※性描写有り


多分、この男が見てるのは違う人で抱いている感情は綺麗なものではない。右腕という立場同士、ただそれだけの関係だった筈が、いつのまにかこうして素肌同士を合わせて貪るようにお互いを求める関係になった。ただこの関係は恋人同士なんて甘ったるいものではなくて、ただ持て余す熱をぶつけ合う行為でしかない。

「っ、あ…ふ、んん、!」
「…っ、もう少し、力を抜け。」


しっかりと抱えられた両脚、咥え込んだ熱。漏れる吐息を殺そうとすれば自然と体に力が入り男を痛い程に締め付けてしまう。眉間に皺を寄せたその表情は普段見る事はないからつい見入って居れば視線に気が付いた男は意地悪く口端を釣り上げ笑う。見惚れた?と言わんばかりの顔に腹が立って、でも否定は出来ないから顔の向きごと視線を逸らして無言を決め込む。でもそれは肯定を意味する行為で、結局無駄な事とは知っている。

「い、から…動きなさ、よ…っ」
「怒るなって。」

優しく太腿を撫でる癖に、いつだってこの男が私に与える快感はいっそ暴力的だ。視界が真っ暗になるのにチカチカと輝くあの感覚はいつまでも慣れなくて、必死に唇を噛み締めて声を殺す。大きな動きで揺すられると奥にまで入り込んで来るから苦しい筈なのに嫌ではない。手慣れたように女を抱く。その事実は胸を締め付けるような痛みを齎すのにこの関係はいつまでも続いているからいっそ楽にして欲しいとすら思う。馬鹿みたいだ、でも一時だとしても求められるとそれに抗えない。

「ふ、ンぅ…っあ!」

思考を奪う律動、ギリギリまで引き抜いて焦らすように浅い場所を擽ったかと思えば奥まで入り込んでもっと先を抉じ開けんばかりに先端が奥に押し付けられて腹の奥が熱を生む。じわりと滲んだ視界、涙が拭われる事はない。ナカで脈打つ塊にはやく、と急かせばまた笑う。

「もっと、って?」
「ちが、も…つかれ、た…!」


この無意味な行為が始まってから約三時間、明るかった空はいつのまにか太陽が落ちて暗くなっている。何度絶頂を迎えたかももう覚えていない。底無しだと言いたいがこの男はただ単に長くて遅いだけだ。ねちっこい程の前戯、息も絶え絶えになり強請らないと決して挿入には及ばない。だがいざ挿入、となってもそこからが長い。分かっている筈なのに心地良い体温に結局毎度のように何時間と肌を合わせている。

仕方ない、とでも言わんばかりに一つ吐息を吐き出したかと思えば脚を掴んでいた手が腰に回る。やっと終わるらしい。ただ、この最後がどうも苦手だ。捕らえられて抵抗が出来ないこの状況は酷く苦手、というか嫌いで仕方ない。どうせもう体に力は入らないから抵抗もなにもないのだが力の差を見せつけられるようで気に入らない。だがこれ以上続いても地獄なのは分かっているからシーツを手繰り寄せて握り込む。性を知らしめる下品な音が部屋に響く、私の嬌声を掻き消す程に。

「や、あ…っあ!ひ、う、はっ…あ、あ!」
「っ、…は、」

僅かに漏れた声、と同時に薄い膜越しに感じる熱。肩で息をする私に比べて男は多少の息の乱れ程度でそれにも腹が立つ。ゆっくりと引き抜かれ、それすらにも小さく体を震わせるが男は気にならないようで慣れた手つきでスキンを外してティッシュに包んでゴミ箱に放り投げた。


「……毎度の事だけど、長い。」
「気に入らなかったか?」
「明日に支障出るからもう少し短くして。」

男は笑う。そしていつものように煙草に手を伸ばして深みのあるジッポを手にしてカチャン、と音を響かせて煙を吸い込む。腰から下がだるい、というか重い。緩慢な動きとは自覚しているがやっとの事で起き上がり、シーツを胸元まで引き上げてベッドサイドに置かれたペットボトルに手を伸ばし水を口に含む。喘ぎ過ぎたせいか、喉が渇いている。こくん、と水を飲み込めば潤いを経てやっと一息。


男、ジュゼッペ・ミケールはうちのファミリーの同盟相手であるアローロファミリーの右腕とされる男である。初めて会話した時から食えない男だったが、話して見れば案外誠実な面もある事を知った。ボスを第一と考えるのは一緒だったし頭脳派であったこと、人当たりの良い笑顔を見て絆された部分も少なからずある。ある時、ボス二人で話をするとなってこの男と扉の前で居た時の事。唐突に持ちかけられ、それからこの関係は始まった。今思えば手を出しやすい対象ではあったのだろう。まだ性に疎い、同盟先の右腕の女。どこまでが計算なのか、そんな事は今更考えない。男の中では全てが計算なんだろうから。

知らない快感に恐怖すら覚えた私を懐柔するのは赤子の手を捻るよりも簡単だっただろう。白い物を汚す、少し歪んだ喜びをきっと覚えたのだ。否、元からそういうのに興奮を覚える性質でもあったんだろうけれど。時間と都合さえ合えばこうして私たちは体を重ねる。そこに愛や情なんて物もないし必要無い。ただの熱の発散。


キスはしない、手も繋がない、痕のひとつも残さない。どちらが提示したわけでもない暗黙のルール。名前すら呼ばないなんていつもの事となった。それに不満なんてない。私たちは所謂セックス・フレンドで、共犯者。足元を掬われる訳にはいかない。気を許してはいけない、ファミリーを破滅さける気はさらさらないのだ。だからこのままでいい。気紛れにセックスをしているだけで良い。


「……所詮は、穴と棒。」
「セックスが終わった直後のセリフとは思えんな。」
「間違ってはないでしょ。」

ちゃぷん、ペットボトルの中で水が動く。

「……キスの一つでもするか?」
「やめて。意味のない行為よ。」
「君とじゃピロートークもままならないな。」

情緒がない、と男は言う。そんなものは不必要だ。愛を確かめ合ってちゅっちゅらやる関係なんかじゃないのは今に始まった事ではないだろう。馬鹿なの?と視線だけで訴えると男は楽しげに煙を吐き出す。煙い。

「ベッドの中じゃあんなにしおらしいのに。」
「抵抗したところで捩伏せられるのだから無駄な体力よ。」
「偶にはベッドの中以外でも可愛くあってほしいんだがね。」
「あら、それは残念ね。」


色々な体液が肌に纏わり付いて気持ち悪い。意味のない言葉の往復にも嫌気が差してきたしさっさとお風呂に入ってこの部屋から出よう。だるかった下半身にも多少は力が入るようになってきたのでペットボトルをベッドサイドに置き立ち上がる。

「それにしても最近の子は発育が良い。」
「ひゃっ!どこ触ってんのよ…!」
「さっきまでもっと恥ずかしい場所を触っていただろう?」


いつのまにか立ち上がったのかふにり、と胸を背後から揉まれる。無駄な脂肪に食い込む指先。先程までの行為のせいか些細な刺激にも甘い痺れが走るから思わず体の力が抜けてしまいそうになる。赤く熟れた突起を指先が弾いて反射的に声が漏れ、男はそれに満足気で腹が立つ。抵抗したくとも背後から抱え込まれてしまい動きに制限があるせいか上手く逃げられない。男の右手が腹を滑り、膣口に触れるとくちゃ、と水音がしてカッと顔が熱くなる。

「感じた?」
「ちが…っ、さっきのが…!」
「……ほら、油断するから。」

ぬる、と湿り気を帯びた指先が陰核に触れて優しく押し潰され、引き攣ったような声が出た。脚を閉じようとするけど相手の方が一歩早い。強制的に脚を僅かに開かされて好き勝手弄られる。いっそ強引に事を進められれば痛みから暴れる事が出来るのに、触れる指先はあくまで優しく快感のみを与えてくるから力は抜けていく一方。膝が笑う、どこかに快感を流したいのに縋るものもない。必死に指を噛んで耐えようとするもいとも簡単に両手首を片手で封じられてしまう。

「も、やだ…って、ば…あっ!」
「君がもう一度達すれば終わるさ。」
「んと、さいて…ぇ!」

悔しいけれど相手は百戦錬磨、挙句に私の体を作り変えたのはこの男。この男に与えられる刺激を快感と認識しているこの体では分が悪すぎる。達してしまえばこの刺激から解放されるのは頭では分かっていても立ったままというこの慣れない体勢では上手く達する事が出来ない。なのにじわりじわりと追い詰められる。どうしていいか分からずにぼろぼろと勝手に涙が出る。拭ってくれない事は分かっているけど、仕方ないのだ。

「……まだ、むり、っ」
「まだ?」
「ひ、う…っこの、たいせ、むり…ぃっ、」

ふるふると首を振って抵抗を示すけど男は笑うだけだ。まだ初めてがあったか、と。いい趣味してるよ、本当に。

「……もうこっちの方がイけるかもな?」
「や、だ!そっち、やだぁ…って、!」

ぐちゃぐちゃに濡れそぼった穴に指が入り込んだ。嫌だ、この指がナカを弄るのが嫌だ。それは、もう、だめ。制止の声なんて聞いてくれなくて男の指は一寸の狂いもなく私の弱い場所へと触れる。ぐ、と押されると喉が反って耐えきれない程の波が押し寄せる。とん、とんと一定のリズムでソコを叩かれると思考が鈍って一つの感情が頭を占めて冷静な判断なんて出来ない。

「ほら、アオイ。」
「やだ、やっ、あああ!」

耳元で掠れた声で名前を呼ばれて、ぐい、と押し込まれる。その刹那、目の前が弾けて体が強張り、そして弛緩してがくりと体の力が抜けた。男は難なく私の体を受け止めてそうして楽し気に笑う。短い間隔で息を吸い込んで吐き出す。

「上手くイけたじゃないか。」
「ほんと、さいて…っ、」


今度こそもう力が入らない。立ったままは駄目だ、なんてどこか冷静な頭で考えた。ていうか指先だけの刺激なら兎も角、名前呼ばれた瞬間に達してしまったのがなによりも屈辱だ。まるで名前を呼んでほしいみたいじゃないか。そんな訳ないと言い聞かせながら振り返り睨みつけてお風呂、と言えば男は掴めない笑顔を浮かべて私を抱え上げてお風呂へと連れて行ってくれた。いや、あんたのせいで動けないんだから当然の報いだけどね。

熱いシャワーを浴びて色々な物を洗い流し湯船に浸かる。何故か背後を取られて抱えられるような体勢なのは気に食わないけれど抵抗するのも億劫でそのままにした。


「………あのさ、」
「うん?」
「なんで、…やっぱ何でもない。」

なんで私なの、なんて面倒な恋人のような質問を飲み込む。聞くまでもない、この男は私を懐柔してうちのファミリーとの関係を変えたいだけだ。男の崇める唯一の為のハニートラップ、それ以上もそれ以下もない。分かっている事だ。改めて聞く必要はない。

「言いかけられると気になるな。ほら、言わないともう一回だぞ。」
「っ、触るなっつの!」

する、と腹を撫でられて肝が冷える。これ以上は本当に無理。元々前線に出ている訳じゃないから底無しの体力ではないのだ、こちとら。既に気怠いで済んでいないのだからこれ以上は死ぬ、本気で。

「……なんで、こんな頻度でセックスしてんのかって思っただけよ。」
「嫌いか?」
「質問を質問で返さないで。」
「…ふむ、私も君もお互いを求めている。それだけじゃないか?」


私はあんたを求めた事なんてないっつの。たしかにセックスは気持ちいいけれど無ければそれでいい。大切なのはファミリーの存続で、同盟相手の牽制。惚れてくれなんて思った事はないし今以上の関係なんて求めるつもりは無い。だって、それって、

「私があんたの事好きみたいじゃない、やめて。」
「違ったか?」

ぎゅう、と背後から抱き締められる。耳元に吹き込まれる言葉に混ざった吐息に思わず肩を揺らしてしまう。が、言葉の意味を理解すれば出てくるのは怒りの類だ。

「何言ってんの。」
「いつも物欲しげに見てくるだろう。」
「自意識過剰よ。」


求めてなんかない。キスも、手を繋ぐのも、痕も、私たちには不必要だ。涙は拭わなくていい。だって、そうじゃないと恋人みたいじゃないか。そんなのはいらない。だって私が大切なのはファミリーで、この男も同じだ。これ以上抱える命はない。

「…君は意地っ張りだからな、自覚したくないんだろう?」
「なんの話?」
「本当に分からないのか?君は少々鈍いが馬鹿ではない筈だが。」

つい、と指先が唇に触れてなぞる。どくん、と胸が高鳴る感覚。違う、だって、そんな。駄目だ、この男に惚れたりなんかしたらファミリーが…、

「こっちを向いて、アオイ。」

なんで、逆らえない?ダメだって頭では思っているのに体が言うことを聞かない。首を動かして、男の顔を見上げればとろりと目を蕩けさせる。見たことない顔。

「良い子だ。…目を閉じて。」
「ちょ、あんた何…ッ、?」


近寄って来た顔に反射的に目を閉じれば重なる唇。薄いそれが触れると心臓が掴まれたみたいにぎゅうってして掌を握り締めると大きな手が解いて指先が絡む。触れたのはほんの数秒だったけどそれが酷く長く感じて唇が離れた瞬間、吐息を漏らす。

「んで、キス…とか、」
「不要だって?そんな顔はしていないが。」

ぺろり、と目元を舐められる。なんで泣いてる、なんて分からない。繋いだ手と喉が震えて声が出ない。やだ、こんなの…だって、これじゃあほんとに、

「やっと自覚したか。」
「っ、違う!好きじゃない!」
「本当に意地っ張りだな。」
「だって、そんな、不毛よ…っ、」


男の目当てはファミリー。あくまで私とセックスするのは手段であって目的ではない。だったら余りにも不毛じゃないか。そんな気持ちは不必要だ。初めにセックスをした相手、だから勘違いをしているだけで決して好きなんかじゃない。慣れない事をされたから戸惑っているだけ。

「アオイ。」
「やっ!」
「…好きだ。一人の男として、君を愛しているよ。」

嘘だ。そんなわけがない。だから喜んでなんかいないし胸なんか痛くないし涙なんて出てない。どんなにそう言い聞かせたって結局は無意味。けどどうやったってその言葉が本心だなんて思えない。この男が私にそんな感情を抱く筈がない、だから違う。これは只の耳触りの良い言葉、色恋営業だ。

「分かっては居たが本当に信用されないな、私は。」
「あたり、まえ…でしょ、」
「…どうしたら信じてくれる?君が願うなら努力は惜しまない。まあ、ファミリー関係は…出来ないがな。」


「……わか、な…だって、そんなの見せなかった…!」
「どうしたって君は信用しないだろう。だったら、勘違いされても良いから君の初めてが欲しかった。」
「…ボスに、言えるの。」
「そちらのボスにかい?話は通してあるが。」


待て、なんだそれ。


「君が好きだと思った時には君のボスには話をした。大切な愛娘を泣かせたら殺す、とさ。」
「…裏切らない、保証がない。」
「ハニートラップの一つだと?」
「だって、わかんないもん…。」

困った、と男は言う。立場を考えてハニートラップじゃない保証なんて一つもない。本気にして私が盲目的になる訳にはいかないのだ。これは右腕としての意地以外の何者でもない。こんな世界で保証なんて一つもない。ファミリーの幹部以外に心は許せる筈がない。それは長い間の関係あってこそで、私たちは命をボスに捧げた仲間だからであって…つまり信用は出来ない。

「……君が望むのならこの体の一つを君に差し出そう。」
「なにそれ。」
「どこでも良い。君が望むものを捧げる。」


だからなんだそれは。意味が分からない。というか差し出すってなに。目玉とか言ってこの場で抉り出されても困るし…。でも考えるより先に、言葉は勝手に漏れ出す。

「………指。」
「指?」
「左手の、薬指。」

空けておいてくれるの、と続ければ男は目を丸くして頬を緩めた。あ、その顔…一度だけベッドで見た事のある顔だ。どんな時にしてたっけ?って思って、思い出したのはたった一回、私が彼に縋った時だ。怖いと彼の手を掴んで頬を擦り寄せ縋った、あの時。自覚すれば顔が熱くなる。なにそれ、そんなの…、ずっと前から好きだったみたいじゃないか。

「君は、本当に…。」
「ちょ、なに!」
「予想外ばかりだ。」

ぎゅうぎゅうと抱き締められる。腕の中に閉じ込められて、男の心音が早くなってるのが分かる。本当に?信じても良いの?まだ信じきれなくてぐるぐると思考が巡る。こういう時に嬉しいって笑えたらきっと可愛い女の子にでもなれるんだろうけれど生憎そんなことはできやしない。じゃあ、もう、私らしく。

「…例えば、あんたが私を裏切ったら私が殺す。」
「物騒な。」
「だからジュゼッペも私を殺してね。」


愛の言葉には過激で、物騒で、甘さの一つも含まない。それでもこの世界に生きる私たちにとっては大した問題じゃない。優しく耳触りのいい言葉なんていらない。それに、他の女にしてきた行為もいらない。ただこの男が私に夢中になって少しばかり滑稽な姿さえ見れれば良い。愛は何れ憎しみに変わる。だったら、変わる前にあんたを殺してあげる。そうして残った愛だけを抱えて生きよう。

「愛してるよ、アオイ。」
「………へえ。」
「そこは私も、と返すところだろう。」
「なんのことだか。」


くすくすと二人で笑ってキスをした。さっきは分からなかったけど微かに煙草の苦味がある。とんだ男に惚れてしまったものだ。手始めに煙草でもやめさせてみようかとも思ったが存外この味は嫌いではなかったし煙草を吸ってる横顔も悪くはないからいいか、と思えてしまった。


「…アオイ、もう一回。」
「無理。」

ただ、今日はもうセックスは無理。結局この後何回目かも分からないセックスに縺れ込んで起き上がれなくなった私を見て向こうのボスが彼に対して怒っている図に笑ってしまった。そんな、特別でもなんでもない日。


きなこ