ポラリスが奇病。
魔法をかけてあげるのコウ視点





幼馴染兼恋人に奇病が蝕み始めどれくらいの月日が経っただろうか。カレンダーを見てもあまりピンと来なくなってきた。考えるだけ無駄だと、そんな事を考えるよりも彼女に出来ることをしようも決めたその時から数える事はやめた。


気力を無くし、眠る事の増えたポラリスの隣で珊瑚を砕く。流石にこのまま食べさせる訳にもいかないだろうとアオイちゃん達と離した結果、すり潰して粉状にしようと決まり、ポラリスの薬は僕に作らせてくれと頼んだ。ポラリスはこれが何だか分かって居ないみたいだけどきちんと服薬が出来た日が続けば彼女の肌を覆う鱗は幾分か剥がれ落ちるからなるべく毎日飲ませたいが気が付くのが遅れた所為か、はたまたポラリスの体質で病気が進行しやすい所為か分からないがポラリスが起きて居られる時間は極端に短くなっている。意識が覚醒したとて、必ず薬が飲める訳ではないし、病気が良くなっているのかどうかは僕達にはわからない。

ごり、と部屋に珊瑚を潰す音が響く。意外と大きい音を立ててしまいポラリスを起こしてしまったかと思ったがまだ夢の中に居るようだ。白い肌に纏わりつく鱗を全て剥がしてしまいたいと思ったのは一度や二度ではない。が、無理に剥がそうとすれば彼女に痛みを与えてしまう事を考えれば込み上げた思いを飲み込むしか術はなかった。


兎も角、薬の用意は出来た。昨日は起きられなかったしもしかしたら今日もダメかもしれない。でも希望を捨てる事は出来なくて毎日僕は珊瑚を砕き続けて居る。いっそ、なんて。許される筈もないけれど。

鱗のない柔らかな頬に触れればポラリスの瞼が小さく動いた。びっくりして少し動きが止まってしまったけれど誤魔化すように穏やかな声を心掛けて唇を開く。


「ポラリス?起こしちゃった?」

ポラリスは反応しようとしたいのか少し唇を開いたけれどその口から言葉は紡がれない。少し寝過ぎた所為かな。手を離そうとすれば頬が擦り寄せられて彼女が不快ではなかったのかと胸を撫で下ろした。

「……らいじょーぶ…。」
「呂律回ってないし。もう少し寝る?」

嗚呼、可愛いなあ…つい笑ってしまう。頬を撫でて思っても居ない事を問うてみる。もう眠らないで、その綺麗な青い目に僕を映してほしい。そんな事を思ってはいけないのだけれど願ってしまうのだ。きらきらしたあの目で僕を見て欲しいと。

「目がな、」
「うん?」
「開かないんだ…コウの顔が見たいんだがどうしても開かない…。」

ぴたりと、手を止めてしまう。僕の浅はかな思いを読み取られたのかもしれないという恐怖に似たそれと同時に胸を占めるのはポラリスが僕を見たいと、そう思ってくれた事への有り余る程の歓喜。思わず緩めた口元はポラリスからは見えないだろう。今だけは見られなくて良かったと、そんな事を考えた。

「コウ?」
「じゃあ、僕がポラリスに魔法をかけてあげるね。」


無言になった僕に不安になったであろう彼女に言葉を掛ければ表情には現れずとも不思議に思って居る事は伝わってきた。そうだよね、僕もポラリスも魔法なんて信じていない。そんなものがあるのなら僕は今すぐにでも君をその忌々しい病から解放するもの。大人しくしている彼女の頬を包み込み金色の縁取りが施された瞼へそっと口付けた。

確証なんて一つもない。ただ、僕がしたかっただけ。その目を開いてと、想いを込めて。


「うわああああああああああ!」

唇を離してからたっぷり十秒。ポラリスが飛び起きた。真っ赤な顔で、その綺麗な目に薄く涙の膜を張って此方を睨むように見ている。嗚呼、やっと見てくれた。嬉しくて仕方ない。僕がしたことで起きてくれるだなんてまるで御伽噺みたいじゃないか。

「開いた…。」
「言ったでしょう?」

まだ困惑してるポラリスの丸い額に自分の額を合わせて指通りの良い金髪に指を通して頭を撫でる。ねえ、ポラリス。今君の頬が赤いのは僕の事を意識してくれてるからって思っていいかな?溢れた笑みをそのままに唇を開いた。

「魔法をかけてあげるって。」


ねえ、ポラリス。僕の口付けで起きてくれるなら君は眠り姫だって構わないよ。何度でも君に口付けて起こしてあげる。君の王子様にしてくれるなら僕は何だって出来るよ。だからこの口付けを魔法にさせて。君にしか効かない、僕しか使えない魔法だから。


魔法だと信じさせて。




/ きなこ