志、折れぬ為に。



知り合って15年、付き合って3年。地味だとかしょうゆ顔とか、周りの印象はそんな感じだけど私にとってはたった一人のヒーロー。みんなのセロファン、でも私だけの瀬呂。私がヒーローを目指す為の理由で恋人である男。

私達は所謂幼馴染ってやつで、両親共に仲が良かったから幼い頃からいつでもどこでも一緒だった。産まれて数日ばかりの差ではあったが瀬呂の事は兄のように思って居たし、お互いが足りない所を補うかのように過ごして居た。

3歳になったある日、私の個性が発現したのも瀬呂と一緒に遊んでいた時で今思えば怪我をさせなくて良かったと心の底から思う。まだ幼い体で今ほど電力が無かったとしてもあの頃だと加減なんてものが出来ないから大怪我をさせてしまっていた可能性がある。その証拠に、小さな爆発を起こした私の掌は柔らかな皮膚を簡単に焼いた。その日は瀬呂が慌てて私を背負って家へと戻った。泣かなくて偉いね、なんてお母さんは言ったけれど本当は痛くて痛くて泣きたかったんだ。けど、瀬呂に涙を見せちゃいけないって必死に堪えて居ただけ。何度も何度も爆発を繰り返す内に掌は火傷すら残らなくなって、胸を撫で下ろした。調節を覚えてしまえばなんてことない。


瀬呂と変わらず過ごしている内に友達とは違う感覚を覚えて、でも家族だからって言い聞かせていた。でも中学に上がって瀬呂が先輩に告白されてるのを見た瞬間、嫌な気持ちになって、私はその日に初めて個性の制御が効かなくなった。プラスもマイナスも分からなくて、ただどうしようもなくて一人で中庭に座り込んで他の人を巻き込まないように必死で。でも溢れた涙は止まらなくて足元に水玉模様を作り続ける。ぱちぱち、ぱちぱち。止まって欲しい涙も電流も言うことを聞かなくてただ溢れ、溢れるままに流していると遠くから聞き慣れた声が聞こえた。

「通!」

だめだよ、危ないよ。来ちゃだめ。どんなに思っても瀬呂はどんどん距離を詰めて来て、唇を噛み締める。嬉しい筈なのに、さっきの光景が頭にこびりついて離れない。さらさらの黒髪が似合うさっきの先輩は背が高く、とても綺麗な人だった。瀬呂の隣に並んできっと似合うだろう。バチン、と掌から音がして強い電流なんだと分かったけれどどうしようもなくて爪が食い込む程に手を握りこんで息を吸い込み、大きく声を張り上げた。

「来ないでよ!こっち来ないで!」

危ないから、怪我させてしまうから。なにより、きっと今は君の顔をちゃんと見ることなんて出来ない。自分が嫌いだって、醜いんだって、そんな私が君の隣に並ぶ資格なんてないんだって痛い程分かってる。それでもそれ以上に君を他の人に渡したくなんかなくて…でも、そんなの君は望んでいないから。だったら、他の人と幸せになるのなら、私が怪我なんてさせてはいけない。制御が効かなくて強い電流が流れ続けた掌が痛くて仕方ないのに胸の奥の方がずっとずっと痛いんだ。お願い、こっちに来ないで。これ以上痛くなったら私は耐えることなんて出来ない。


「通、大丈夫。大丈夫だから。」
「っ!なにが、何が大丈夫なの!?私今個性コントロール出来てないんだよ!?」
「大丈夫。」

一歩、また一歩瀬呂が足を進める。詰められる距離をまた離したいのに個性が暴走したせいか座ってるだけで精一杯で動く事が出来ない。目の前に来た瀬呂はいつもみたいに笑ってしゃがみ込むと私と目線を合わせる。涙のせいでぼやける視界で見上げれば瀬呂の長い腕が私の背に回されて抱き締められた。え、と漏れた声を掻き消すようにまた瀬呂が大丈夫、と言った。だらん、と腕が落ちて電流がどんどん弱くなって、やがて掌の痛みを残して消える。

「な?大丈夫だったろ?…痛かったよな。」

瀬呂が一旦離れて私の掌を包む。さっきまでの暴走を思い出して手を引こうとしたけれどそれは叶わなくて結局私の手は瀬呂に包まれたまま。ズキズキと痛む掌が瀬呂の少し冷たい手に触れて少しだけ痛みを忘れさせてくれる。痛かった、痛かったよ。瀬呂が居なくなるって考えたら壊れちゃいそうなくらい胸が痛かった。掌の痛みなんてなくなっちゃうくらい痛くて、どうにかなりそうで、助けてって思ったけど助けてくれる人なんて居ないって思ってて…嗚呼、なんて酷い男なんだろう。この手をいつかは離すのに、どうしてこんなに優しいんだろう。止まりかけた涙がまた溢れて来る。いつか離れてしまうのならいっそのこと放っておいて欲しかった。これ以上君に迷惑を掛けたくないのに、どうして。

「暴走して、でも他の人巻き込まないようにってこんなとこに一人で来たんだろ?爆発させないようにって、他の人に怪我させないようにってずっと両手離してたんだよな。痛かったよな、怖かったよな。一人にしてごめん。」
「瀬呂は、悪くない…私が、私が勝手に混乱して、個性制御出来なくなって…みんなに、瀬呂に…迷惑、かけた。」
「何言ってんだよ。俺ら幼馴染だろ?迷惑なんて思わないって。」

幼馴染、その一言にまたズキズキと胸が痛み出す。もういいかな。どうせこの関係に満足なんて出来はしない。どうせ高校は別の所に行くんだし今から三年間同じクラスだなんて限らない。家族ぐるみの付き合いって言ったって年頃の男女なんだから少しくらい疎遠になった所で誰かに責められる事なんてない。瀬呂に恋人が出来たんなら私と離れた事だってクラスメイトたちは不思議に思わないだろう。だったら、もう、この気持ちを手放してしまおうか。きっと少しの間はぽっかりと空いた胸の隙間に耐えられないだろうけど、きっと幸せそうな瀬呂を見ていれば薄れて幸せを心の底から願えるようになるだろう。辛くなったのなら離れてしまえばいい。

「私、範太が好き。」
「は?」

嗚呼、この呼び方するのいつぶりだろう?頭の中は何故かスッキリしていて、ただ瀬呂が好きだと、それだけだ。溢れた涙は卑怯かもしれないけれど止まらないんだから仕方ない、許して貰うしかない。せめてもと何とか笑顔を作って瀬呂を見る。

「好きだよ、ずっと。ちっちゃい頃から、ずっと範太が好き。大好き。」

瀬呂は目を丸くして、固まっていた。ごめんね。いきなりでビックリしたよね。でもちゃんと思い出にする為で返事は要らないから、そう言おうとした瞬間、また瀬呂に抱き締められてこっちが驚く番だった。期待なんてさせないで欲しいのにな、なんて思ってたら耳元で馬鹿、と聞こえて聞き返そうとしたら大きな溜息を吐き出して瀬呂の手が私の背中を撫でた。

「俺だって好きですけど?」
「…あの、私が好きって言ってるの、幼馴染としてじゃなくて…、」
「俺もそうだよ。通とこうやってしたいし、キスしたいし、それ以上の事もしたい。通以外をそんな対象に見たことないよ。」

嘘だ、って思ったのは束の間で制服越しの瀬呂の心臓は爆発しそうなくらい早打ちしていて嘘じゃないって教えてくれる。目の前にある瀬呂の耳は真っ赤で、同じなんだって分かって、顔に熱が集まるのが自覚するには十分だった。恐る恐る背に手を回せばあまりのぎこちなさに笑われて、むくれたら瀬呂の唇が頬に触れる。

「好きだ。俺と付き合ってくれる?」
「つ、きあう…、」
「じゃあ、お前今日から俺の彼女ね。」

ぽんぽん、あやす様に背を撫でられてまた滲んだ涙はさっきとは違うやつで。ぐっと涙を飲み込んで思い切りその胸の中へと飛び込んだ。掌はもう痛くない。




「なー、お前どこの高校行く?」
「瀬呂は?」
「雄英受けるつもり。」

あれから月日が経って、私たちはもう三年生になっていた。因みにあの後、先生にはこっ酷く怒られたしお母さんを泣かせる結果にはなったし、強個性だって先輩やら同級生やらには目を付けられて大変だったけど…瀬呂のフォローのお陰で何とか問題児にはならずに済んだ。元々、人付き合いは得意だし、荒波立てる事もなく無事進路希望という壁にぶち当たっている。雄英…偏差値は高いしトップレベル中のトップレベル。正直私の頭で受かるかどうかなんて分からないけれど…でも、それでも。

「じゃあ、私も雄英受ける。」
「はあ?面倒くさがるなって。」
「面倒くさがるならもっとレベル低い所行くよ。」

確かに…と考え込む瀬呂を頬杖つきながら見つめる。そしてへら、と笑う。

「私が個性の暴走起こしたら瀬呂しか止められないんだから離れたら危ないでしょ?それに…私の個性、どこまで通じるのか試したいって思っちゃったんだもーん。」
「お前なあ…。」

それにね?この個性ならきっと、瀬呂の役に立てる。私の個性は派手で、そして戦闘向きだ。瀬呂も決して弱くないし、プロヒーローとしてきっと一人でも上手く熟すんだろう。それでも、派手な個性の私が傍に居れば矛にも囮にもなれる。そして瀬呂のサポートを出来る。掌を見つめて少しそこに意識を向ければぱち、と電流が走る。両手を合わせれば小さな爆発が起きた。に、と口に弧を描く。

「私の個性は強いよ。もう足手纏いにならない。さっきはああいったけど、暴走させる事なんてもうしない。私の個性は瀬呂を生かす為に事に使って、他の人を巻き込む戦い方をするつもりはない。だから…同じ所に行きたい。もっと上手く使えるようになって、瀬呂と一緒にプロヒーローになりたい。…だめ?」

瀬呂はあー、とか言いながら頭を乱暴にかき混ぜた。優しい彼の事だ。反対しないのなんてわかってる。だからこのやり取りに意味なんて無い。それでも、伝えておきたいと思った。君の隣に在るのはいつだって私なのだ、と。ぽっと出のヤツに瀬呂の隣なんて譲る気はない。それが例え仕事でも、プライベートでも。瀬呂はいつかと同じように大きく溜息を吐き出して、笑った。

「雄英、偏差値高いぞ?」
「勉強一緒にしてね。」

「個性使い過ぎると手痛くなるんじゃねえの?」
「上手く調整できるようになる為に学びに行くんでしょ。」

「俺だけ落ちたらどうすんの?」
「雄英蹴って瀬呂と同じとこ行く。」

「…着いてきてくれんの?」
「今更手離してなんてあげないよ。」


瀬呂は笑って、そうして私を抱き締めた。大きな体に私の体はすっぽりと覆われてしまう。けれどなんだか可笑しくて、笑ってしまった。もう15年も傍に居て、付き合って2年経って、やっと君が手に入ったような気がした。将来すらも手に入ったみたいな、そんな感じ。変だね、ずっと一緒に居たのに。


「ありがとな。」
「これからも宜しくね、範太。」



私は足引通。個性は±。幼馴染で恋人の瀬呂範太のサポートがしたくてプロヒーローを目指しています。個性は所謂強個性ってやつで、攻撃特化の派手な個性です。それでも、私はこの個性を人を守る為に使いたいと思っています。いつかその日を迎える為に雄英高校に通って居ます。例えばこの先、どんな強力な個性を持つ敵と出逢ったとしても、負けたくないと、守りたいと思うのです。私は矛にも囮にもなれます。だからこそ、愛する人の、範太の盾になりたいと思うのです。これが私のオリジン。ヒーローぷらまいの、ヒーローを志す理由です。



タルト有馬す。