもなく好きで、何度もその掌に頬を押し付け擦り寄った。だから、反射のようなものだったと思う。酸欠でぼんやりする頭で無意識に擦り寄ると勝己は愉快そうに口角を吊り上げる。細めた双眸から除くルビーのような赤を見つめれば唇が重なって、下唇が柔く食まれる。促されるように薄く口を開けば舌先が咥内に滑り込んで舌が絡み、粘着質な水音とリップ音が静かな部屋に響いて、きゅうと目を細めるとやっぱり勝己は笑った。
「勝己って普段乱暴なのに。」
「ンだと、テメェコラ。」
「キスも、セックスも優しくて、変なの。」
拗ねたような声が出て、今のはどうなんだと我に帰る。勝己は特に気にしてないのか、それとも何かを考えているのか何も言わない。普段…は、家以外のことであって私に対しては結構穏やか……とは言っても比較すれば、というだけだが。でも友達と居る時の勝己に比べたらやっぱ穏やかというか、優しい気もする。口は悪いけど。なんて考え事をしていたら勝己の掌が頬から滑り、首から肩を指先で撫で下ろして擽ったくて身を捩る。
「最中に、随分余裕だなァ?」
「ぁ…んん、だって、」
「だってもクソもあるかよ。俺ぁまだイってねェぞ。」
「……落ち着くの待っててくれたんでしょ。やっぱ、やさし…ッひ、あ、ちょっと…!」
ずり、と胎に埋まった性器が僅かに引き抜かれたかと思えばまた根元まで埋める。ゆっくりと、焦らすような動きに喉を震わせることしか出来ず、大きな背中に両腕を回した。晒された素肌同士が密着し、柔い肌が形を変えるのが落ち着くんだか、落ち着かないんだか。肌を重ねるようなったのはここ最近だというのに。まあ、触れ合うくらいはしていたけれども。性行為への興味が尽きないであろう年齢の時から責任が取れるわけでもないと言い切ったのは勝己で、だから私たちは互いの家族に紹介した後でも最後まではしなかった。こんなに気持ちいいのかと、今では思う。単に刺激としてではなく、勝己の手が、肌が触れるというだけで心地良さにも似た気持ち良さがあるのだ。勝利を掴むその手が、まるで壊れ物に触れるかのように撫でるその甘美さは私だけが知っていればいい。彼の優しさも格好良さも、本当は私だけ知っていたいなんて思うけれど。
「かつき、ね…なまえ、」
「ア?」
「なまえ、呼んで…?」
「……火花。」
動くぞ、と続く言葉に頷きで返して存外柔らかい髪に指を通したのを合図に勝己がゆるゆると動き始めて私の漏れる声が絶え間なくなる頃には大きく揺さぶられる。ぽたりと落ちた汗が肌に乗ったと思えば曲線を辿るようにシーツへと向かうのを勿体無いだなんて思って。でもそんな考え事なんてしてる暇も余裕もない。知り尽くされた善い場所を擦り、押し潰し、絡め取られる。そうして抗うことなく、また沈む。
「ンで?優しかったかよ。」
「…またそうやって意地悪言う。」
「ハッ、わけわからんこと言うからだわ。」
「もー、このいじめっ子め。」
私とて立派な現役ヒーローではあるがタフさが売りの勝己の体力には追いつける筈もなく、ぐったりと脱力する。男女差もあるけど、それにしたって勝己の普段の運動量を考えたらそこら辺の男も着いていけないだろう。濡らしたタオルで簡素に後処理を済ませコンドームをティッシュで包んでからゴミ箱に放り込みベッドに寝転んだ勝己に擦り寄ると抵抗も嫌がることもなくそのまま腰を抱き寄せてくれて掌は変わらず私に触れたまま。ジッと視線を送れば欠伸を零しながらも私の方へと体ごと向いて気が付いたら腕枕されている。顎へと唇を押し付けたら額へと口付けられて、どこが優しくないんだと思う。セックスが終わったら男の人って賢者タイムで構ってくれないんじゃないのか。爪先で脛を突いたら勝己の膝が私の脚の間へと押し込まれて密着度は増した。ベタベタ引っ付くの嫌かなとか思っていた時期が私にもあったのだが、杞憂だったなぁ。
「大爆殺神ダイナマイトって怖いんだって。」
「アァ?モブが何言おうとどうでもいいわ。」
「私、勝己のこと怖いなんて思ったことないのに不思議だよね。いやまあ、口は悪いけど。」
「どーでもいい。」
興味がない、と切り捨ててその言葉に嘘などないように大きく欠伸を零すから思わず苦く笑った。ヒーローも人気商売みたいなとこあるのに。でもなぁ、百人に好かれるか百人の敵を検挙するかなら後者を選ぶこと間違いなしの恋人だ。勝己の代はみな異常なくらい現場慣れしていて優秀だが、その中でもやはり頭ひとつ飛び抜けてそうなほどの敵検挙数を挙げるのだから、末恐ろしい。あの黄金世代で抜きん出る程の実力…なんで仮免落ちたんだ。口が悪いからか。とはいえジーニストのように矯正する気は私にはない、勝己が勝己らしく生きている方がいいもの。口は悪いし幼馴染にはすぐ手が出るけど、でも私はそんな勝己も好きだ。左手を伸ばして勝己の頬を包み親指の腹で輪郭を撫でると真っ直ぐ、赤い瞳が私を捉える。指を滑らせ目尻へと触れるが、その瞳は真意を問うだけ。好きにさせてくれるみたい。
「ンだよ。」
「好きだなぁって思っただけ。」
「意味わかんね。」
「いつも、真っ直ぐ前を睨みつけるでしょ?あの目がね、凄く好き。」
「はぁ?なにをわけのわからんことを…、」
ちゅ、と軽い音が勝己の言葉を止める。目尻に落とした口付けに勝己が反射的に目を閉じたのをいいことに瞼にも口付ける。大きく溜息を零した勝己に怒らせたかなと思ったけど、怒声が響くことはなく、寧ろ思い切り抱き寄せられて私が間抜けな声を出すハメになった。こつりと額同士が合わさって鼻先が触れると睫毛が触れそうなほど詰められた距離に息を呑む。細く息を吐き出すとその呼吸を飲み込むみたいに唇が重なって何度も触れるだけの口付けが与えられる。胸板に潰された双丘が形を変えて隙間を埋めるのがなんとなく気恥ずかしい。必死に意識を逸らそうとなにか、と記憶を辿ればふと思い出す。
「この間、デクとショートと現場被ったよ。」
「おいそのクソみてェなメンツのクソみてェな話をこのタイミングでするな。」
「勝己がバンドした時のこと思い出してちょっと懐かしくて…?」
勝己が文化祭でドラムを叩くと聞いて、親友と共に雄英文化祭に行ったことがある。去年まで通っていた母校だ、特に問題はないだろうし久々に恋人に会いたくなったし。親友は夫を探して終始落ち着きがなかったが、いつものことなので腕だけ掴んで放置していた。担任なら後ろで見てるんじゃない?と半ば丸め込むように恋人の出し物を見に行き、元担任兼彼女の夫に親友を丸投げしてステージを見た。相変わらず派手だなー、器用だなーとか思いながらドラムを叩く恋人を見つめる。私たちの代ならこんなことしなかっただろうな、素敵だなぁとか何とか。そしたら必然的に恋人の顔を見て話したくなって後片付け中であろう恋人の元へと向かった。あ、あの子ボーカルしてた子だ。下手に警戒もされたくないなと少し離れたところから小さな背中に声を掛ける。
「あの、勝己居ます?」
「へ!?」
「?…爆豪勝己です。さっき同じ演目出てたしクラスメイト…だよね?」
「えっ、あ…なんで、爆豪?」
「恋人なので…?」
次の瞬間、物凄く囲まれた。ピンク色の肌の…アシドちゃん?に両肩を掴まれてカミナリくん?に詰め寄られる。あと服だけの子、ハガクレちゃん?だったかな。体育祭で見たことあるなぁくらいの子達なのでちょっと名前が不安だ。爆豪!?あの爆豪!?とそこかしこから言われて恋人の普段の素行がちょっと心配になった。少し遠くの方でわたわたしてるのが…キリシマくんとデクくんかな。確かキリシマくんは話にもよく出てくるし勝己と仲良くしてくれてたはずだ、居場所を聞きたい。無理に抜け出して怪我をさせるのも憚れるので軽く手を上げて声を張ることにした。
「えっと、キリシマくん?勝己どこいるか、」
「なにしとンじゃ、テメェは。」
「あ、勝己。」
ぐ、と後ろから引き寄せられる。聞き慣れた声に安堵してほっと息を吐き出してお腹に回された手に掌を重ねると勝己のクラスメイトが叫んだ、耳痛い。
「本当に爆豪の彼女!?付き合って三年目の!?」
「嘘だろ!?」
「かっちゃんの恋人ってプロヒーローの爆心地だったんだ、付き合ってる人が居るのは知ってたけど誰かまでは知らなかった…そうか個性も爆発系だし、爆心地は駆け出しながらも親しみやすさから支持率は高い、強個性故に使いこなすまでは大変だったってインタビューで話してたのも聞いたことあるしそう考えたらかっちゃんとは確かに相性はいいかも…そういえばヒーロー名は恋人に考えてもらったって言ってたような」
「おい、ブツブツうっせェぞこのクソナード!」
「爆豪!マジで彼女なん!?」
「てめェもうるせェわ、アホ面!文句あンのか!?」
……心配だ。恋人の素行も大変心配になるが元担任の心労もとても心配だ。いや、イレイザーなら問題ないんだろうけども。思わず頭を抱えそうになるがなんとか堪えてちらりと後ろに視線を送る。ちょっと顔が見たかっただけなのにこんなことになるとは思わなかった、嫌な思いさせたかも。この様子じゃ恋人がいるのは周知の事実でも本人登場は望んでなかったんだろうし。顔は見れたからもうこの場から離れた方が良いかもなぁと重ねた手を離そうとすれば今度はしっかりと腕を回されて体が隙間なく密着した。
「俺ンだわ。」
「きゃー!電気キュンキュンしちゃうっ!」
「爆豪お前めっちゃ彼女好きじゃん!」
「流石爆豪!漢らしいぜ!」
クラスメイトがめちゃくちゃはしゃいでるけど勝己は全く気にしてないのか散れと短く告げてからは全スルーである。周りが騒ぐから耳元に唇が寄せられてちょっとぞくっとしたのはヒミツ。
「……一人で来たンか。」
「一応多田羅と来たよ。」
「ソレもう解散済みじゃねェか。」
「解散じゃないよ、多分帰りに合流するもん。」
「はぁ…片付け終わるまでそこら辺で待ってろ。オラ、これ持っとけ。」
「はーい。」
勝己のブレザーが肩に掛けられて、待機を言い渡された。ほんの少し話せればそれでよかったんだけど、構ってくれるみたい。友達と回っていいのに、と思うがやっぱり一緒に居られるのが嬉しくてその言葉は飲み込んだ。結局勝己が迎えに来るまで勝己とのことを聞かれたりしたのだけれど、多分みんなの方が勝己に詳しい気がする。恋バナだと騒ぐ姿に、高校生って若いなぁなんて、そんなことを思いながら未来のヒーローたちと言葉を交わした。
そんな思い出を振り返っていれば拗ねたように唇を尖らせ眉根に皺を寄せた勝己と目が合って、慌てて頬を撫で眉間に唇を押し当てる。事後に他の男の話をするだけでもアウトなのに他の人のことを思い出してぼんやりするのは完全にデリカシーがなかった。
「ごめんって、勝己。ゆるして。」
「別に。」
「嬉しかったんだよ、あの時に勝己が私のこと彼女って言ってくれてたの知ったから。…だから、どうしても思い出しちゃう。」
「責めてねェわ。あやすのヤメロ。」
「勝己ぃ…。」
「……ガキかよ。」
顔中に唇を押し当ててた私の後頭部が掌で覆われて唇が重なる。柔く触れてはリップ音を響かせ、ころんと転がされて手首をシーツに縫い止められると口付けが深くなって熱いくらいの舌が上顎を擽ぐる。背中がゾクゾクして口付けの合間に吐息を零し、混ざった唾液を嚥下すると勝己は満足そうに双眸を細めて濡れた唇を舌で拭う。
「かつき、」
「…なンつー顔してンだ。」
「明日、午後から?」
「おー。」
「もっかい、シよ。」
惚けたまま、勝己の腰へと太腿を擦り寄せて強請るように何度も素肌に唇を押し付ける。愛されているのだ、どうしようもなく愛しているのだ。今はこの体温に包まれて愛されていたいと、それだけ。勝己は少しだけ目を丸めたけれどすぐに鼻で笑って、そのままするりと服裾から手を差し込んだ。大好きな、勝つための掌。
「あいしてる、」
溢れた言葉を皮切りに、シーツへと沈んだ。