君の愛で溺れたい
※性描写有り
ふわふわする。呆けたまま、あちらこちらと散らばる意識をなんとか留めようとするけれど脱力し切った体では上手く身動ぎも出来ずに、結局か細い声だけが漏れた。そこら辺の男と比べても一回りは大きい手が腰を掴んだまま思い出したかのように揺すり、ネイビーのシーツを握り締めて皺を寄せると頭上から小さく笑う声が聞こえて。のろのろと視線を動かせば黒で阻まれることの無い、宝石みたいな水色とかち合う。
「……いま、トんで…た?」
「少しだけね。」
お腹の奥に収まった熱の塊の存在感は強く、焼き切れそうだとすら思うのに目の前の男は上機嫌に笑うばかりで終わりにもしてくれないし、手繰り寄せてもくれない。彷徨うだけの私すら、彼の機嫌を良くする材料になり得るらしい。おいで、と掠れた声が降ってきて、両手を徐に伸ばせば首へと促される。肘を曲げて首へと腕を絡みつかせると悟さんの手が腰と後頭部に添えられて繋がったまま膝の上へと乗せられ、深くまで押し込まれ、あ、と声を出せば背を支える手が宥めるみたいに撫でるから詰めた息を吐き出す。萎える事もなく収まったままのソレは動く事もなく、馴染ませるようだ。何度かに分けて呼吸を繰り返せば先程までの靄が晴れて漸く正しく輪郭を捉える。
「動いて、いいよ。」
「んー、まだ。」
さっきまで好き勝手にしてた癖に、なんて言葉は飲み込んで汗が滲む素肌を合わせると少しだけいつもより早い心音が伝わってきて擽ったい。べたついて不快に感じても可笑しくない筈なのに、触れる肌が心地好くて熱を含んだ息を吐く。戯れるように唇が顔中に落とされるのは好きだけど、今は汗ばんでいるからちょっとやだ。今更お互いの体液を気にしたりしないけど。衛生概念が可笑しくなっているのか、それとも相手がこの男だからなのか。意識を取り戻したとしても、それでもまだ熱を孕んだ体では正しい判断には期待出来そうにない。少しだけ皺を寄せた眉間から鼻先を間に挟んで唇同士が重なれば薄く口を開いて我が物顔で入り込んで来た舌先を受け入れるとぬるついていて、熱い。少しばかり長い舌が咥内を荒らすのを甘受しながら脚を腰に絡めておく。腰細いなぁ、なんて思うけれど口にすると機嫌を損ねそうなので思うだけに留めて。
「動くね。」
口付けの合間、吐息と共に吐き出された言葉に頷きで返し、突き上げられる衝撃に備えて爪先を丸める。ゆっくりと探るような、そんな動き。また意識が散らばりそうで、なんとか留めようと唇を噛めばそれすらも咎めるみたいに噛み付くように口付けられた。もう、どうしたらいいんだ、なんて八つ当たりしたくなって滑り込んできた舌に甘く噛み付く。悟さんは驚いたのか少しだけその長い睫毛を揺らしたけれどすぐに意地悪く双眸を細める。
「こぉら、」
唇が触れる距離感で甘さを含んだ言葉が吐息と共に漏れる。その声は、落ち着かないから嫌だ。かぷ、と目の前の下唇を甘く歯で挟むけど悟さんは楽しそうで抗議としては成立していない気がする。
「はや、く、」
「えっち。」
揶揄うみたいに笑って、思い切り奥を抉られた。喉が引き攣って悲鳴みたいな声が出たけれど悟さんは気にせず、何度も奥を狙って突き上げてくるからひっきりなしに声が出る。濡れた熱が何度も擦るのが、きもちいい。大きな背中にしがみ付くと悟さんの手が私の後頭部を捕らえて肩へと促される。目の前の肩に噛み付くと低く笑う声が聞こえて、またその声にぞくぞくした。
「ン、ぅ…ッは、あ、ッんン、」
「かわいい。」
「っわ、いく、な、ッあ!」
喋ってる最中なのにざらついた場所を狙って擦り上げられてしまって、どうにも言葉になりきらない。また頭がぼんやりし始めるからなんとか意識を繋ぎ止めたくて真っ白な肌に顔を押し付ける。狙ってる、と思う。こんな抵抗は無意味で、悟さんが抵抗を許しているから完全に意識を手放さずに済んでいるだけ。それはこれまでも、さっき経験してるから分かってる、けど。
「さ、とる、さ、っあ、ァ、」
「なぁに、喜雨。」
ぐちゃぐちゃにするのは目の前の男なのに、縋ってしまう。助けて、と含ませた言葉を汲み取っているのか否か。悟さんは笑うだけだ。指の腹が肌を撫でる感覚すら刺激として拾って、甘えるみたいに締め付ける。恥ずかしい。私ばっかり、余裕がない。年の功なのだと言われてしまえばそれまでだけど、…あ、経験人数もあるのか。そこまで思い至ると与えられる快感で白く濁った思考回路が鮮明になってきた。じわりと滲んだ涙が何から来るのかわからない。
「…たし、っや、」
「なにがや?教えて?」
「ほかのこ、みたいに、しないで、」
甘やかすみたいな声音だった。でもぴたりと動きが止まって、酸欠になった体の悲鳴のままに荒い呼吸のまま必死に酸素を取り込んでいるとぐるりと視点が回って、またベッドへと押し付けられる。さっきまで縋っていた体が遠くなったことに不安が胸を占め、見上げれば先程の言葉は失言だったと息を飲む。冷たい、目。私の事をそんな風に見た事ないのに。
「さ、」
「どういう事?」
真剣な顔。セックスしてる時の顔じゃないって、この人しか経験がない私でも分かる。失言だったのは理解出来るけどそんなに怒らなくても良いじゃないか、と思う。頭に血が上って、言葉が纏まらない。
「私ばっかり、余裕なくて、…さとるさん、は、他の子と経験あるから、っ、だか、ら、」
さっきの涙なんて嘘だってくらい涙が込み上げる。一度口にしてしまえばもうそうだとしか思えないし、悟さんが今まで経験した全てが嫌だと思う。私だって一つくらい、余裕のない彼が欲しかった。好きって言葉だって、キスだって、セックスだって、きっと本気の恋だって、この人はもう経験済みで。情けない、面倒くさい。自分でも分かっているのに。
「私も、欲しかった、」
悟さんの顔が見えない。面倒くさいって呆れてるのか、それとも他の子を思い出しているのか。比べないで、なんて我儘がまた浮かんで来る。
「喜雨、」
「ッめ、んなさ、」
「お前は、ほんと、」
深い溜息の後に名前を呼ばれて大きく肩を弾ませてしまうが、それと同時に目尻に何か触れる。多分、涙を拭ってくれた親指。晴れた視界に呆れた顔を写したくなくて、顔を逸らそうとしたけど許されなかった。怖くて仕方ないのに、それでもなんとか勇気を振り絞って顔を見たら、見たことないくらい、優しい顔をしていて。驚いて涙が引っ込んだ。
「落ち着いた?」
「……ん、」
「ヤキモチ、初めてじゃない?」
「だって、悟さんいつも、」
「僕に愛されてる自覚があるからヤキモチしないのかと思ってたけど、考えたことなかっただけか。」
物凄く冷静に分析されて居た堪れない。でも、私が悪いのは分かっているから口を噤む。悟さんの唇が目尻に触れて、そのまま何度も合わせるだけの口付けを交わす。頬を包む掌も、厚くて柔らかい唇と触れ合うのも気持ちいい。ちゅ、と最後に音を立てて離れた唇に胸が締め付けられそうになるけれど寂しいと思う前に悟さんの声が私の意識を奪う。
「自覚出来ないなら今よりもぉっと、凄いことするよ?」
「わたしだけ、の、やつ?」
「そこ拘るんだ。…うーん、そうだね。他の子にしたことないこと、するよ。」
「じゃあ、して、」
重症だね、と言ってるみたいな顔。でも仕方ないじゃないか、それが欲しいと思ってしまったんだもの。私の言いたい事が伝わったのか、悟さんの指の腹が肌を滑る。向かう先は何故か私のお腹。なんだろう、凄いことに必要なのかな。下腹部の辺りで悟さんの指が止まって首を傾げる私に悟さんは笑った。
「わかる?僕が萎えてないの。」
「……あ。」
「自分の恋人がセックスの最中に他の人間を出したのに萎えてないの、何でだと思う?」
「なか、入ったまま、だから?」
「違うよ。」
下腹部に触れていた指先が滑って、腰を掴む。あ、と声が漏れる前にずるりと悟さんの性器が引き抜かれ始めて、それを止める前に、抜く時よりも時間を掛けてナカを割り開いていく。
「ッあ、まって、わかんなく、なっちゃ、ッン!」
「可愛いって思ってる、凄く。」
「や、さとるさ、…ッま、って、」
「なにそのヤキモチ、可愛すぎるでしょ。普段僕が何してても気にする素振りの一つも見せないのに、さ。」
まって、と何度も言うけど嬌声の方が多くなってしまう。ゆっくりと繰り返していた筈の抽送がどんどん早くなって、激しさを増す。揺さぶられるまま首を振ったけど止まってくれない。
「あーもお、可愛い、僕の彼女可愛すぎる。初めてのヤキモチ嬉しいしさぁ。」
「ひ、ぅ〜、ッあ、ぁう、ンく、」
「愛されてる自覚あるから僕の愛情表現止めてるのかと思ってたけど慣れてなくて恥ずかしいからだったんだ。甘え下手だとは思ってたけど愛される事自体に慣れてないとは…嗚呼、でも僕のは割と受け取ってるか。僕からの愛は受け取って当然ってなってるのか?え、なにそれ。可愛すぎるでしょ、僕の彼女可愛い。」
「っも、やぁ!さとるさ、っ」
「可愛い、好き、あー、愛しい。何この子、すっごい好き。」
イイトコばかり攻めてくるのもだけど、与えられる言葉にも思考が溶けていく。好きだとか愛してるとか、可愛いだとか、そんなことばかり言うから恥ずかしいしむず痒い。でもそれ以上に嬉しくて、どうしたら良いかわからない。
「可愛い可愛い、僕の喜雨。こんなに愛してるの後にも先にも君だけだよ。」
「さと、る、さ、」
「ねえ、喜雨は?僕のこと好き?」
きらきらの瞳に見つめられて心臓がぎゅうと締め付けられる。込み上げてくる感情のまま、うわ言のように好きだと繰り返すけれど悟さんは何度も聞いてくる。まともな事を考えられないのに、求められている言葉が分からない。なんて言ったら許して貰える?悟さんはなんて言ってた?
「あ、」
「うん?」
「あいし、て、っる、」
「うん、僕の方がずっと愛してるけどね。」
許すみたいに額に口付けられて、じわじわと胸の奥が熱くなる。愛してる、だなんて、そんな。恥ずかしい、逃げたい、でも、その言葉が妙にしっくり来てしまって。
「好きじゃ足りない。愛してるでも、まだ足りない。」
「んっ、ん、んんん〜ッ」
「こんな
俺を見て、まだ余裕だって思う?」
「ッ、さとる、さ、」
なあに、と甘やかな声。いつも余裕がなくて見れていなかったけどその瞳は熱を持て余し、体だっていつもよりずっとずっと熱かった。それに気が付いてしまったらもう、ダメだった。お腹の奥が熱くて、きっと意識してないのにぎゅうぎゅう悟さんを締め付けてる。
「もっと、ちょうだい、」
あなたがくれる愛を、ひとつも零さずに欲しいと思ってしまった。そしてそれを自覚してしまったらもうダメだ。手を伸ばせば指を絡めて繋がれ、またネイビーの波へと沈む。
「起きた?」
「……んぅ、」
「かーわい。」
全身を襲う気怠さに目が覚めてからも上手く動けない。素肌のまま腕の中で目を覚ますのは、慣れない。いつもは終わってから二人でお風呂に入ってから寝るから。それでも体にべたつきは感じないから悟さんが拭いてくれたのかな。
「お風呂行く?一応拭いたけど…動けないようなら僕が連れてくよ。」
「へーき、…行かないで、」
「え、なに可愛いんだけど。」
とろとろとまだ微睡みの中に居るような感覚。体温が離れるのが嫌で首元へと顔を埋めると悟さんがぎゅうぎゅうと抱き締めてくれる。胸のとこが、あったかい。
「悟さん、」
「なあに?」
あいしてます、と、少し掠れた声で伝えたら物凄くねちっこいキスをされて。もう一回と強請ったら悟さんは嬉しそうに笑った。