貴方の理解出来ないところ
性描写注意
目の前の端正な顔立ちをぼんやりと見つめる。視線に気が付いて居ないのか、はたまた気が付いて居るのけれど気にしていないのか。どちらにせよ見る事は許されたらしいので此方も気にせずに居ることにした。名前を呼ぼうかと思ったけれど流石に仕事中だしな、と自分に言い聞かせる。
手元のPCはもう起動していない。スリープモードになったのか画面は真っ黒で鏡のように私の顔を反射して映す。仕事中だったとは言え、余りにもやる気のない…大方同棲しているとは思えない程の格好だが是平はそんな事を気にする人ではないので特に気にしてもいないが。
繊細な手付きで宝石に触るから何だか少しだけ嫉妬してしまいそうになる。あんな風に優しく触れるのは私だけで良いのになあ、なんてぼんやりと考えているとぱちん、と視線が合った。綺麗な緑が私を捉える。眉間の皺さえ無ければ怖がられたりしないのに勿体無い。でも私以外の女が是平に擦り寄る必要は無いから私としては有難いのだけれど。なあに、と問うた声は思ったよりも甘ったるくてオンナの声だと自分でも分かった。是平は少しだけ目を丸くしたけれど手に持っていたよくわからない名前の道具とこれまたわからない名前の石を机に置いた。
「仕事は良いのか。」
「今日はもう終わり。コーヒーでも入れてこようか?」
あくまでお互いの仕事の邪魔はしない、当然だけどそれが私達の暗黙のルール。だからこそ一応仕事中は大人しくしていようとは思っているのだ。私の仕事は別に人に迷惑は掛けないし期日もある程度の余裕があるが是平はそうじゃない。散々脳裏に過った我儘たちを飲み込んで極力いつも通りを心掛けておく。
「…コーヒーは貰うが僕ももう終わる。」
「そ?じゃあ持って来るね。」
目は口ほどに物を言う、とでも言うのか。でもどっちでも良い。構ってやると彼なりに言っているのだから喜んでその誘いに飛び込もう。立ち上がりキッチンへと向かう。仕事前に用意していたコーヒーはまだ温かく、そのままマグカップへと注いだ。暑過ぎると体調を崩す是平の為に部屋は冷房が常に効いているからせめて飲み物だけは、と約束したのはどれくらい前だったか。込み上げた笑いをそのままにリビングへ戻りマグカップを差し出せば不思議そうに首を傾げる。何でもないよ、とだけ簡潔に伝えて正面から隣へと席を移動し、ソファーに腰掛けた。
ふとマグカップを持つ手の傷口が視界に入る。元々は酷い跡にもならなかった筈のそれを酷く歪にしたのは他でもない私だ。塞がらない傷に歯を立てて、消えない跡へと変えたのは私の我儘で独占欲。それでも呆れもせずにその手を差し出した是平はやっぱり分かり難い彼なりの愛情なのだから私はこれ以上にない優越感に浸ることが出来る。私以外に傷なんて付けられないで、なんて無茶っぷりすら律儀に守ろうとするのだから大概この男も私を愛しているんだからお似合いなんじゃないか、とまた笑えた。
「ねえ、これからの予定は?」
「特に無い。お前は?」
「なーんにも。」
マグカップを置いたらそれは合図。向き合う様に膝に乗り上げて首に腕を回す。是平がなんの戸惑いもなく私の腰に手を添えるのを確認して薄い唇へと唇を触れさせる。子供みたいな触れるだけの口付けを何度も繰り返す。物足りなくなって来た頃に唇を薄く開いて舌先を合わせ、絡めては遊ぶ。やっと離れた頃には私の息は上がり、是平も僅かにだが肩を揺らしていた。至近距離で目を見つめ合う。是平の掌が頬を覆って、傷口の少し荒れた部分が触れるとやけに興奮した。顔を背けて傷へと舌を這わせる。唇で食み、甘く噛み付くと興奮したのか、それとも焦らされてるとでも思ったのか是平の手が強く引き寄せ一気に距離が詰められた。
「噛むな。」
「痛かった?」
「痛くはない、が…。」
言葉を詰まらせた是平を他所に目の前にある形の良い耳殻に口付ける。リップ音を立てれば呆れた様な溜息が聞こえて腰を支える手が内腿へと触れた。擽ったいような、でも気持ち良いような。ぞわぞわして落ち着かない感覚に堪らず声が漏れた。なぞるだけの手付きは焦ったくて、もっと深くにまで触れて欲しいと思ってしまう。何年もかけて教え込まれた快感を求めて脳が馬鹿になっていくみたい。堪らず腰を揺らす。
「やだ、触って…、よ。」
「まだ駄目だ。」
上下に動く指先に身を捩るけれど動きは止まらない。熱の篭った吐息が漏れるけれど是平は意地の悪い顔をしたままで続きはしてくれないみたいだった。こんな日に限ってショートパンツを選択した自分を責めたいのと同時にスカートだったら不味かったとも思う。何がとは言わないけれど。なんて考えている間に是平の手がパーカーのジッパーに伸びる。待ち侘びたそれを与えられるかと期待したがゆっくりと下ろされるのを見てまだこれは続くらしい、と働かない頭の何処かで残酷な警告を受ける。
「…下着はきちんと付けろといつも言っているだろう。」
「着て、る…それブラトップだもん。」
ブラトップがよく分かってない是平の手を掴んで無駄な成長を遂げた胸に触れさせた。掌の柔らかな肉の間の僅かな違いに気が付いた是平が納得したような声を出した。食い込む指先からなんとなく目が離せなかったけれど是平から口付けられて目線どころではなくなり、物足りなさだけを感じながら必死に堪えた。私ってこんなに欲深かったっけなあ…とも思うけど一度与えられてしまえばまた欲しい願う気持ちは当然の真理だと言い聞かせる。美味しいと思った食べ物がまた食べたくなるようなものだ。どちらとも三大欲求に属するのだから一緒だろうし。
不意に是平の掌が服の中へと滑り込み柔肉を掴んだ。口付けと考え事に夢中になっていたせいで必要以上に驚いて唇を離した瞬間に敏感な部分へと指が触れた。
「っ、あ」
「欲しかったんだろう?」
「欲しか、った、けど…ぉ、」
相変わらず内腿に触れる指はそのままだ。思わず腰を揺すり浅ましく強請るけれど足の付け根を触れるだけ。そんなに傷口噛むの駄目だったのか、次回から気を付けよう。
おねがい、と甘ったるい声で強請る。背を丸めて是平の首筋へと擦り寄ってうわ言のように繰り返すと是平は笑った。相変わらず加虐性の強い事で。でもそんな男が好きなのだから私は余程の被虐性なのかもしれない。焦らされ続けて今頃下着は目も当てられない惨状だろうけれどそんな事を気にしてる場合でもない。是平が緩いショートパンツの裾から指を差し入れてやっと求め続けた刺激が訪れる。嬌声に気を良くしたのか、後頭部に優しく口付けられてそれだけで全てを許してしまいそう。既に思考なんて働いて居ないのだ。
「はっ、濡れてる。ローションは必要なさそうだな。」
「だって、是平が、焦らすから…っあ、待っ、いきなり…!」
熱く濡れた膣口に指を数度往復させると十分に濡れたのか中指が埋められた。短く切り揃え、整えられた爪は痛みを与える事なく的確にポイントを突く。ある程度余裕が生まれると指がもう一本追加されて掻き回すように、でも優しく荒らす。とん、と一箇所を突かれてそこだけを執拗なまでに刺激される。
「や、そこやだ、やだ…っ」
「嫌じゃないだろう。好きだろう?此処。」
ニヤついたような、加虐性を隠しもしない肉食獣みたいな目に囚われる。その表情だけで達してしまいそうなくらいその顔が好きで、堪らない気持ちになった。意図せず締め付けてしまい、是平は少しだけ眉間に皺を寄せる。大方動かせないだとかそんな事だろうと思う。自分でどうにか出来る問題でもないから諦めてとしか言えないのだけれど。
「…言ってみろ。此処、嫌いか?」
ゆっくりと押し潰され目の前が白くなる。でも誤った答えを出せばきっと責め苦は続く。意地の悪い是平は嫌いじゃないけれどこれ以上やられたらもう明日まで…下手をすれば明日も使い物にならなくなってしまう。震える喉に鞭を打ち吐息混じりに言葉を吐く。
「きら、じゃない…ぃ、…き、そこ…すき、だから、っ」
「好き、だから?」
何としてでも言わせたいらしい。昔から何かと口にさせたがるのは悪癖と呼べなくもないと思う、本当に。
「っ、きだから…も、イかせてよ…お、」
「良く出来ました。」
頬に伝った涙を優しく拭って、でもその優しさとはかけ離れた暴力的なまでの快感を一度に与えられる。一箇所、指二本、ただそれだけなのに私はもう何も抵抗出来ない。最初からする気もないけれど、一層抗えなくなった。何度も焦らされたからか呆気なく達してしまう。ぜえぜえと息を切らして肩で息をする。ぐったりと是平に寄り掛かると背中を優しく撫でられて何とか呼吸が落ち着く。靄がかった意識のまま顔を上げると是平と目が合った。
「ん?」
「ちゅう、したい…これひらぁ、ちゅう…、」
甘えた、なんて言う是平の声だって馬鹿みたいに甘ったるい。合わせるだけの口付けを幾度か交わす。もっともっと、と頭の中はそれだけになって体を密着させ擦り寄り強請ると是平は考えるような仕草を見せてそのまま私を軽々と抱え上げる。ふわふわとしたのは意識なのかそれとも浮遊感なのかもう分からない。首に腕を回して何度も是平の顔中に口付けをすると我慢しろと怒られた。こんな風になったのは是平のせいなのだから責任は取ってもらわなくてはならない。だから我慢するのは是平の方。…なんて伝えたら是平は可笑しそうに笑った。
「何を言ってる。付き合うのはお前だ。もうどうにかなりそうなのを堪えてるんだ。明日は動けない事を覚悟しておいてくれ。」
その顔はまだ加虐性が残ってたけどどっちかと言えば多分、欲情の方が前面に出て居た。嗚呼、食べられちゃうなあ…でも悪くない。寧ろ本望だとすら思う。まあ、願ったり叶ったりってやつ。
「朝まで離さないでね。」
「安心しろ、昼まで離さない。」
しまった、それは体力が持たない。前言撤回し抵抗しようかと思ったけれど是平がそんな事を聞くはずもなく、結局解放されたのは朝日が昇って暫く経った頃だった。
「…ほんとに昼なんですけど。」
「言っただろう。」
久々にこんなに長時間セックスしたなあ…と是平から水を受け取りぼやく。不満があるわけじゃないけど年甲斐もなく何度もしてしまったことに対して誰に向けるわけでもない羞恥心があるだけだ。
「誘ったのはお前だろう。」
「そうだけどさ…逆に是平はいつスイッチ入ったの?」
これは純粋な疑問だ。素直にぶつけてみると是平は目線を一旦逸らして小さく漏らす。
「……コーヒー持ってきた辺り。水樹は?」
「え、傷口見てたら…?」
暫しの沈黙。でもきっと考えてる事は一緒だろう。思わず二人で吹き出して笑ってしまった。笑いの治らないまま口付け、額を合わせた。
「お前って、」
「是平って、」
ほんと、理解できない。
でも、そこが好きなんだからほんと、笑うしかないね。
きなこ