魔法をかけてあげる。
ポラリスが奇病。
(皮膚が徐々に鱗に変わってゆく病気。
進行すると無気力になり、珊瑚が薬になる。)
(皮膚が徐々に鱗に変わってゆく病気。
進行すると無気力になり、珊瑚が薬になる。)
頬を撫でる熱が心地良く見知ったそれが幼馴染の掌である事を数秒掛けて理解した。その熱の心地良さで覚醒しかけていた意識がまた遠のきそうになるが何とか意識を繋ぎ止めて薄く唇を開き、酸素を取り入れる。瞼が上手いこと持ち上がらず意識はふわふわとしたままだ。
「ポラリス?起こしちゃった?」
聞き慣れた耳に馴染む年の割りには高い、幼馴染の声。何故起きた事が分かったのかは分からないけれど多分幼馴染だからだろう。
私が上手く反応出来ずに居るとコウが手を離そうとするから、何とか首から上を動かして頬を掌に擦り付けてそれを妨害する。…嗚呼、何度触れてもコウの熱はとても心地良い。それが何故かはわからないけど、多分、ずっと触れてきた熱だからだと思う。
薄っすらとした意識のまま薄く唇を開いて酸素を取り込みながら何とか音を発しようと試みるが上手く行かず幾つかの言葉は音になる事は無かった。
「………らいじょーぶ…。」
「呂律回ってないし。もう少し寝る?」
くすくすと笑うコウを見たいのに瞼はどうしても開かない。全身を蝕むこの気怠さはいつになっても慣れなくて、何だかもうただ呼吸するだけでも面倒だと思ってしまう。
「目がな、」
「うん?」
「開かないんだ…コウの顔が見たいんだがどうしても開かない…。」
何とか言葉になったそれを聞いたコウの私の頬を優しく撫でていた掌の動きが数秒停止した。何か不味い事を言ったか?なんてぼんやり考えるけど上手く考えが纏まらない。少し様子を見た方が良いのかと結論を出してそのまま無言で居る。だがコウがいつまでも無言のままだ。コウと居てこんなにも落ち着かない沈黙は初めてかもしれない。
「…コウ?」
「じゃあ、僕がポラリスに魔法をかけてあげるね。」
無音に耐え切れず名前を呼ぶとコウの手は再度優しく私の頬を撫でて楽しそうに言葉を発した。魔法?そんなものお前も私も信用していないじゃないか、と反論しようとして、でもコウの動く気配がしたから大人しくすることにした。なんだかんだ、この幼馴染が間違ったことを言ったことなんかないし、何と言っても動くのも動かすのも面倒で好きにさせてみようと思っただけなのだが。
それから程なくして、私の頬を撫でていた手がその動きを止めてそっと頬を包まれる。何をする気なんだろうかと考えているとちゅ、と可愛らしい音を立てて何かが瞼に触れた。触れたのはおそらく、唇。
「うわああああああああああ!」
がばりと勢い良く起き上がると、けたけたとコウが楽しそうに笑っていた。おいなにこっち見て笑ってるんだ、こっちは本当に驚いたんだからな。憎い顔しやがって、コイツこのやろう、絶対許さないんだからな。その顔で何時まで居るつもりだ、私は怒っているんだからな。
って、あれ?
「開いた…。」
「言ったでしょう?」
驚きの余りポカン、と間抜けな顔をして居る私にコウの顔が近付いて来てこつり、と額が合わさった。近い、アホ、離れろ。顔が熱い。そのまま髪を撫でられる。こっちはいっぱいいっぱいだから黙って好きにさせているとにこり、とコウが人懐こい笑顔を浮かべる。
「魔法をかけてあげるって。」
嗚呼…コイツは何時もこうなんだ。そんな風に頭の中で八つ当たりしていた。それでもどくん、と私の胸が音を立てた気がした。
僕が出来る唯一の魔法を、君に
/ きなこ