始まり、そして現在
初めてがどんなだった、そんな話しが出た。女の子だけの方が案外こう言った下世話な話しが盛り上がったりするのだから男は女に夢を見過ぎだ、なんて思うのである。
きゃあきゃあ言いながら初めてを話す友達を見ながらぼんやりと是平との事を思い出す。決して綺麗なものではない。割と最低な始まり。若さ故の好奇心とちょっとした優越感が欲しくて始めた関係。それはまだ続いて居る。
「ねえ、水樹はやっぱり彼氏とだった?」
「私?セフレ。」
え?、と固まる友人を見ながらパックのコーヒー牛乳を啜った。
中学2年の時に知り合った男はつまらなそうに机に向き合っていた。他者を拒むように鋭い目で相手を見て、冷たい言葉で突き放す。その癖なんだか寂しそうに見えて興味が湧いた。通り過ぎ様、発した言葉は決して可愛げのある言葉ではなくて。怒りと困惑を含んだ言葉を背中に受けながら屋上へと足を進めた。着いてくる足音に少しの笑みが漏れて迷いなく屋上の扉を開いて後ろを振り返った。
「あれ、着いて来たんだ?」
「売られた喧嘩は買う。」
「やだな、喧嘩なんて売ってないよ。率直な感想だったのに。」
不快そうに顔を歪める癖に立ち去ろうとはしない。酷く真面目そうにして居るくせに始業開始のチャイムには意識を取られていないらしい。遊ぼうよ、無意識に紡いだ言葉に男は意味が分からない、と言った。別に何がしたいだとか、そんなのはなかったけれどつまらなそうだから、私もつまらないから。ただそれだけ。
「ねえ、一緒に悪いコトしよーよ。」
「断る。そんな事を親が許すわけない。」
「あはは、全部に親の許可がいるの?」
おいでよ、と手を伸ばした。まだ屋上には入っていない。引き返すのなら今だよと。逃げ道だけは用意してあげよう。だから自分で選ぶと良い。男は少し考えるように黙って居たけれど結局頭を乱暴に掻いて私の手を取った。思い切り引っ張ってそうして屋上へと二人で踏み入れた。
それから約2年、同じ高校に入って、砕けた関係になって、暫くして周りの人間たちの初体験を耳に挟んだ。私達はぼんやりとそれを聞いて居て、くだらないなんて言い合った。でも私達は確かに多感な年頃で。頭にこびり付いたその好奇心と興味を忘れられずに居た。だから、誘った。
「ねえ、是平。セックスしてみない?」
「はあ?」
あの日と一緒の屋上。変わったのは制服と関係性。でも私の突拍子のない発言にはまだ慣れていない是平。目を丸くしている是平に言葉を続けた。興味があるの、と。そして追い討ちを掛けるようにいつまでも処女で居たくないし、なんて続ける。是平は納得したようだった。
「…まあ、いつまでもというのは…。」
「でしょ?誰でも良いけど後腐れ悪いのとか面倒なのとかやだし。是平なら一回ヤったくらいで気不味いとかなさそうだしさ。」
「お前は少しくらいオブラートに包めないのか。」
ふふふ、って笑っていると是平は諦めたみたいに一つだけ溜息を吐き出した。それは多分了承の意で、結局是平にだって好奇心の一つや二つあったんだと思う。だから許した。それに是平って神経質そうだからそこら辺の女で、とか無理そうだしウィンウィンじゃない?何時頃どこで、なんて話してる内に面倒になってきた。
「今から行こうよ。」
「……構わないが、制服じゃ入れないだろう。」
「一回帰ってまた駅で集合すればいいじゃん。緩いとこ知ってるからそこ行こ。」
「分かった。」
幸い今は昼休憩で鞄も此処にある。授業を抜け出したところでこの高校は気にするような人は居ないし私も是平も成績だけは良かったから出席日数だけ気にしていれば良い。午後の授業は単位も出席日数も十分に足りているから気にする必要はない。是平の腕を引いて下駄箱へと向かっている途中に菜津未先輩と長谷部先輩とすれ違う。
「あれ、水樹たちサボり?」
「面倒だから帰りまーす。」
「出席日数に問題ないならオッケー。気を付けてね。」
ひらひらと振られた手に返す。長谷部先輩がなんか言ってた気がするけど菜津未先輩が黙らせてたのが少し面白い。相変わらず頭上がらないんだな、なんて。ローファーに履き替えて一つ思い出す。
「一応軽く化粧するから少し時間掛かると思う。」
「なんでわざわざ。」
「一応って言ったでしょ。」
正直服装にだけ気を付けていれば高校生には見えないだろうとは思う。無駄に良かった発育に今だけは感謝しながら是平とくだらない話をして家へと向かった。別に私の家は誰も居ないしうちでも良かったんだけど流石に、と断られた。流石に初めて入る家でセックスするのは気が引けるんだろうな、なんて考えながら是平と一旦別れて自宅へと戻る。軽く化粧をして先日購入したばかりのワンピースに着替えて適当にアクセ類を付けて財布と携帯を鞄に詰め替え…一応下着をポーチを噛ませて鞄に入れた。お風呂上がった後、同じ下着着けたくないし。
家を出た所で玄関先に是平が居ることに気が付いた。慌てて走り寄り是平の服装を見る。未成年…には見えないな。元から落ち着いた服装を好む人だし雰囲気だって大人っぽい。分かってはいたことだけどなんとなくほっとした。
「…制服と雰囲気違うな。」
「同じだったらやばいでしょ。行こ。」
友達が言っていたホテルへと向かう。自動会計ってこういう時結構助かるなあ、なんて思いながら部屋に入る。大きなベッドと申し訳ない程度に置かれた黒いソファが目に付く。取り敢えず荷物をソファに置いて是平を見る。是平は特に興味もないようだった。
「お風呂、どうする?私入るけど。」
「僕も入る。今日は暑かったから汗を掻いた。」
「じゃあ一緒入ろうよ。時間短縮って事で。」
構わない、と言うので取り敢えず湯船に湯を張ってくだらない話をして時間を潰す。お湯が止まる音を聞いてからワンピースのチャックへと手を掛けた。そこでふと腹部に残る傷口の存在を思い出したけれどそれくらいでどうこう言う人間じゃないだろうから気にしないことにする。ワンピースを床に落とすと是平も丁度上が脱ぎ終わった所らしい。ぱち、と目が合う。
「えっと…傷がある。」
「僕もある。」
確かに是平の胸元には大きな傷があった。でもなんとなく聞くのは無粋かな、なんて考えて特に触れずに二人で風呂に向かう。是平の体は白くて細かった。
「そんな感じ。」
「いや肝心なとこは?!」
しつこく聞かれたので名を伏せて話せば友人達は不満を口にした。別に聞きたい事でもないと思うんだけど。それに肝心なとこもなにも痛かったとしか言いようがない。二人して痛みに苦しめられただけだ。でも、黙れと言われてされた口付けは…好きだった。苦しかったし痛かったけれど素肌で触れ合うのは悪くなかったし、セックスして居るときの是平の顔は好き。ただそれだけ。それだけで私達は幾度となく体を重ねたし、それは今も変わらない。
ただ一つ、変わったことがあるとすればそれは…。
「水樹、帰るぞ。」
「あ、是平。」
「ちょっと、水樹!」
「彼氏様が帰るって言うからまた今度ね。」
セックスだけの関係から恋人になったって事くらいかな。
/ きなこ