Daydream whith You
今日はとことん付いていない日だった、珍しくポラリスと別行動での任務だったし。珍しいなぁなんて思って任務をこなして本部に帰ったらポラリスの頬に大きな痣ができてたし。
聞いてみたらポラリスの任務で始末しなきゃいけない相手が霧属性だったらしく特攻しようとした先に固く大きな棘の付いた壁を構築されてそのままの勢いで顔からぶつかったらしい、任務が終わった直後は棘による切り傷と刺し傷のせいで出血が酷かったらしく頬の青痣はポラリスの晴れの炎で治した後に残ったものらしい。
そんな事も知らずに僕はのんびりといつもと違う任務をこなしていた…そんな僕に怒りが湧いてくる。
呆然とポラリスの頬に手を当てる僕にポラリスは呑気に笑って「気に入ってたシャツが汚れたからクリーニングに出さなきゃだな!」なんて言ってくる。
「ポラリス…あんたシャツが汚れたどころか盛大に穴空いてるだろうが!」
珍しく今日ポラリスと組んだヨハン君が衝撃的な事を言ってくる、シャツに、穴が空いた?
棘の付いた壁に勢いよくぶつかりシャツに大穴が空いたなんて考えられる状況なんて一つしかない。
そんな大きな棘がポラリスに刺さったとしか考えられない、痛かったろうにポラリスはなんで笑ってられるのだろうか。
僕だって戦っているうちに痛みすら楽しくなってくる時もあるけれど、ポラリスには痛みは痛みであってほしい。
痛みがたのしみになるなんて、命を削る大きな一因だ。そんな事が笑って過ごしてしまうなんて僕は嫌だ。
「コウ?どうした?どこが痛いのか?」
頬に手を当てたまま動かない僕を心配してかポラリスがそっと僕の目を覗き込む、晴れ渡った空のようなスカイブルーの目を曇らせる、その目に浮かぶ感情の色は心配を孕んだ優しい色。
「ううん、痛そうだなって…痛くない?」
「大丈夫だ、レイテッドの炎で沈静してもらうほど痛まないしほぼ治ってるしな!」
してもらうほど痛まないって事は少しは痛いんだ、痛みを感じているポラリスが可哀想でそっと頬を撫でるとくすぐったそうに身を捩り僕の手に擦り寄る。
しばらくそうしてポラリスの頬を撫でていると呆れてように僕達を見ていたヨハン君は一つ大きなため息を吐いて部屋を出て行ってしまった、きっと書類仕事が苦手で今日怪我をしたポラリスの代わりに書類を書いて提出してくれるんだろう。
それを見送っているとポラリスが僕の手から頬を話してにんまりと悪戯っ子のような笑みを浮かべる、こんな時はきっと何か提案をしてくる時だ
「それよりコウ、出かけないか?いい店を見つけたんだ!」
「まだちょっと早くないかな、でもいいお店って?」
時計を確認し、まだディナーには早すぎる時間だと思いポラリスに聞くと「ちょっとつくまで時間がかかるのと場所は秘密だ!」と言ってそのまま僕の手を引く。
こんな時はポラリスに任せて着いて行かなかったらちょっとだけ彼女は拗ねる、その時の顔も可愛いけれど今日は痛い思いもしたし慣れない僕以外との任務だったからポラリスに任せる。
手を引かれるままについて行くと本部の地下駐車場につく、車での移動かと思いポケットのキーをそっと触れるが向かう先は僕の車じゃなくて年に一度使うか使わないかの頻度しか使われないポラリスの愛車、メルセデスベンツGクラスG500。テノライトグレーの外装をポラリスは一目惚れしたらしく“どうせ乗らないでしょうが”と反対するアオイちゃんに強請り倒して駐車場の一角を使うことを勝ち取っていた車だ。
「今日は私がドライバーだ!」
「えぇっ!?僕が運転するよ?」
「私の車なんだ、私が運転する!」
そう言ってアオイちゃんやヨハン君曰く“走る化石”と呼ばれる車の運転席に乗ってしまう、仕方なく今日はポラリスに運転を任せて助手席に乗り込む。
車のエンジンがかかりお腹に響くエンジン音を感じながら発進する車に不安を少し覚えながらポラリスを眺める、もうしばらく運転してないけれど大丈夫かなぁ…?
イタリアの石畳の道を走るドイツ製の軍用車を元に作られた車を眺める歩行者が窓から見える、行動を走るオフロード車なんて珍しいんだろう。確かに僕もポラリスの車以外で走っているのを見たらついつい見てしまうかもしれない。
車内に流れるカーステレオから流れるLili Marleenに合わせたポラリスの鼻歌を聞いてるうちにうとうとと今日の任務の疲れが出てくる
「Unsere beide Schatten
Sah'n wie einer aus
Daß wir so lieb uns hatten…」
心地よいポラリスの歌声にそっと目を閉じるとカーソファに体が沈むように意識がそっと遠くなる
ーーーーー
父さんの知り合いに会いに行くとドイツ様式の大きなお屋敷に連れてかれ、父さんの知り合いらしい厳しい顔をした金髪のおじさんと父さんが楽しげに話しているのを眺めていたけれど退屈になり案内された部屋を抜け出す。
みんな揃いも揃って青虫でも口に放られたように厳しい顔をした肖像の飾られた廊下を歩いてるとある部屋から途切れ途切れのピアノの音が聞こえ重たい扉を少しだけ開き中を覗く。
部屋の中は赤いカーペットの敷かれ、真ん中に置かれた黒いグランドピアノとその目の前に置かれた椅子に座る腰まで届く長い蜂蜜色の髪をを背中に流し、飛び跳ねるように楽しげに流れる音をつまらなそうに弾いている女の子がいた。
その女の子があんまりにもつまらなそうにピアノを弾いているのが不思議で見ているとピアノの音が急に止まり女の子がこっちに振り返る。
「だれ?」
きょとんとこっちを見て口を開く女の子の綺麗な空色の目が今まで見たどんなガラスよりも綺麗に見えてぼんやりと見ていると女の子は椅子から降りて僕の方に歩いてくる。
真っ白なブラウスに水色のふんわりしたスカートがひらひらと女の子が歩くたびに揺れる。
「あなただれ?」
「えっと…」
「わたし、ポラリス。ポラリス・ヴルトミュラー。あなたは?」
「僕はコウ…コウ・アーネスト」
「コウ?」
名前を教えてくれた女の子、ポラリスがもう一度聞いてくるのにやっと僕は自分の名前を言えた。ちょっとだけ僕より背の低いポラリスが僕を見上げて首をかしげる。
「なんでここにいるの?」
「お父さんについて来たんだ…けどお父さんたちの話はつまらなくて…」
「そっか、じゃあわたしと遊ぼう?」
そういうとポラリスは僕の手を握りこっちと重い扉を大きく開いて廊下を進む。
「お庭にファティのぶかの人がブランコをつけてくれたんだ、行こう?」
「う、うん」
弟達とは違うポラリスの楽しげに歩く足音を聞きながら庭に向かう、庭に植えられた一番大きな木の枝にぶら下げられたブランコが目に入りポラリスが言っていたのはこれかとわかる。
「コウはブランコ好き?」
「うん、好きだよ。弟たちとよく公園であそぶんだ」
「弟がいるの?わたしも!でもまだ小さいからお外で遊べないの、ファティもムッティも弟につきっきりでわたしずっとならい事ばっかでお友だちがいないの」
ブランコに座り少しだけつまらなそうに言うポラリスがあまりに寂しそうで
「じゃあ、僕がお友だちじゃダメかな?」
「えっ?」
「僕がポラリスのお友だちになるよ、弟もいるしいろんな遊びかたしってるし僕がポラリスと遊ぶよ!」
「ほんとう?うれしい!」
はげますように僕が明るく言うとポラリスはパッと顔に笑顔を浮かべて抱きついてくる、それを受け止めた衝撃でそのまま尻もちをつくと僕の膝の上にのったポラリスが慌てたように謝ってくるのを笑って大丈夫だと伝えると、ポラリスはクスクスと笑い、その笑った顔に楽しくなり僕もクスクスと笑う。
立ち上がったポラリスは僕の周りをくるくると走る。
「お友だちなんてはじめて!コウ!あっちにわたしがうえたチューリップがもうすぐ咲きそうなの!一番最初に見せてあげる」
「あっちには子猫が来るの!だれにもナイショでミルクをあげてるんだけれどコウには教えてあげる!」
くるくると子犬みたいに僕の手を引き大きな屋敷を案内される。それについて行くとポラリスは嬉しそうにお日様を浴びる向日葵みたいに笑う顔が可愛くて、ずっと笑顔にしてあげようとそっと心に決めた。
「コウ!もうすぐおやつの時間だからきっとお部屋にクラプフェンがあるから一緒に食べに行こう?」
ーーーーー
「コウ、そろそろ着くぞ?」
ポラリスの声が聞こえ、フッと意識が浮上する。瞼を開けると運転席に座るポラリスがこっちを見ていた、つまらなそうにピアノを弾いていた女の子と違い、楽しげに笑う大人になったポラリスを見て今まで見ていたポラリスが過去の夢だったと悟る。
「楽しそうに寝てたけれどいい夢でも見れたのか?」
「あぁ…小さい頃の夢を見たんだ、ポラリスは覚えてる?僕達が初めてあったあの日の事」
あの頃のくるくると子犬みたいに笑いはしないけれどあの頃よりも無邪気に笑うポラリスの方が僕はずっとポラリスらしくて好きだなぁなんて考えながら聞くとポラリスはちょっとだけ眉を寄せて考える。
「小さい頃すぎてよく覚えてないけれどブランコで遊んだのは覚えてる、あとツィトローネクーヘンみたいな髪色だと思ったのも」
「あはは、お菓子みたいな髪色ってポラリスらしいね。僕もポラリスの髪の毛が蜂蜜みたいで綺麗だなあって思ったのは覚えてるよ」
「蜂蜜は嫌だ!!」
笑って言う僕に運転しながら叫ぶポラリスに面白くなってさらに笑うとポラリスもつられて楽しくなったのか口を大きく開けてケラケラと笑う。
そうして二人で笑っていると車が停車し、ポラリスが僕を連れて行きたがっていたお店に着いたらしい。
「着いたぞー!行こう!」
車から降りて大きく伸びをしたポラリスが僕の手を掴みお店に向かう、ポラリスはいつもどこかに行きたい時に僕の手を引いていく、きっとポラリスは僕がずっと側にいて一緒に時間を過ごすと思っているんだろう、僕もそうだ。
お店に入るとすぐに目に入るのがショーケースに並んだビーネンシュティッヒ、ポラリスの故郷のバニラカスタードを蜂蜜とアーモンドで覆ったお菓子。蜂蜜の嫌いなポラリスが来るなんて珍しいなぁって思った。
「ここの料理は凄くうちの料理に味が似てるんだ!」
駆け落ち同然に二人で家を飛び出してから一度も帰っていないし帰るつもりもない家の味に似てるからと僕を連れて来るあたりポラリスも心の底では家族が大好きなんだ、僕も家族は大切だけれどそれ以上にポラリスが大切で側にいてあげたかった。
あの家にいたらポラリスはきっと今のポラリスと違い家の為に生きて家の決めた誰かと結婚することになってただろう、そう考えるとあの日ポラリスが大きな荷物を背負い僕の部屋の窓を叩いたのは僕にとっては一番の正解だったのだろう。
「私はカートッフェルズッペとザウアーブラーテンにするがコウはどうする?」
「うーん、僕はツヴィーベルクーヘンとシュペッツレにしようかな」
「デゼァはクラプフェンにする」
メニューを見ながら料理を即決で決めて行き僕はどうする?と聞いてくるポラリスに少しだけ悪戯心が湧いてきてちょっとだけ意地悪をしようと決める。
「じゃあ僕のデザートはビーネンシュティッヒにしようかな?」
「えっ…」
ポラリスの嫌いな蜂蜜の使われたお菓子の名前をあげるときっとポラリスは一口もらうつもりだったんだろうけど僕が苦手な物の名前を上げたからどうしたらいいかわからなくて凄い顔をしてるのが面白くて可愛くてすぐに冗談だよって伝えると頬を膨らませ顔全体で不満を伝えてくる、そうゆう所が悪戯したくなるんたけどポラリスは気づいてないんだろうなぁ
「僕はクグロフにするよ、僕もちょっとだけクラプフェン食べたいから後で一口頂戴?」
「もちろん!」
そういうとすぐに僕の大好きな太陽みたいな笑顔を浮かべて頷く。
今日のドライブの間に見た夢を思い出させる可愛い笑顔に今日はツイていない日かと思ったけれどそうでもないみたいだと思いなおす。
ドライブ中に聞いていたリリーマルレーンみたいに僕達は決して離れる事なく、僕にツキがなくポラリスの隣に別の男が立つ事を心配せずに願わくば二人で最後まで側に居たい、そういつだって思う。ふと恋愛ごとに弱いポラリスには何の事を言ってるかわからないだろうけれど聞いて見たくてポラリスに声をかける。
「Dieses Herz, ich werde es wegnehmen, nicht wahr?」
「?」
“ポラリスの心を奪うけれど良いかな?”そう急にポラリスの故郷の言葉で言う僕にポラリスは不思議そうに首をかしげる、口に含んでいたザウアーブラーテンを飲み込みすぐに口をひらく。
「Du gehörst zu mir」
“そっちが私のものなんだろう?”そう言ってポラリスにしては恥ずかしそうに笑う顔にたまらなくなってテーブルに頭を伏せる、無邪気にこう言うことを言って来るからポラリスはずるいんだ。
まるで白昼夢みたいなポラリスと僕のこの人生がいつまでも続くことを願う。
聞いてみたらポラリスの任務で始末しなきゃいけない相手が霧属性だったらしく特攻しようとした先に固く大きな棘の付いた壁を構築されてそのままの勢いで顔からぶつかったらしい、任務が終わった直後は棘による切り傷と刺し傷のせいで出血が酷かったらしく頬の青痣はポラリスの晴れの炎で治した後に残ったものらしい。
そんな事も知らずに僕はのんびりといつもと違う任務をこなしていた…そんな僕に怒りが湧いてくる。
呆然とポラリスの頬に手を当てる僕にポラリスは呑気に笑って「気に入ってたシャツが汚れたからクリーニングに出さなきゃだな!」なんて言ってくる。
「ポラリス…あんたシャツが汚れたどころか盛大に穴空いてるだろうが!」
珍しく今日ポラリスと組んだヨハン君が衝撃的な事を言ってくる、シャツに、穴が空いた?
棘の付いた壁に勢いよくぶつかりシャツに大穴が空いたなんて考えられる状況なんて一つしかない。
そんな大きな棘がポラリスに刺さったとしか考えられない、痛かったろうにポラリスはなんで笑ってられるのだろうか。
僕だって戦っているうちに痛みすら楽しくなってくる時もあるけれど、ポラリスには痛みは痛みであってほしい。
痛みがたのしみになるなんて、命を削る大きな一因だ。そんな事が笑って過ごしてしまうなんて僕は嫌だ。
「コウ?どうした?どこが痛いのか?」
頬に手を当てたまま動かない僕を心配してかポラリスがそっと僕の目を覗き込む、晴れ渡った空のようなスカイブルーの目を曇らせる、その目に浮かぶ感情の色は心配を孕んだ優しい色。
「ううん、痛そうだなって…痛くない?」
「大丈夫だ、レイテッドの炎で沈静してもらうほど痛まないしほぼ治ってるしな!」
してもらうほど痛まないって事は少しは痛いんだ、痛みを感じているポラリスが可哀想でそっと頬を撫でるとくすぐったそうに身を捩り僕の手に擦り寄る。
しばらくそうしてポラリスの頬を撫でていると呆れてように僕達を見ていたヨハン君は一つ大きなため息を吐いて部屋を出て行ってしまった、きっと書類仕事が苦手で今日怪我をしたポラリスの代わりに書類を書いて提出してくれるんだろう。
それを見送っているとポラリスが僕の手から頬を話してにんまりと悪戯っ子のような笑みを浮かべる、こんな時はきっと何か提案をしてくる時だ
「それよりコウ、出かけないか?いい店を見つけたんだ!」
「まだちょっと早くないかな、でもいいお店って?」
時計を確認し、まだディナーには早すぎる時間だと思いポラリスに聞くと「ちょっとつくまで時間がかかるのと場所は秘密だ!」と言ってそのまま僕の手を引く。
こんな時はポラリスに任せて着いて行かなかったらちょっとだけ彼女は拗ねる、その時の顔も可愛いけれど今日は痛い思いもしたし慣れない僕以外との任務だったからポラリスに任せる。
手を引かれるままについて行くと本部の地下駐車場につく、車での移動かと思いポケットのキーをそっと触れるが向かう先は僕の車じゃなくて年に一度使うか使わないかの頻度しか使われないポラリスの愛車、メルセデスベンツGクラスG500。テノライトグレーの外装をポラリスは一目惚れしたらしく“どうせ乗らないでしょうが”と反対するアオイちゃんに強請り倒して駐車場の一角を使うことを勝ち取っていた車だ。
「今日は私がドライバーだ!」
「えぇっ!?僕が運転するよ?」
「私の車なんだ、私が運転する!」
そう言ってアオイちゃんやヨハン君曰く“走る化石”と呼ばれる車の運転席に乗ってしまう、仕方なく今日はポラリスに運転を任せて助手席に乗り込む。
車のエンジンがかかりお腹に響くエンジン音を感じながら発進する車に不安を少し覚えながらポラリスを眺める、もうしばらく運転してないけれど大丈夫かなぁ…?
イタリアの石畳の道を走るドイツ製の軍用車を元に作られた車を眺める歩行者が窓から見える、行動を走るオフロード車なんて珍しいんだろう。確かに僕もポラリスの車以外で走っているのを見たらついつい見てしまうかもしれない。
車内に流れるカーステレオから流れるLili Marleenに合わせたポラリスの鼻歌を聞いてるうちにうとうとと今日の任務の疲れが出てくる
「Unsere beide Schatten
Sah'n wie einer aus
Daß wir so lieb uns hatten…」
心地よいポラリスの歌声にそっと目を閉じるとカーソファに体が沈むように意識がそっと遠くなる
ーーーーー
父さんの知り合いに会いに行くとドイツ様式の大きなお屋敷に連れてかれ、父さんの知り合いらしい厳しい顔をした金髪のおじさんと父さんが楽しげに話しているのを眺めていたけれど退屈になり案内された部屋を抜け出す。
みんな揃いも揃って青虫でも口に放られたように厳しい顔をした肖像の飾られた廊下を歩いてるとある部屋から途切れ途切れのピアノの音が聞こえ重たい扉を少しだけ開き中を覗く。
部屋の中は赤いカーペットの敷かれ、真ん中に置かれた黒いグランドピアノとその目の前に置かれた椅子に座る腰まで届く長い蜂蜜色の髪をを背中に流し、飛び跳ねるように楽しげに流れる音をつまらなそうに弾いている女の子がいた。
その女の子があんまりにもつまらなそうにピアノを弾いているのが不思議で見ているとピアノの音が急に止まり女の子がこっちに振り返る。
「だれ?」
きょとんとこっちを見て口を開く女の子の綺麗な空色の目が今まで見たどんなガラスよりも綺麗に見えてぼんやりと見ていると女の子は椅子から降りて僕の方に歩いてくる。
真っ白なブラウスに水色のふんわりしたスカートがひらひらと女の子が歩くたびに揺れる。
「あなただれ?」
「えっと…」
「わたし、ポラリス。ポラリス・ヴルトミュラー。あなたは?」
「僕はコウ…コウ・アーネスト」
「コウ?」
名前を教えてくれた女の子、ポラリスがもう一度聞いてくるのにやっと僕は自分の名前を言えた。ちょっとだけ僕より背の低いポラリスが僕を見上げて首をかしげる。
「なんでここにいるの?」
「お父さんについて来たんだ…けどお父さんたちの話はつまらなくて…」
「そっか、じゃあわたしと遊ぼう?」
そういうとポラリスは僕の手を握りこっちと重い扉を大きく開いて廊下を進む。
「お庭にファティのぶかの人がブランコをつけてくれたんだ、行こう?」
「う、うん」
弟達とは違うポラリスの楽しげに歩く足音を聞きながら庭に向かう、庭に植えられた一番大きな木の枝にぶら下げられたブランコが目に入りポラリスが言っていたのはこれかとわかる。
「コウはブランコ好き?」
「うん、好きだよ。弟たちとよく公園であそぶんだ」
「弟がいるの?わたしも!でもまだ小さいからお外で遊べないの、ファティもムッティも弟につきっきりでわたしずっとならい事ばっかでお友だちがいないの」
ブランコに座り少しだけつまらなそうに言うポラリスがあまりに寂しそうで
「じゃあ、僕がお友だちじゃダメかな?」
「えっ?」
「僕がポラリスのお友だちになるよ、弟もいるしいろんな遊びかたしってるし僕がポラリスと遊ぶよ!」
「ほんとう?うれしい!」
はげますように僕が明るく言うとポラリスはパッと顔に笑顔を浮かべて抱きついてくる、それを受け止めた衝撃でそのまま尻もちをつくと僕の膝の上にのったポラリスが慌てたように謝ってくるのを笑って大丈夫だと伝えると、ポラリスはクスクスと笑い、その笑った顔に楽しくなり僕もクスクスと笑う。
立ち上がったポラリスは僕の周りをくるくると走る。
「お友だちなんてはじめて!コウ!あっちにわたしがうえたチューリップがもうすぐ咲きそうなの!一番最初に見せてあげる」
「あっちには子猫が来るの!だれにもナイショでミルクをあげてるんだけれどコウには教えてあげる!」
くるくると子犬みたいに僕の手を引き大きな屋敷を案内される。それについて行くとポラリスは嬉しそうにお日様を浴びる向日葵みたいに笑う顔が可愛くて、ずっと笑顔にしてあげようとそっと心に決めた。
「コウ!もうすぐおやつの時間だからきっとお部屋にクラプフェンがあるから一緒に食べに行こう?」
ーーーーー
「コウ、そろそろ着くぞ?」
ポラリスの声が聞こえ、フッと意識が浮上する。瞼を開けると運転席に座るポラリスがこっちを見ていた、つまらなそうにピアノを弾いていた女の子と違い、楽しげに笑う大人になったポラリスを見て今まで見ていたポラリスが過去の夢だったと悟る。
「楽しそうに寝てたけれどいい夢でも見れたのか?」
「あぁ…小さい頃の夢を見たんだ、ポラリスは覚えてる?僕達が初めてあったあの日の事」
あの頃のくるくると子犬みたいに笑いはしないけれどあの頃よりも無邪気に笑うポラリスの方が僕はずっとポラリスらしくて好きだなぁなんて考えながら聞くとポラリスはちょっとだけ眉を寄せて考える。
「小さい頃すぎてよく覚えてないけれどブランコで遊んだのは覚えてる、あとツィトローネクーヘンみたいな髪色だと思ったのも」
「あはは、お菓子みたいな髪色ってポラリスらしいね。僕もポラリスの髪の毛が蜂蜜みたいで綺麗だなあって思ったのは覚えてるよ」
「蜂蜜は嫌だ!!」
笑って言う僕に運転しながら叫ぶポラリスに面白くなってさらに笑うとポラリスもつられて楽しくなったのか口を大きく開けてケラケラと笑う。
そうして二人で笑っていると車が停車し、ポラリスが僕を連れて行きたがっていたお店に着いたらしい。
「着いたぞー!行こう!」
車から降りて大きく伸びをしたポラリスが僕の手を掴みお店に向かう、ポラリスはいつもどこかに行きたい時に僕の手を引いていく、きっとポラリスは僕がずっと側にいて一緒に時間を過ごすと思っているんだろう、僕もそうだ。
お店に入るとすぐに目に入るのがショーケースに並んだビーネンシュティッヒ、ポラリスの故郷のバニラカスタードを蜂蜜とアーモンドで覆ったお菓子。蜂蜜の嫌いなポラリスが来るなんて珍しいなぁって思った。
「ここの料理は凄くうちの料理に味が似てるんだ!」
駆け落ち同然に二人で家を飛び出してから一度も帰っていないし帰るつもりもない家の味に似てるからと僕を連れて来るあたりポラリスも心の底では家族が大好きなんだ、僕も家族は大切だけれどそれ以上にポラリスが大切で側にいてあげたかった。
あの家にいたらポラリスはきっと今のポラリスと違い家の為に生きて家の決めた誰かと結婚することになってただろう、そう考えるとあの日ポラリスが大きな荷物を背負い僕の部屋の窓を叩いたのは僕にとっては一番の正解だったのだろう。
「私はカートッフェルズッペとザウアーブラーテンにするがコウはどうする?」
「うーん、僕はツヴィーベルクーヘンとシュペッツレにしようかな」
「デゼァはクラプフェンにする」
メニューを見ながら料理を即決で決めて行き僕はどうする?と聞いてくるポラリスに少しだけ悪戯心が湧いてきてちょっとだけ意地悪をしようと決める。
「じゃあ僕のデザートはビーネンシュティッヒにしようかな?」
「えっ…」
ポラリスの嫌いな蜂蜜の使われたお菓子の名前をあげるときっとポラリスは一口もらうつもりだったんだろうけど僕が苦手な物の名前を上げたからどうしたらいいかわからなくて凄い顔をしてるのが面白くて可愛くてすぐに冗談だよって伝えると頬を膨らませ顔全体で不満を伝えてくる、そうゆう所が悪戯したくなるんたけどポラリスは気づいてないんだろうなぁ
「僕はクグロフにするよ、僕もちょっとだけクラプフェン食べたいから後で一口頂戴?」
「もちろん!」
そういうとすぐに僕の大好きな太陽みたいな笑顔を浮かべて頷く。
今日のドライブの間に見た夢を思い出させる可愛い笑顔に今日はツイていない日かと思ったけれどそうでもないみたいだと思いなおす。
ドライブ中に聞いていたリリーマルレーンみたいに僕達は決して離れる事なく、僕にツキがなくポラリスの隣に別の男が立つ事を心配せずに願わくば二人で最後まで側に居たい、そういつだって思う。ふと恋愛ごとに弱いポラリスには何の事を言ってるかわからないだろうけれど聞いて見たくてポラリスに声をかける。
「Dieses Herz, ich werde es wegnehmen, nicht wahr?」
「?」
“ポラリスの心を奪うけれど良いかな?”そう急にポラリスの故郷の言葉で言う僕にポラリスは不思議そうに首をかしげる、口に含んでいたザウアーブラーテンを飲み込みすぐに口をひらく。
「Du gehörst zu mir」
“そっちが私のものなんだろう?”そう言ってポラリスにしては恥ずかしそうに笑う顔にたまらなくなってテーブルに頭を伏せる、無邪気にこう言うことを言って来るからポラリスはずるいんだ。
まるで白昼夢みたいなポラリスと僕のこの人生がいつまでも続くことを願う。
たると